第361話「満足させてくれた人用のご褒美」(ジャネット視点)





「あのー。ご飯作りましたけど、食べれますか?」


「うう……。ぐす……。ああ、食べるよ……、ありがとう……」


 いつもの通りアリソンが食事を用意し、それをみんなで食べた。

 聖教会の──元聖教会の主教である、ベラも一緒だ。泣いているのが彼女である。


 食事は普段なら出来合いのものを買ってくるのだが、先立つものが心もとなくなっている。

 このところしばらくはまともな傭兵活動をしていないからだ。

 『変態』で形態変化をするたびに勝手に破損する服や鎧の修復にも金貨が必要になるし、日々の食事やポーションなどの雑費も馬鹿にならない。

 この数日はそこにさらに無駄に大食らいな熊女が追加されているとなればなおさらだ。


 食事も普通に作るのであればそう大幅に節約になるわけではないが、味や形が悪い安い食材を使えば出費も抑えられる。アリソンは『調理』の『下拵え』を取得しているため、調味料は必要ない。多少味が悪い食材だとしても、大量の調味料でごまかしてしまえば何とか食べられるというものだ。これも健康の心配をする必要がないプレイヤーであるからこその食生活とも言える。スキルで生み出した調味料がどう身体に影響を与えるのかは不明だが。


 そんなプレイヤー向けの味が濃い食生活にベラを付き合わせてしまうのは可哀想な気もするものの、そもそもこの女はジャネットたちに金貨一枚も払っていない。というか、おそらくそんなに金貨は持っていない。

 腹が満たせるだけありがたいと思ってもらいたい。

 というより、この味の濃い食事はどうやらお気に入りのようで、日々泣いてふさぎ込む生活の中でも食事の時間だけはこうしてやってくるのだった。


 ベラが泣いて過ごしているのは、心の支えであったペアレ聖教会や総主教を失ったからだ。

 残念ながらジャネットたちは王都での顛末を直接目にすることは出来なかったが、漏れ聞こえてくる噂話や、SNSへの書き込みなどからおおよその状況はわかっていた。


 こうなることは、おそらくはじめから決まっていたのだろう。


 用済みになったからセプテムに始末されたというだけの話だ。

 そしてあの王都をまるごと更地にしてしまったというセプテムの力には改めて畏怖を覚え、それに立ち向かおうと考える他のプレイヤーたちの正気を疑った。


 目の前で泣いているベラに対しては情も湧いてきてしまっているため、不憫にも思えるが、王都で死亡した総主教や他の主教については思うところはない。何となくいけ好かない、好きになれない爺だった。





「……ねえ、ジャ姉。私らいつまでこんな生活を……」


「……イベントも終わったことだし、そのうちマグナメルムから何か指示とか……、あとご褒美とかあるはず……」


 他のプレイヤーたちが予想しているように、戦争の火種を燃やし、そこに燃料をぶっかけて回ったのはマグナメルムだ。そして一部実行犯はジャネットたちである。

 その結果、ペアレ王国を始め、4つもの王国が崩壊してしまった事を考えれば、マグナメルムの作戦は成功裏に終わったと言っていいだろう。

 であれば期待してもいいはずだ。なんらかのご褒美を。


「あたしらのこの強化?が前払いっていう可能性もあると思うけど……」


「うっ……。そ、そうかもしれないけど、それは第1王子を唆した時のご褒美だって言ってらしたし、それ以降の分は別できっとあるはず……」


「ある予定だった、としてもさ、まさかとは思うけど、私たち忘れられてないよね……?」


「そ、んな事は、多分……。ほ、ほら、いつもイベント後のリザルトとか報酬って数日経ってからの発表と配布になってたじゃない? 今回はリザルトは無かったけど、きっと報酬とかはそんな感じで遅れてるだけだよ多分!」


