第420話「敵の敵なら敵ではないかもしれない」(レア視点/ヨーイチ視点/レア視点)
「──人の別荘の玄関を滅茶苦茶にしてくれた者がいると思えば……。誰だ貴様は」
メルキオレがレアの姿を認め、そう声をかけてきた。
破壊した扉は見てくれたようだ。
「あれはきみの別荘だったのか。あまりにカビ臭かったものでね。健康に悪いと思って、少々風通しをよくしておいてあげたんだよ。ああ、リフォームの礼なら要らないよ。後できっちり請求するから、今は気にしなくてもいい」
「ふざけおって……!」
怒ったらしいメルキオレが早足でレアに向かってくる。
つい反射的に挑発してしまったが、別に今怒らせても何もいい事はなかった。余計なひと言だった。
視界の隅で教授が手のひらで目を覆い、大げさな仕草で天を仰いでいるのが見える。全身で「やれやれ」を表現しているその姿は、余計なひと言に対する抗議なのか、それとも別荘の玄関をバラバラにした事に対する抗議だろうか。
ただ言わせてもらえば、レアにしても考えなしに考えなしの行動をしているわけではない。きちんと考えた上で、別に考えなくてもいいかと判断して好きに振る舞っているのである。
発動していた『範囲隠伏』を解除し、メルキオレを見据えて言った。
「──そこで止まりたまえ。わたしは今忙しい。きみの相手をしている暇はない」
「なっ!? ──貴様、その力はいったい……!」
教授からの報告では、このメルキオレは『真眼』を持っている可能性があるとのことだった。
であればレアの持つ異常なLPもわかるはずだ。
メルキオレの目には今、自身と比べて雲泥の差とも言える生命力を持つ相手が見えているだろう。しかもそれが5つ固まっている。よほどの馬鹿でもなければ不用意に近づいたりはしない。
案の定メルキオレは足を止め、警戒心のこもった視線でレアを睨みつけてくる。
「貴様……! ……待てよ、神木の元にももう1人いるな……!
──贄に触れるな! どうやって神木の檻の中に入った!」
贄というのは邪王ゼノビアの事だろうか。
ゼノビアの言葉や状態から察するに、彼女はあの牢獄の中で長きに渡り命を吸われてきたようだ。贄と言えば確かにそう言えるのかもしれない。
そして神木というからには、この魔戒樹が教授が言っていた、メルキオレが信仰している対象なのだろうか。
「──お前がゼノビアをこんな目に遭わせたの?」
ジェラルディンが瞳を赤く光らせてメルキオレを睨む。
すっ、と周囲の気温が下がった。
ふと足元を見下ろすと、ドライアイスでも焚いているかのような重たい冷気が
これはジェラルディンが発しているもののようだ。わずかにだがマナを含んでいるのも見える。
ブランが使うものと同じ霧系の能力だろう。確か『吸血魔法』と言ったか。
霧を発生させる技は魔法だが、霧を利用する技はスキルであり、そのためリキャストタイムとクールタイムがかち合わないという地味に優秀な特徴を持っている。
「その目……そしてこの力! そうか、貴様が噂に聞く真祖吸血鬼だな! 人類の敵め! こんなところまでのこのこ現れてくれるとはな! ははは!」
何がおかしいのか、メルキオレは大声で笑った。
「しかもご丁寧に自分から檻に入ってくれているときたものだ! おのれの愚かしさを呪うがいい!
