第303話「盗賊の俺が農家を護衛した結果」(クロード視点)






 シェイプ王都までの道のりで、盗賊というものには出会う事は無かった。

 怪しい風体の者たちはいたが、どれもクロードやジェームズの姿を見るとそそくさとどこかへ行ってしまった。

 彼らも飢えているのだろう。健康そうな傭兵に見えるクロードたちに喧嘩を売る元気はないようだった。

 これならむしろ、街なかの方が治安が悪いほどだ。

 街の中では以前にあった怪しげな商会のような者たちは元気に商売をしているため、悪党とのエンカウント率が高い。

 クロードたちは以前のこともありそうした者たちと会うのは避けたかったので、なるべく街には立ち寄らずに移動した。

 それについては菜富作たちも異論はないようだった。

 どうせ街に入ったところでまともに補給など出来ないし、追ってくるのが魔物とは言えあまり姿をさらしたくないのは菜富作たちも同じらしい。


「退屈にもほどがあんな。てかよ、あんたら追われてるんじゃねーのかよ。誰も襲って来ないぞ」


 道中魔物の襲撃はあったが、それも領域に近いような場所でだけで、しかも横着して街道を外れてショートカットをしたせいだった。

 あれは完全に自業自得だし、追手がいるのが本当だとしてもそれとは無関係だろう。

 どう考えても護衛任務中に危険度の高い近道というのはマイナスポイントだが、2人はよほど急いでいるのか二つ返事で同意してきた。襲ってきた魔物はクロードたちが危なげなく始末したし、問題はなかったためか後から文句も言って来ない。

 護衛というのがこれほど楽なら、たまには普通の傭兵稼業というのも悪くはない。

 今後も表向きはこのスタイルを続けるというのもいいだろう。たまにクライアントを裏切ってキルしてやれば刺激も十分だ。相手がNPCなら報酬と自らの命を盾に交渉をかけられるなんて事もあるまい。


「……一応、村を出る時には囮や陽動は出来る限りかけておいたからな。

 菜富作殿の友人たちには世話をかけてしまったが、だからこそわしらは何としても王都にたどり着かねばならん」


「……それに、村の人たちも……。かわいそうなことをしました」


「……菜富作殿が気に病むことはない。こうして旅をしてみて初めてわかることでもあるが、今は国全体がこんな状況だ。

 人里離れた山奥だったとはいえ、菜富作殿たちが来ずともいずれはああなっていただろう……」


 この2人は時々こうしてしんみりする事がある。

 どうやら住んでいた村が焼き討ちかなにかにあったらしい。

 状況から推察するに、このドワーフはそれを王都に伝えにでも行くのだろう。

 菜富作という農家がなぜこのクエストを受注したのかは不明だが、要は重要NPCを王都までエスコートするというミッションだ。

 普通に考えれば、農家ではなく傭兵が受けるべきクエストである。


「ふうん。他にもプレイヤーがいるなら、とっととそいつらと合流すりゃいいんじゃないのか? 死んだとしても、どっかでリスポンしてんだろ」


「敵は神出鬼没で、どこから現れるかわからない。俺もそうだけど、みんなは顔も敵に見られてる。

 だからあえて関係ない場所で目立つ行動をすることで、逃げた俺たちへ注意が向かないようにしてるんだ」


「ああ、何か顔隠してると思ったらそれでか。指名手配でもされてんのかと思ったぜ」


 国中に神出鬼没に現れる何者かから逃げているとするなら、ある意味で指名手配と変わらないが。

 そして国中に現れるからこそ、国内のどこで陽動をかけたとしても相手はそれに気を取られるというわけだ。


「それより、もうじき着くぜ。地図が正しいんなら、次に城壁が見えてきたらそいつが王都だ」


 地図というのは何とかいう教授が無料で配信している物だ。

 街同士の位置関係しか書かれていないが、街道の位置など適当でもだいたいわかるしそれで十分である。


「……まさか盗賊にまでそんな詳細な地図が出回っていようとはな。この世から悪事がなくならんわけだ」


 ボグダンがしみじみと呟いた。

 文句があるのなら地図をばらまいた教授とやらに言って欲しい。あいつが諸悪の根源だ。


 情報というのは非常に大きな力を持っている。

 それを不用意にばらまくのは無責任な行為だと言える。

 プレイヤーの全てが良識ある存在であるのならいいのかもしれないが、そうではない。

 というかそもそも、良識というのもあくまでゲーム世界準拠のものであって、規約に反してさえいなければプレイヤーのゲーム内における行動は制限されていない。プレイヤーに良識を問うこと自体意味が薄い。