「いやあれは全プレイヤー対象だから集計に時間かかってたとかなんじゃ……」





「──もちろん、君たちの事を忘れたことなどないとも。期待通り、ご褒美をあげにきたよ。遅くなって悪かったね」





 ジャネットたちが寝床にしている空き家の玄関、そこにいつの間にかマグナメルム・セプテムが立っていた。


「セセセ、セプテム様!」


「い、いつからそこに!?」


 するとセプテムは顎に指をやり、小首をかしげてつぶやいた。


「──いつまでこんな生活を、のあたりからかな」


「割と最初じゃないですか!」


 人が悪い。


「──セェプテム! 貴様! 貴様がいながら!」


 セプテムの姿に気づいたベラが詰め寄り、胸ぐらを掴んで持ち上げた。


「ちょ! セプテム様に何を!」


 その光景にマーガレットがいきり立つが、エリザベスと2人でなんとか抑える。

 一方の持ち上げられているセプテムは特に苦しそうな様子でもない。


「──そう興奮しないで。落ち着きたまえよベラ主教」


 セプテムが目を開き、そう言った。

 その瞳の虹彩に金色の模様が浮かび上がる。


「うっ……。ああ、そう、だな。悪かった」


 するとベラは不自然に落ち着き、すぐにセプテムを下ろし、掴んでいた胸元から手を離した。


〈あ、絶対なんかされたやつだこれ。覚えがある〉


〈え、そうなの?〉


〈うん。何かはわかんないけど、精神操作的なやつかな……?〉


 ベラはそのまま、セプテムに促されるままに椅子に座らされた。セプテムはベラの目を覗き込み、優しげな声音で語りかけている。


「──彼の事は残念だった。実は今日は、きみを救いに来たんだよ。きみには受け入れ難い事だろうが、ペアレ聖教会というのは実は悪い組織だったんだ。いもしない神の声とやらの存在を主張し、信者を洗脳し、そしてペアレ王国の支配を目論んでいた。これは良くないことだ。わかるね?」


「……ああ、あなたがわかるだろうと言うなら、わかります……」


 虚ろな目でセプテムを見つめ、ベラが答える。


〈……あんたこんなやばい事されたの?〉


〈いやここまでは……。私の場合は動けなくなるくらいだったけど、NPCだとここまでやばい感じになるのか……。でもそんなデンジャラスなところも素敵……〉


「わたしは実は、そんな危険な聖教会をこの国から排除するために内偵を進めていたんだ。残念ながら、ついやりすぎて国ごと消し飛んでしまったが、聖教会という悪の組織の壊滅には成功した。

 残っているのはベラ、きみだけだが、きみはそんな聖教会の裏の顔など知らなかった。だから悪くない。そうだね?」


「はい……そうです……わたしはわるくない……」


 セプテムの言っている事は無茶苦茶だ。

 国から病巣を取り除くためにメスを振るい、その結果国ごと消し飛ばしてしまったのなら本末転倒である。

 というか、その言い分が正しいのなら、わざわざ聖教会の総主教たちを強化したのは何だったのか。百歩譲って全て正しかったのだとしても、少なくともそんな余計なことをしなければペアレ王国が滅びる事は無かったはずだ。


 そもそものマグナメルムの目的、大陸大戦について知っているジャネットたちはこれが全て嘘だとわかっているが、それを知らなくても少し考えればおかしいとわかる内容である。

 しかしベラは不思議に思う素振りもなく、と言うかまともな思考能力があるようにも見えず、ただ盲目的に頷いている。

 よほど強力な精神支配を受けているようだ。そんなスキルも持っているのか。


「だからもう、あの悪いペアレ聖教会の事などは忘れ、これからは自分の生きたいように生きるんだ。もちろん、悪い聖教会はペアレ聖教会だけで、他の国の聖教会はまともだ。何なら、これからきみ自身がきみだけの聖教会を作ってもいいかもしれないね。神の声など聞こえなくても、人々を救け、導いていく事はできる。そうだろう?」


「……なるほど……。そのとおりだとおもいます……」


「よし。わかったら、少し休みなさい。あちらの部屋で横になるんだ。そうすればきっとすぐ眠くなる。起きたときには煩わしい事は忘れて、新しい自分を生き始める事が出来るようになっているはずだよ。

 ほら、お行き」


 ベラはフラフラとおぼつかない足取りで立ち上がり、寝室に歩いていくと、古びたベッドに横になった。

 程なく寝息が聞こえてくる。本当にすぐに眠ってしまったようだ。


 それを確認し、目を覚ましそうにないことがわかると、エリザベスがセプテムに尋ねた。


「……あの、セプテム様、今のは……?」


「ああ。ちょっと精神を『支配』した状態で、色々吹き込んでみたんだ。あの状態でもその間の記憶は残っているようだから、もしかしたらこの時に強引に納得させた事は彼女の中では真実になるんじゃないかと思ってね。ちょっとした実験だよ。良ければ経過を見ておいて欲しい」