──そのまま捕らえよ! 神木よ!」
メルキオレの声に反応してか、魔戒樹の根が檻の中の地面の下から何本も突き出し、ジェラルディンを狙って伸びた。
しかしジェラルディンはその身を霧に変化させると、するりと根による攻撃をかわした。
真祖吸血鬼を物理的な手段で捕らえることなどできない。
ところがジェラルディンはすぐに人の姿に戻ると、その場にへたり込んでしまった。
「なに、これ……。私の力が吸われている……!?」
霧になって逃れようとしたのを見た時には驚きで焦っていたメルキオレだったが、へたり込んだジェラルディンを見て再び歪んだ笑みを見せた。
「お、驚かせおって! どうやら霧に姿を変える事ができるようだが、神木の枝を躱す事は出来ないようだな!」
物理攻撃完全無効である霧状態のジェラルディンにダメージを与えるとは、あの根は一体なんなのか。
しかもただのダメージではない。レアの眼から見る限りでは、減ったのはジェラルディンのLPだけではなく、MPもだった。そしてその分、わずかながら魔戒樹や注連縄の光が増したようにも見える。
つまりあの根は、物理攻撃に見えるが物理以外の属性を持ち、しかも与えたダメージを吸収する性質があるということだ。
『盾』で防いだ時は特に何も思わなかったが、あれにはそういう効果は無かったのだろうか。もしかしたらあの根の檻の内部でしか発動できない効果なのか。
いずれにしても『鑑定』で見えなかった部分、おそらく黄金龍の力が影響したスキルか何かだろう。
また、いつか戦ったウツボの事を考えれば、あの注連縄や金色のオーラの魔戒樹は、『魔眼』や『真眼』で見えている部分だけでは戦闘力の全てを推し量ることはできない可能性もある。
油断できない相手だ。
それにメルキオレが魔戒樹に命令したように見えた事も気になる。神木とか言いながら、まるで敬う様子がない。彼らは一体どういう関係なのか。
何であれ事態を傍観しているだけでは何の解決にもならない。
「目の前のわたしを無視して、あまり調子に──!」
その瞬間、レアの脳裏に、ヒルス王都を上空から初めて見た時の光景が蘇ってきた。
あるいは、森の中の遺跡。
そして、夜の岩城。
次々にフラッシュバックする懐かしい風景を振り払い、半ば無意識に手をかざし、飛来した矢を掴み取った。
「──また、きみたちか。懲りない奴らだな。これでいったい何度目だ。
今はきみたちの出る幕ではない。死にたくなければ邪魔をするな」
戦闘中に近い状況では知覚するのは難しいが、落ち着いてよく見てみれば壁際にわずかな違和感がある。
これは『範囲隠伏』だ。
レアが矢を掴み取ったのを見たヨーイチは『範囲隠伏』を解除し、その姿を現した。
しかしフラッシュバックしたあの光景。
かつて王都で死亡した時、レアを射貫いた最後の一矢は、もしかしてこの変態が射たものだったのだろうか。そうだとしたら。
いや、今はそれどころではない。
「おお! ヨーイチ殿にサスケ殿! 助太刀に来てくれたのだな! 見てくれ、あれが人類の敵だ! 共に奴らを討ち払い、大陸に光を取り戻そうではないか!」
***
「……だってよ。どうするヨーイチ。流れで矢を放っちまったはいいが、メルキオレの味方をすんのか? どう見てもヤバいのはメルキオレの方だぜ」
「わかっている……!」
ほんの好奇心だった。
悪いとは思いつつ、扉が無残に破壊された屋敷に入っていくメルキオレを見かけ、気になって後をつけてみた。
するとその先には、見覚えのある、そして因縁のあるレイドボスがいた。
マグナメルム・セプテムは危険だ。
ペアレ王都を破壊したあの時の姿を思えば、下手をすれば奴はひとりでこの西方大陸を破壊してしまいかねない。
なぜこの大陸に奴がいるのかはわからないが、そもそもそういう目的でやってきたという可能性もある。
プレイヤーが次に目指すべき目的地である西方大陸を、プレイヤーのほとんどが足を踏み入れる前に破壊するなど、普通に考えれば有り得ない展開だが、このゲームにおいては普通の展開など期待する方がどうかしている。