 こうした情報の扱いについても同様だ。

 完全フリーで配布されている以上、どう使おうがプレイヤーの自由である。多くは個人での利用に留めているようだが、中にはゲーム内で紙に書き写し、これを商人などに販売している者もいると聞く。

 ひとたびそうして広まればそれを止めるのは容易ではないし、当然入手している悪党だっているだろう。


 そういう事態を想定せずに地図を公開したのであれば教授とやらの危機管理能力不足だし、想定していて公開したならそいつも立派な悪党だ。


「んで、どうすんだ? 護衛の任務ってやつはよ。王都に着いたらハイサヨナラでいいのか?」


「その前に報酬もらわにゃいかんがな」


「あーっと、そうだね。一応王城までは付き合ってもらってもいいかな。街なかでも何があるかわかんないし」


「まさか帰り道まで頼むなんて言わねえよな?」


「……それはない。もうわしには、帰る場所などないからな」


「お、おうそうか。まあ元気出せよ。そのうちいいことあるって」


 やりにくい。









 国全体が食糧難、という状況は王都でも変わりはないようだ。

 王都だけには食糧が潤沢に用意されており、門を閉ざして外部の難民を閉め出しているというような事でもあったら厄介だと考えていたが、王都を囲む城壁は普通に通過する事が出来た。

 そして壁の内側は生気のない住民で満ちていた。

 道端に寝転んでぴくりとも動かない者もいる。考えたくはないが、あれはすでに生きていないのかもしれない。


 以前にクロードたちが悪事を働いていた街はここまでではなかったが、王都というある種閉鎖された空間がそうさせるのか、それともあれから数日が過ぎた事で全体的な状況が悪化したのか。


「……まるで寛喜の大飢饉だな」


「……こんな状況を見ちゃ、絶対他力に縋りたくなるのもわからんでもねえ」


「……盗賊の癖に、よく知ってるよね。君ら実はインテリなの?」


「……何とむごたらしい光景だ。

 行くぞ。何の話をしているかわからんが、王城はあっちだ」


 ボグダンの先導でしみったれた雰囲気の王都を歩いていく。


 道端に座り込んでいる住民は物乞いかなにかをしようとしていたのだろうが、もはやそれを声に出すことさえない。

 あの様子では、たとえ今すぐ食糧を手に出来たとしても長くはないだろう。胃が受け付けまい。

 今すぐ高度な医療技術による治療が必要だ。


 しかしそんなものはこの世界には存在しないし、もしかしたら魔法やスキルで代替技術があるのかもしれないが、クロードたちは持ち合わせていない。

 あったとしてもそんな事をする義理はないし、契約に入っていない。

 ボグダンもそれがわかっているのか、悲痛な表情で黙々と歩みを進める。


 時折、元気に歩くクロードたちを不審そうに見てくる怪しい男たちもいるが、エルフやヒューマンも混じっているのを見るとすぐに興味を失ったようにどこかへ行ってしまう。

 プレイヤーであれば飢えていなくても不思議はないからだろう。


「……あん? おいちょっと待て。お前どっかで……」


 そんな中、不意にクロードは声をかけられた。

 かけてきたのは街を歩いている怪しい男だ。この怪しい男たち以外には他人に声をかけられるほど体力がある者などいない。

 クロードは聞こえていない振りをした。

 人違いだと思ったからではない。逆だ。

 クロードはこの男の顔に見覚えがあったからだ。


 この男こそ、以前にクロードたちが荒稼ぎをしていた街で、クロードたちをキルした男だった。

 最終的には押し負けてタコ殴りにあったので、別にこの男ひとりにやられたというわけではないが、最期になったであろう攻撃をしてきた相手の顔くらいは覚えている。


 なぜこの男がここにいるのか。

 今回の道程ではNPCのボグダンも居たためクロードたちも転移は使わず徒歩で移動してきた。

 ゆえにあの街にいた悪党どもがクロードたちより先にここにいても全くおかしくはない。

 しかし理由がない。例えばあの街の商会とこの王都の商会が同じグループ会社だったとして、この男が異動か何かで王都に配置転換されたというのであればわからないでもないが、それはあくまで現代人だからこそ考えつく事だ。