 良ければ、とは言っているが、事実上の命令である。

 それ自体はこれまでと変わらないが、もしこの実験がうまくいくようならもう泣いて塞ぎ込んだりはしなくなるだろう。多少は世話も楽になるはずだ。


「うまく行ったかどうかはまた今度聞きに来るよ。さてそれよりも、ここに来た本当の用事の方だけど」


 セプテムが最初に言っていた、ご褒美のことだ。


「きみたちが知っているかどうかはわからないが、ペアレ王都を滅ぼしたのはわたしだ」


 彼女はそこで一旦言葉を切った。その間を質問されていると捉えたジャネットは頷いた。セプテムが王都を滅ぼしたという事実はSNSへの書き込みからわかっている。

 それを確認すると、セプテムは満足げに口の端を歪め、話を続けた。


「その事を知っているなら、これも知っているかな。その際、わたしは王都に集まった異邦人の彼らに、ひとつ提案をしたんだ。わたしを満足させる事が出来たなら、ご褒美をあげてもいい、と」


 これにも頷いた。

 それもイベント本スレに書いてあったことだ。

 プレイヤーたちはなすすべもなく全滅したようだし、それどころか王都ごと壊滅している。

 ジャネットのような普通の人間からすれば、その行為自体もさぞかし楽しかった事だろうと思うが、セプテムがそれで満足したかどうかはわからない。

 異邦人の行動によって満足する、と言う意味ならば、単に王都を壊滅させるだけならプレイヤーがいようがいまいが大して変わらないため、彼らに満足させられたということはないのだろう。

 事実、ご褒美らしきものをもらったという話は出ていない。


「残念ながら、彼らはわたしを満足させる水準にはなかった。だからご褒美はなしだ。

 だが、きみたちは別だ。王都の壊滅、というか各国の王族を始末することで、わたしたちマグナメルムは目的のひとつを達成することが出来た。これは素晴らしい結果だ。そしてその結果を得られた一因には間違いなくきみたちの働きがある」


 セプテムはジャネットたちを見回した。

 今度は何かの返事を待っているとかではなく、単に様子を観察しているようだ。全員、姿勢を正して彼女の言葉を聞いている。


「きみたちにはご褒美をあげようと思う。何か、欲しいものはあるかな。わたしに叶えられることなら、何でもひとつ、叶えてあげようじゃないか」


 来た。

 選択式のイベント報酬だ。

 王都でプレイヤーたちが貰えなかったのなら、これを受け取れるのはジャネットたちだけだ。


「ああ、そうだった。

 それとは別に、給料というか、活動資金も兼ねてだが、金貨も支給しておこう。見ている限りではかなり切り詰めた生活をさせてしまっているようだし、部下にそのような生活をさせているとあれば、わたしの人格が疑われる。今後は金貨には困らないよう手配しておくよ」


 素晴らしい。

 普通のプレイヤー、人類側の傭兵としてプレイしている限りでは、本来この金貨こそがメインの報酬となる。

 その金貨に困らない生活が出来るとなれば、もうそれだけで人類を見限った甲斐があるというものだ。


「なんでもいいよ。自作のマジックアイテムのようなものはまだ研究段階だが、市販の、金貨で買えるようなものであればなんでも用意しよう。

 あるいはこの間のように、何らかの強化が欲しいと言うならそれでも構わない」


 これは悩みどころだ。

 何でも良い、というのは実に困る。

 セプテム自身も、自分に叶えられる範囲内でと言っているし、何でも良いとは言っても実際は制限がある。何でも良くはない。あまりにおかしな事を言えば妙な印象を持たれてしまうだろう。


「あ、あの、それってその、行動というか、行為的なアレもありですか? 対象年齢のレーティングとかはどの程──」


「黙ってろ!」


 いきなりおかしな事を言おうとしたマーガレットの顔面に拳を入れた。

 殴られたマーガレットは声も出さずに悶絶している。

 これで少しは冷静になってくれればいいのだが。


 おそらくオクトーあたりに似たような事を要求しようとしていたのだろうアリソンも、殴られたマーガレットを見て口を押さえている。賢明な判断だ。


「……うちのアホがすみません」


「……まあ、聞かなかった事にしておくよ。慣れてるし」


「慣れてる!?」


 一瞬で復活し反応したマーガレットを再び抑えつけた。

 世間擦れしていなさそうなセプテムのことだ。先ほどのマーガレットの言葉も最後までは聞いていないし、慣れていると言ってもおそらく別の何かと勘違いしているだけだろう。そうに違いない。