NPCもプレイヤーもそれぞれがそれぞれの事情に従って思考し、行動し、その結果として起きたことだけが残される。
その原則の前ではイベントの都合など関係がない。
それはこれまでのプレイで嫌というほど身に染みていた。
何しろ、いくつもの国家が滅びる事になった戦争の引き金を引いたのは、他ならぬヨーイチたちの行動だったからだ。
自分の行動が何をもたらすことになるのか、もっと良く考えなければならない。
プレイヤーの目の前には常に無数の選択肢がある。
例えばたった今射た矢も、本来ならもう少し早く射るべきだったのかもしれない。
何やら女性を捕らえている禍々しい樹に、メルキオレが命令を下したその瞬間に。
樹の根に捕らえられている角のある女性の肌は濃い褐色で、少なくともヨーイチたちが知る人類では見たことがない色をしている。見た事がある中で似ていると言えば、ペアレ王都でヨーイチたちを捕らえたマグナメルム・オクトーだ。
様子を見ている限りでは、セプテムが連れていた女性は捕らわれている女性を助けようとしているようだし、メルキオレと敵対している。
そのメルキオレは
普通に考えればメルキオレを助ける方が正しい。捕らわれの女性とそれを助けようとした女性はヨーイチたちの敵だ。
しかし、あの樹の禍々しさはどうだ。
うっすらと金色に光っているし、神々しいという意味では悪いものではないのだろうが、どうしても「異物である」という違和感が付きまとう。
そしてここに来て初めて気がついたのだが、あの樹と似た気配をメルキオレも放っている。
いやここにいるからこそ、その気配が増幅されているのかもしれない。先ほどメルキオレはあの樹に女性を攻撃するよう命じていた。樹が人の言葉を理解するのかわからないが、メルキオレの意志と連動しているという可能性はある。それだけ両者は近い存在だということだ。普段は隠されている気配が、同調している樹に近づく事で解放されてしまっているのかもしれない。
これほど異常な気配は、実力的に隔絶しているマグナメルムの面々からさえ感じた事はない。
何らかのスキルの効果なのか、システムが警告しているのかはわからないが、本能的に直感した。
この気配こそ、世界の敵だ。
人類の敵などという狭い話ではなく、生きとし生けるもの全ての敵である。
やはり、矢はメルキオレに射るべきだった。
一瞬の迷いが生んだ結果がこの事態だ。
とにかく足早に進行していく状況を止めなければならなかった。そのためにヨーイチが出来るのは矢を射ることだけだった。
期を逃した結果、状況を止めるためにはセプテムに射るしかなかった。
しかし、それは正しい行動ではなかった。
「──どうされた、ヨーイチ殿。さあ、早く次の矢を射てくれ。狙いは向こうの、あの金髪の女だ。あれは真祖吸血鬼と言って、ヨーイチ殿たちも知っているだろう。長らくこの大陸を恐怖に──何だと!?」
メルキオレの言葉を最後まで聞かず、ヨーイチは矢を放った。
狙いは朗々と話していたメルキオレだ。
セプテムに味方をしているから敵である。
セプテムと敵対しているから味方である。
そういう基準で行動するのは思考停止に他ならない。
ヨーイチがヨーイチの思うように行動しているのと同様に、セプテムにも彼女の思惑があって行動している。
多くの場合、それはヨーイチにとって歓迎すべき行動ではなかったが、これからも全てがそうだとは限らない。
手を組むことなど有り得ないが、必ずしも敵対しなければならないわけでもない。
少なくとも今この場において、もっとも危険なのはあの樹とメルキオレだ。
放った矢はとっさに腕を振ったメルキオレに打ち払われてしまった。
セプテムと違って掴んで止めるなどという芸当は出来ないらしい。
ヨーイチは自分のことを棚に上げ、少しおかしくなってしまった。
──その程度の腕で、中央大陸最強の災厄を敵に回そうとは。
「どういうつもりだヨーイチ殿……! 私を攻撃するなど……! 人類でありながら、人類に仇為すつもりか!」
「──俺には貴方が同じ人類だとは思えない。その禍々しい気配、俺たちが止めるべきなのは、セプテムではなく貴方のほうだ!」