 街から街へ移動するだけでもリスクを伴い、時間も相応にかかるこの世界では、そのような人事異動が気軽に行われるなど有り得ない。そもそも、そうした人事を行なえるほど構成員を把握している人間がいる事自体考えづらい。


 いやこの男がここにいる理由など考えても仕方がない。

 今はまだ確証を持っていないようだが、クロードたちが商会に楯突いた傭兵だと思い出されてしまったら面倒事になる。

 この男ひとりならキルして突破も出来ないことはないが、その後現れるだろう男の仲間たちを引き連れながら王城に行くなど不可能だ。

 現実的に考えれば二手に分かれ、菜富作たちを先に行かせるしかないが、それでは後から報酬を受け取る事が出来るかどうかわからない。まだそこまでの信頼関係を築いているとは思えない。


 ──さて、どう乗り切るか。


「──っだよ! なんか文句あんのか! 俺はコックだぞ! メシを作って振る舞って、それの何が悪い!」


「……んだあ?」


 通りの向こうでなにやら騒ぐ声がした。

 目の前の男もそちらを気にし、クロードたちからは注意がそれている。


「コック、ってことは、いつものあいつか……。ちっ」


 これ見よがしにため息をつき、舌打ちをしながら男はそちらの方へ去っていった。

 クロードたちより重要なトラブルが起きたらしい。


「……おいクロード、今のってよ、いつかの」


「……ああ。あぶないところだった。誰だか知らねえが、コックとやらに感謝だな。これからは店で食い逃げするのはやめてやろう」


「なんか、ただならぬ雰囲気だったけど、今の知り合い?」


「いや、なんでもねえ。行くぞ」





 やがて一行は王城にたどり着いた。

 王城の周辺にはそれまで以上に人々が座り込んでいたが、これは王家や貴族からの施しを期待してのことだろうか。

 門にはこの状況にあって不自然なほど健康そうな兵士が立っている。

 ただしその目は虚ろだ。

 ことによっては死にかけた住民よりも光がないかもしれない。


 ボグダンはそんな門兵に声をかけた。


「すまんが、取り次ぎを頼みたい。わしはボグダン。ボグダン・ボグダーノフだ。

 代々この名前を継いできている。王に言えば、すぐに分かるはずだ」


 普通に考えれば突然現れた怪しげなドワーフとその連れなど、おいそれと城内に招き入れる訳がない。

 しかし思考力もろくに残っていないのか、門兵はそれ以上は誰何すいかもせずにのたのたと城に入っていった。

 しばらくすると戻り、門を開けると蚊の鳴くような声でボグダンたちを城の中へと促した。


 城の中は外よりはいくらかマシだった。

 貴族階級か何かと思われるドワーフも居たが、身なりはともかく彼らもそれほど満足に食べているという感じでもなかった。

 いくらかマシと言っても餓死寸前の国民よりはという程度で、そうした貴族でさえも陰鬱な雰囲気を漂わせている。

 フラフラとボグダンたちをエスコートする兵士の方が見た目的にはまだマシだ。


 クロードはそんな様子を見てふと思った。

 もしかしてだが、この兵士はいわゆる騎士なのかもしれない。

 ゲーム内設定的には騎士というのは単なる職業ではなく、貴族にシステム的に従属しているキャラクターの事を指すらしい。

 その最大の特徴は死亡しても復活するという点にある。

 代償として自ら経験値を得られないという事だが、プレイヤーと違って死んだら終わりのNPCにとって、死が無縁であるというのは非常に大きい。経験値など些細な問題だ。