「あ! じゃあ、こういうのはどうですか?」


「言ってみたまえ、エリザベス」


「プレ、ええと、異邦人の私たちは、モンスターを強制的に手懐けられるアイテムを手に入れる事ができるんですけど」


「ああ、もしかしてあの妙な首輪か。わたしの支配する領域で勝手に使おうとしていた異邦人を何名か見たことがあるな」


 そんな命知らずがいるのか。


「なんかその、私たちを乗せて空が飛べそうな、大きめで強そうなモンスターとかが欲しいなって思ってて」


 いい案だ。

 以前にセプテムに乗せてもらったドラゴンを思い出す。ジャネットたち4人を乗せてもビクともしないあの力強さ、それに圧倒的な移動速度は素晴らしかった。

 あのドラゴンほどではないにしても、この段階で自由な飛行手段を得られるというのは大きい。


「なるほど……。そうだな。それは悪くない。あまり強すぎる魔物だと、きみたちの実力で一方的に『使役』できるかわからないから、弱い魔物から徐々に強くしていくというのがいいだろう。その際には少し、きみたち自身の力というか、そういうものが必要になるが……」


「ああ、経験値ですね。大丈夫です。今回ゲットした分はまだ使ってませんから」


「それなら問題ないだろう。少し手間や時間はかかるが、先日のドラゴン程度のものであれば用意が可能だ。

 きみたちの予定や、わたし自身の予定もあるが……。都合がいい日時をまた教えてくれ。きみたちには彼女を付けておくから、彼女に伝えてくれればいい」


 セプテムのその言葉に合わせ、1人の獣人が玄関から入ってきた。

 イベント中にジャネットたちを強化したあの遺跡にいた、ライリーという獣人の女性だ。いや、獣人ではなく幻獣人だろうか。


「他の者たちは……」


「わ、私は行動で──」


「全員それでオナシャス!」


「そ、そうかい。わかった」


 それにしても、まさかドラゴンクラスのものが貰えるとは思ってもいなかった。

 もし他にも選択できるのであれば、出来ればモフモフしているほうがいいし、グリフォンのようなものの方が好みだが、どうだろうか。


「別にドラゴンじゃなくてもいいけど、あまり妙な注文だと素材を探したり選んだりするのに時間がかかってしまうが……。なに、それはわたしの配下にやらせておこう。注文があるようなら、いつでも遠慮なくライリーに言いつけてくれ。

 何しろこれは、きみたちに対するご褒美なのだからね」


 いたれりつくせりだ。

 セプテムの部下になって本当に良かった。

 少ない手持ちをやりくりしてベラの面倒を見ていた時は大変だったが、やはりマグナメルムはいい会社だ。何しろ給料は無尽蔵で、ボーナスは欲しい物を現物支給である。


「さて、名残惜しいが、わたしは今少し忙しいのでそろそろ失礼するよ。他に何か、直接聞いておきたい事があれば言ってくれ」


「あ、じゃあ」


 マーガレットがおずおずと手を挙げた。

 すぐに顔面に叩き込めるよう拳を握っておく。


「あの、結局なんですけど、今回のその、マグナメルムの目的って、何だったんですか?

 さっきのお話だと、王族を殺すのが目的だったのはわかったんですけど……。それだけだったら、別に戦争まで起こす必要無かったですよね?」


 答えてもらえるかどうかは別だが、まともな質問だった。よかった。


「その事か」


 セプテムは少しの間、何かを考えるかのように目をつぶっていた。


「……そうだな。きみたちには話しておいてもいいだろう。

 ──六大災厄、という言葉を知っているかな。これは人類の国々で使われていた言葉だ。わたしが現われる前までの事だけどね」


 もちろん知っている。そしてセプテムの登場以降は七大災厄へと変化した。その七番目が目の前のセプテムであり、八番目がオクトー、九番目がノウェムだ。


「七番目以降は置いておいて、その6つの災厄は全て知っているかい?」


「えっと、確か昔、誰かがどっかに書いてたな──」


「大天使、真祖吸血鬼、蟲の王、海皇、大悪魔、そして黄金龍です」


 エリザベスが答えた。

 彼女は検証班ほどではないが、この手のゲーム内設定は好きな方だ。


「よく知っているね。そのとおりだ。

 そのうち、大天使はすでにもういない。わたしが倒した。蟲の王、海皇には会っていないが、真祖吸血鬼についてはその関係者と知己を得ている。大悪魔本人も知らないが、大天使があの程度だったのなら、大悪魔も警戒の必要はない」