***
「……ならなんでわたしに撃ってきたんだ」
メルキオレを止めたいと思っているのなら、彼らがするべきなのは回れ右をしてこの場から去る事だ。
彼らが余計な事をしなければ、今ごろメルキオレはレアの攻撃で吹き飛ばされていたはずである。
メルキオレを危険な存在だと看破したその勘の良さは褒めてやってもいいが、それ以外には褒めるべきところはない。
しかし、見れば前回会った時よりずいぶんと能力値も上昇しているらしい。レアからすれば大した違いでもないが、今の彼らならメルキオレ相手であればほんのわずかな時間稼ぎくらいは出来るかもしれない。
メルキオレが彼らの方に怒りを向けている今のうちに、ジェラルディンとゼノビアを回収した方がいいだろう。
「──ジェリィ。立てるかい? ゼノビアは……、これは──」
「レアさん、どうしましょう! ゼノビアが、ゼノビアの命が!」
ゼノビアは金色に光る根によって、長い間魔戒樹に縛りつけられていた。
そして今も解放されていない。
本人の言葉からすると、この根はゼノビアの命を吸い取る効果があるらしい。先ほどジェラルディンを襲った攻撃の事も考えると、吸っているのは生命力とマナだろう。
しかし似たような状況なら経験がある。
吸われ続ける生命力に対して拮抗するペースで回復し続けてやれば、対象は死ぬことはない。
「『
ところがゼノビアに対して放ったレアの魔法は、檻に入るとたちまち霧散し、マナに還元されて檻に吸収されてしまった。
檻の効果か魔戒樹のスキルかはわからないが、魔法を吸収する能力があるようだ。
直接触れて『治療』で回復するにしても、レアでは檻の中まで手が届かない。
ゼノビアの命を繋ぎ止めるためには、まずはこの檻を破壊するしかない。
しかしそんな悠長な時間は残されていなかった。
戦闘が始まった事で魔戒樹が吸い上げるペースが跳ね上がったのか、あるいは今の『大回復』が悪い方に影響してしまったのか、ゼノビアに残されている命の光はみるみるうちに小さくなっていき──
「……ジェリィ……、ごめん、さよなら……」
「ゼノビア! ゼノビア!」
死にゆく友人に縋りつくジェラルディンの姿には、出会ってまだ日が浅いながらも胸が締め付けられる。
「ゼノ──! ……ああ……」
そして邪王の命の灯火が完全に消えた。
同時に他の檻で命を吸われていた眷属らしき者たちも死亡した。やはり邪王の眷属だったようだ。
「ううう……。ううううー……!」
声を殺して泣くジェラルディンに、かける言葉が見つからない。
だが、いつまでもそうしているわけにはいかない。
獲物を失ったあの根が次はジェラルディンやレアを捕らえないとも限らない。
そうやすやすとやられるつもりはないが、邪王ともあろう存在が長い間何も出来ずに捕らえられ続けていたような檻だ。魔法吸収の他にも脱出しようとする者に強力なデバフを与えるとか、そういうよくわからない性質を持っていたとしても不思議はない。
檻の中からジェラルディンを引っ張り出しながら、システムで現在時刻を確認しておく。
本能的な行動なのか、檻を抜ける際に勝手に霧化し、檻から出たら戻ったジェラルディンを小脇に抱えるとひとまず魔戒樹から距離をとった。
「──ジェラルディン。厳しい事を言うようだけれど、泣いている場合じゃないよ。ゼノビアの事を思うのなら、今はあの魔戒樹を倒してしまう事が先決だ。時間は限られている」
「そうはさせぬぞ!」
メルキオレだ。
ヨーイチたちの姿は見えない。倒されてどこかにリスポーンしたのだろう。
せめて魔戒樹をレアが始末するまでは生きてメルキオレの相手をしておいて欲しかったのだが、そうそううまくはいかなかったようだ。
やはりLPやMPからではメルキオレの実力を推測するのは難しい。
「ダメ元だけど、『鑑定』。……やっぱり駄目だな。ほとんど見えない」
見えたのは名前と一部のスキルだけだった。能力値はすべて文字化けしている。これなら魔戒樹の方がまだマシだった。
「せっかくこの私が目をかけてやっていたというのに、なんと愚かしい者どもだろう! まあいい、愚か者どもはもう始末した! 次は貴様らだ!