 その、死が無縁という点が、もし餓死などにも適用されるとしたら。

 だとしたらこの兵士たちの健康そうな肉体も、それに見合わない死んだような目も頷ける。

 餓死というのは相当苦しい死に方だと聞いたことがあるし、それが強制的に繰り返され、しかも終わる気配がないとなれば、こうもなるだろう。

 この兵士はただのNPCであり、クロードたちにしてもこれまでさんざんキルしてきたそこらの住民と何が変わるものでもないが、流石にこの仕打ちには同情する。

 この先、もしもシェイプの兵士、いや騎士を見かけたら慈悲を持って躊躇なくキルしてやろう。


 しかしそうなると、オーラルとの国境付近にいたあのガラの悪い兵士もどきたちは何だったのだろうか。

 彼らは普通に元気だったように見えた。目付きも特に死んではいなかった。淀んではいたが。

 あの頃はまだ、ここまで飢饉が深刻ではなかったということだろうか。それとも、彼らは実は国の兵士ではなく別の──


 そんな事を考えているうち、いつの間にか目的地に着いていた。

 謁見の間とかそういう場所にでも通されるものだと思っていたが、どうやら違うらしい。

 もっと小さな扉の、しかし豪華な装飾の、言うなれば王の執務室とかそういう雰囲気の場所だ。


「──失礼します、陛下。ボグダン様をお連れしました」


 兵士がノックをして入室の許可を求めた。

 ボグダン様、と来たもんだ。

 兵士はまったく口を利かないのでどういう扱いなのかさっぱりわからなかったのだが、これでもボグダンは賓客だったらしい。

 もしも国がこんな状態でなければ、もっと丁重に扱われていたのかもしれない。


 室内から威厳のある男の声で入るよう指示があり、兵士はボグダンたちを伴って入室した。

 思っていた通り部屋は執務室らしく、窓際のどでかいデスクには目元以外が髭に埋もれた立派なドワーフがふんぞり返っていた。

 またそのデスクの前にはローテーブルやソファがある。応接室のようなものも兼ねているらしい。


 部屋の主は立ち上がりもせず、尊大な態度で顎をしゃくり、「座れ」とだけ言った。

 なんだこいつは何様だ、と思わないでもなかったが、冷静に考えたら王様である。だったらしょうがないなと思い直して素直に従った。

 ジェームズも菜富作もそれに倣い、ソファに腰掛ける。

 しかしボグダンは立ったままだ。

 慌てて菜富作が立ち上がった。

 しかしクロードとジェームズは立ち上がらなかった。面倒だったからだ。それに王様も座れとおっしゃっている。文句を言われる筋合いはない。


「──ボグダン・ボグダーノフか。元気そうだな。なぜ座らん」


「お主が今代の王か。さも知り合いであるかのように言われても困る。会ったことなどなかろう。座らんのは、お主の命に従う理由がないからだ」


「……単純に、元気そうだと思ったからそう言っただけだ」


 王は不機嫌そうにボグダンを見ている。

 確かに今、この国で普通に元気そうなNPCはボグダンくらいだろう。

 王都の状況が国の状況を反映しているのなら、これほど元気なドワーフなどプレイヤー以外ではそう居ないはずだ。


「別に心配というわけではないが、具合でも悪いのか」


「──いや、腹が減っているのでな。無駄な労力を使いたくないだけだ。ああ、座ったままで失礼する。立つのも億劫なのでな。偉そうに見えるかもしれんが、背もたれがなければ座っているのも辛いのだ」