 大天使をセプテムが倒したのはあくまでプレイヤーたちが弱体化させたおかげだという話だったが、それは言ってもいいことかどうか判断がつかなかったのでやめておいた。

 それにもしかしたら、セプテムであれば弱体化していようがいまいが大天使を倒せていたかもしれない。なにせ同格とされる存在だ。


「六大災厄と言っても、その実力はまちまちらしい。わたしが倒した大天使のように大したことがないものもいれば、そうではないものもいる。

 しかしその中でも別格なのが黄金龍だ。聞いたところによれば、この黄金龍はかつてこの地に現れた時、誰も太刀打ち出来なかったらしい。それは当時災厄級であった真祖吸血鬼たちの力を持ってしてもだ。あるいはこの世界そのものさえ破壊しかねない程のその力を恐れた当時の災厄たちは、立場や陣営の垣根を越え、一時的に手を取りあい、6名で協力してこれを封じるに至った」


「6人? でも黄金龍を除くと他の災厄は5人ですよね? あと1人は一体……」


「当時、まだ今で言う六大災厄という言い回しは無かったようでね。というか、大天使や大悪魔も生まれてはいなかったらしい。

 そのあたりを除いた3人、つまり真祖吸血鬼、海皇、蟲の王に、別の勢力の3名の、精霊王、聖王、幻獣王を加えた6名の力を合わせ、黄金龍を北の極点に封じた、ということらしいんだ」


 これはかなり重要な情報なのではないだろうか。


 幻獣王、という名前からジャネットたち幻獣人が連想されるが、それを除けばこの大陸にはいそうにない者ばかりだ。

 つまりこの大陸を出た後に、シナリオに関係してきそうな情報である。

 間違いなく、プレイヤーでこの情報を聞いているのは自分たちが初だろう。

 エリザベスは目を見開いている。いや彼女だけではない。ジャネットもそうだが、皆微動だにせず話を聞いている。


「そしてこの封印を解くためには、封印に参加したそれぞれの種族が持つマナが必要になる。わたしはそのマナをこの手で回収するために、わざわざ戦争を起こし、各国の王に力を集め、暴走させて、収穫したというわけだ。わかったかな」


 ということは、セプテムが倒したとされるペアレ、シェイプ、ウェルスの王がそれぞれ幻獣王や精霊王、聖王だったのだろう。どれがどれだかは不明だが、ペアレの王が幻獣王だったのだろうことはわかる。

 ドワーフも精霊の一種とする現実の伝承もあるし、シェイプの王が精霊王というものに進化、いや転生したのだろう。

 となると消去法でウェルスの王が聖王だ。


 つまり、獣人が転生を極めると幻獣王、ドワーフは精霊王、ヒューマンは聖王へと至れる、ということになる。

 マグナメルムファンスレでファンの皆が予想していた内容は正しかったらしい。


「ふ、封印を解くため、て……、封印を解いて、どうするんですか……?」


 マーガレットが再び尋ねた。

 そうだ、人類種の転生先などよりもそちらのほうが重要だ。


 するとセプテムは、これまで見た中で最も魅力的に笑い、言った。


「──もちろん、この手で倒すためだよ。何が六大災厄だ、バカバカしい。そうやって恐れられる存在は、わたしたちだけでいい」









「──思った以上にやべーシナリオだった件」


「いや、いまさら私らがどうしようが結果は変わんないでしょ。なら割り切って楽しんだほうが良くない?」


「てかさ、このまま進めてけばもしかしたら、私らもいつか幻獣王とかになれるんかも……」


「それでセプテム様に”収穫”されるって?」


「……それはそれで!」


 闇堕ちを決めたときから、世界の敵となる覚悟は出来ている。

 その世界を脅かす計画に加担するとなれば、むしろ望むところだ、と言えるのかもしれない。





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