──おお! 忌々しい人類の裏切り者、邪王ゼノビアは吸い尽くしたか! よくやったぞ神木よ! これだけの力があれば──」
「っ! お前! お前がァ!」
メルキオレの言葉に、腰に抱えたジェラルディンが激昂した。
「ちょっと! 暴れないで! あんな雑魚放っておいて、とりあえず先に片付けないといけないのはあっちの樹の方──」
「雑魚だと!? 人類の守護者にして先導者たるこの私に対して、なんという! だがそのような大口が叩けるのもこれまでだ!」
「うるさいな! きみには話しかけてないよ!」
ここには自己主張の強い者しかいないのか。
それで思い出したが、そういえば彼は何をしているのだろうと教授を探すと、岩陰に隠れて様子を窺っていた。
確かに戦闘の役に立つタイプではないが、もう少しこう、何かしてほしい。
「──見よ! これこそが我が主に賜った力! そして愚かなる裏切り者どもから取り戻した人類の力だ! さあ来るがいい神木よ! 時は満ちた!」
メルキオレは両手を広げて天を仰いだ。
天と言ってもここは地の底である。上を見ても岩の天井と魔戒樹の幹しかない。
しかし、メルキオレが見ていたのはまさにその魔戒樹の幹だった。
魔戒樹から伸びた枝がするりとメルキオレを掴み、そのまま引き寄せる。
そしてメルキオレは枝と共に魔戒樹の幹に沈んでいく。
非現実的な光景に目をこするが、幻でも見間違いでもない。
すると不意に地面が揺れ始めた。メルキオレを取り込んだ魔戒樹が全身を震わせているのだ。
「──ここは崩落するぞ! 早く逃げた方がいい!」
やけに遠くから教授が叫んでいる。
「教授だけ逃げなさい! わたしは──、まだすることがある!」
崩れ、落ちてくる天井を躱しながら、変異していく魔戒樹を観察する。
気にかけていた根元はどうやらそれほど変化しないようだ。魔戒樹自身が盾になり、崩落に巻き込まれる様子もない。
しばらくすると、瓦礫の雨が止んだ。
天井がすべて崩れたのだ。
と言っても空が開けたわけではない。上にもうひとつ岩の天井が見える。その天井の中心部には穴が空いており、そこからわずかに空が垣間見えた。
地底王国ケラ・マレフィクスと繋がったらしい。
見れば、落下した瓦礫の中には加工された石材や彫刻のほどこされた柱のようなものもある。上にあった城部分はすべて崩れてしまったのだろう。魔戒樹は城の中心部を貫いていたと考えられるから、それが動けば当然こうなる。
そして地底王国の天井にまで穴が空いているということは、魔戒樹の天辺は地表にまで到達していたということらしい。
もしかしたら以前、空を移動する際に荒野で見かけた謎の枯れ木は魔戒樹の一部だったのかもしれない。
あの時ちゃんと近づいて『鑑定』していれば話はもっと早かったのだろうか。いや、あの時点では枯れ木になど何の価値も見出せなかった。今更言っても仕方がない。
そして舞い上がる砂埃の中から、蠢く巨大な樹が姿を現した。
サイズとしては、先ほどよりひと回りは小さくなっているだろうか。
しかし、その内包した力は魔戒樹とメルキオレだったころとは比べ物にならない。
『鑑定』しても名前しか見ることが出来なかった。しかし名前でも見えるということは、完全な黄金龍の端末というわけではないのだろう。
幹の中ほどにはメルキオレの顔がレリーフのように浮かび上がっていた。
しかも何故か逆さまにだ。
黄金の放つ異質な気配にその意味のわからない外見も相まって、見る者を不安にさせる雰囲気を醸し出している。
魔戒樹に取り込まれる直前、メルキオレは裏切り者どもから取り戻した人類の力とか言っていた。
裏切り者というのが邪王とその眷属たちのことだとしたら、それはどういう意味なのか。
邪王と言えばライラだが、ライラも邪王になるために相当な数の同族をキルしたはずだ。彼女は別に邪王になりたかった訳ではないが、あれほど邪悪では邪王にならない方が難しい。
裏切り者というのがその事を指しているのだとすればわからないでもない。確かに転生のために同族を大量に殺したのなら、それは人類の裏切り者と言って差し支えない。では取り戻した力とは。
「……まさか、経験値、か? あの檻は獲物の経験値をも吸っていたとでも言うのか!」
捕まるとレベルロストする攻撃ということだ。
大昔のゲームにはそういう攻撃をしてくるエネミーもいたと言うが、このゲームでそんな事をされてはたまらない。
しかし、そう考えればしっくりくる。
邪王たちから吸い上げた経験値を己の物とし、その力を使い合体してパワーアップした。
それがこの目の前の怪物──【黄金怪樹 サンクト・メルキオール】なのだ。
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