 会話が出来るだけマシな状況とも言えるかもしれない。

 王である事だし他の者よりは食事は出来ているようだが、それも最小限に抑えるべくエネルギーの消費を抑えているということだ。


「──それで、ボグダン・ボグダーノフともあろうものが今更何をしにきた。俺を、国を笑いに来たのか」


「勘違いしているようだから言っておく。わしはこのシェイプという土地を愛しているし、ドワーフという種族にも誇りを持っておる。嫌いなのはお前たち王侯貴族だけだ」


「……ふん。そのようなこと、聞くまでもない事だ。早く本題に入れ」


〈お前が聞いたんじゃねーかよ。面倒くせえやつらだな〉


〈おいバカやめろ。笑っちまうだろ〉


〈君らいつもこんな会話してんの? 頼むから巻き込まないでくれよ〉


「……現在のシェイプの状況、なぜこのようなことになっているか、考えた事はあるか」


「結局、その話がしたいのではないか。天罰だとでも言うつもりか」


 2人だけで会話しているため、話についていけない。

 しかしついていけないのでわかりやすく説明してくださいとはさすがに言い出せない。


「違う、そうではない。もっと現実的な話だ。村や街を、畑を破壊した魔物のことは知っているか」


「知らいでか。このような状況を引き起こした直接の原因だぞ。お前俺をバカにしているのか」


「そうでは……、いや、そうとも言えるかもしれない。わしはその魔物をこの目で見たぞ。そして知った。奴らの正体をな」


「──なに……?」


「王家には伝わっておるはずだ。始祖の祭壇の事が。あれはある地にて、初代ボグダンのわざによって固く封じられておるが、完全に失われているわけではない。

 そして今シェイプを襲っている魔物。あ奴らは天然自然の者ではない。間違いなく、その始祖の祭壇の力を利用して生み出されたおぞましき魔物だ」


 気になるワードが出てきたが、たかが野盗に過ぎないクロードが聞いていていい話なのだろうか。

 いやこれは菜富作のクエストだ。クロードたちはその手助けをしているにすぎない。

 面倒そうな問題は菜富作が対処すればいいだろうと思ってそちらを見てみれば、菜富作もどうしようという表情でこちらを見ていた。


〈お前……〉


〈いやだって、これあれでしょ? 国家滅亡の危機がなんで発生したかっていうキークエストとかじゃないの? なんで俺が! 俺ただの農家なのに!〉


〈しっかりしろよ個人事業主……〉


 こちらの内心はさておき、髭のおっさん2人の話は進んでいく。


「重要な点はもうひとつある。わしの村を襲った者は、どうやら農地を気にしている様子だった。つまり魔物どもは、どうやってかこのシェイプに存在する農地を探り出し、それを丁寧に潰して回っているらしいということだ。

 ただの魔物がどうしてそのようなことをするのか。どう考えても、裏で糸を引いている者がいる」


 話の流れがやばくなってきた。

 裏で糸を引いている、つまり黒幕となれば、真っ先に思い浮かぶのはかつての盗賊団を秒殺したあのローブたちだ。

 大陸は広いし、2度も偶然かち合うことなど有り得ないだろうが、ここ最近の運の無さには自覚がある。


「この件に黒幕がいるのであれば、その目的は明らかにシェイプ王国の疲弊にある。その先にあるものを考えれば、たとえ今の飢えをなんとか耐えしのいだとしても、シェイプという国がある限り襲撃は終わらんだろう。

 そして、これも王たるお主は知っているはずだな。始祖の祭壇の場所を」


「──ペアレ王国か……!

 おのれ、ペアレのケダモノどもめ……! 先の小競合いの続きのつもりか! だとしてもいくらなんでもこれは許せるものではないぞ……!」


 国ひとつを滅ぼさんとする目的で各地に魔物を放つなど尋常な存在ではない。

 それこそヒルス王国を滅ぼしたとかいう第七災厄か、大陸中に天使をばらまいていた大天使級の災害だ。

 ドワーフたちはペアレ王国の差し金だと考えているようだが、普通の国に出来ることには思えない。

 しかし首を突っ込んでもいい事はないし、口に出してしまうと本当になってしまいそうだし、クロードは黙って聞いていた。


「このようなこと、わしの口から言いたくはないし言うべきでもないかもしれんが……。

 お主も誇りあるドワーフならば、わかっておるな。すでに多くの民が死んだ。

 そしてこれからも死ぬだろう。この地に対する悪意を持つ者がいる限りな。

 であるならば、お主がするべきことはひとつだ。不埒な者どもへ報いを受けさせるのだ! 我らドワーフが生き残る道はそれしかない!」


 王が立ち上がった。

 先ほどまでの、気だるそうな雰囲気は微塵もない。


「──宰相! バザロフ宰相は居らぬか! 紙をもてい! 触れを出すぞ!」


 怒涛の展開にクロードたちはついていけない。

 自分たちは一体何をしたのか。

 一体何をこの王都まで運んできてしまったのだろうか。

 ちょっと面白い農家がいたから戯れに護衛してやるだけのつもりが、とんでもない事になってしまった。


「戦だ! 今度こそあのケダモノ共を根絶やしにするのだ! 今ある食料は全て貴族に割り振れ! 兵さえ、騎士さえ動けばよい! ペアレに攻め込み、その全てを奪い尽くすのだ!

 獣人どもの屍の上にこそ、我らドワーフの未来はある!」







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