第217話「ばちくそ怪しいNPC」(別視点)






「何あれ、先客? ボスの前に誰かいる」


 この湿原ダンジョンのボスは巨大な灰色熊だ。

 定期的に、というかおそらく腹を空かせる度にボスエリアの外にまで現れ、近くの雑魚やプレイヤーに襲いかかる習性がある。

 プレイヤーを襲った場合は死体が消えてしまうためすぐに次の犠牲者に向かうのだが、雑魚の鹿や採取に来た街のNPCなどを襲った場合は、そのまま肉を食べて満足して帰って寝てしまう。


 そしてこの灰色熊は、眠っている状態であれば手が触れるようなギリギリにまで接近することが可能だ。

 本来なら初心者には倒せないほど強力なモンスターなのだが、人数を集め、可能な限りのバフをかけ、一斉に頭部を狙って攻撃すれば、熊が目を覚ます前に瀕死の状態に追い込むことができる。


 ジャネットたちはそうやって何度かこのボスの討伐に成功していた。


 当初は人数を集め、数十人規模で回していたが、この方法は低難易度ダンジョンにしてはまとまった経験値が得やすいこともあり、多くのメンバーはすぐにステップアップして別の狩場へ移っていった。

 しかし人数が減った場合、その分個々の負担は大きくなるが、得られる経験値の取り分も増える。その経験値により与ダメージも上昇し、減った人数分のカバーができるようになる。


 そういう理由から、ジャネットたち4人は自分たちだけになっても続けていた。さすがに4人では一撃で殺しきるまでには至らないが、残り少ないLPならば、普通に戦ったとしてもこちらに被害が出る前に倒してしまう事も出来た。


 そんなことを何度も繰り返せば当然ボスも警戒して眠らなくなったり、寝床を変えたりする。

 しかしこの灰色熊はしばらくの間は警戒しているのだが、喉元過ぎれば熱さ忘れるということわざの通りに、すぐに元のルーチンに戻ってこのあなぐらの前で大口を開けて眠るのである。

 INTが頭の良さに関係しているのかはジャネットたちは知らないが、もしそうであればきっと熊のINTは低いに違いない。


 ここ数日はイベントとやらで天使とかいう気持ち悪い雑魚が定期的に襲来していることもあって控えていた。

 しかしSNSのイベント本スレで、さまざまなプレイヤーによる終息宣言が書き込まれたことにより、再開したのだ。


「別に隠してたわけじゃないし、他にも始める初心者が居てもおかしかないけどね。でもあれ、2人しか居なくない? それに随分小さいプレイヤーだよね。細いドワーフ2人組かな?」


 しばらく離れていたせいで、現在の巨大熊の行動パターンがどのフェイズなのかがわからなくなっていた。

 そのため様子を伺っていたのだが、初心者パーティが時間がどうのと言いながら逃げていった事でタイミングを把握した。

 あの時間というのは間違いなく、巨大熊の食事の時間の事だろう。


 それならば、少し間を置いてから行けば熊は寝ているはずだ。

 そう考えて熊を暗殺しにきたのである。


「──アリソン、よく見て! あれはプレイヤーが小さいんじゃない、熊が大きくなってる! どうなってんの!」


「静かにしてマーガレット、その熊も、どうやら眠ってはいないみたいだよ……」


「っと、ごめんジャ姉……」


「……ていうか、なんか模様も違くない? あんな派手な模様だったっけ?」


 エリザベスの言ったとおり、熊はなぜかヒョウ柄になっていた。

 一面緑でところどころに白やピンクの花が咲くこの湿原において、あのヒョウ柄は非常に目立つ。サバンナなどのもっと乾燥した地域であれば周囲の風景に溶け込みもするだろうが、ここでは逆効果だ。警戒色ということなのだろうか。身体が大きくなっている事と関係があるのか。


「でもなんか、あのプレイヤーたちを襲うっていう雰囲気でもなさそうなんだけど……」


「なんかのイベント中なのかな。この辺りは難易度の低さの割には人も多いけど、そんなイベント聞いたことないんだけど……」


 どちらにしても、熊が起きているのなら襲撃は失敗である。

 本来であれば一目散に逃げ出すのが正しい対応だ。

 いかに熊のおかげで経験値を稼げていると言っても、さすがに正面から戦うのはリスクが高い。


 しかし襲われずにいるプレイヤーがいるということ、そして何らかのイベントが進行中なのだとしたら、出来れば乗っかりたいという思いがあったことで判断を誤った。


 このゲームでは、イベントは個々のプレイヤーに対して起きるというわけではない。あくまでゲーム世界の中での出来事として起きる。

 そのためイベントが起きたとしてもインスタンスエリアなどになったりはせず、イベントに関係ないプレイヤーでもいつでも介入することが出来る。

 介入の仕方やタイミングによっては報酬などをイベント起動者と同様に受け取ることも可能だ。

 これは例えばNPCの依頼人からクエストを受ける際などに、「自分たちはパーティを組んでいて、後からメンバーが合流するからこの件には6人であたる」といった事を予め伝えていた場合には、たとえ受注時に2人しかいなかったとしても最初から6人分の報酬が約束される事もある。

 その代わり例えばそれが虚偽であり、結果的に4人しか関与しなかったとしたら、その分しか報酬をもらえないばかりか、場合によっては信頼をも失うことになるが。


 ジャネットたちは出来れば楽して稼ぎたいと考えてこのような効率を追求したプレイをしてはいるが、別にそういった特殊なイベントに用がないというわけではない。チャンスがあれば乗っかりたいところである。


〈……とりあえず、なんかのイベントかもしれないから声かけるね〉


〈仮にやばかったとしても、まあ公式イベント中だしデスペナは無いしね〉


〈ジャ姉に任す〉


〈マーガレットに同じー〉


 アリソン、マーガレット、エリザベスの了承を得、ジャネットは黒と白のローブを頭から被った怪しい2人組に声をかけた。


「こんにちは。えーと、その熊は、あー。どうしてあなた達を襲わないの? その熊、ボスモンスターでしょ? 何かのイベントなの?」


 するとその黒白ローブは顔を見合わせ、ジャネットに逆に尋ねてきた。


「いべ……んと? 何かなそれは。君たち……。異邦人たちの方言か何か?」


「……イベントの意味くらい、わかるでしょう。行事とか、催し物とか、そういう意味だよ」


「……それくらいわかってるよ。ただどう見てもここで催し物なんてしてるようには見えないだろうし、何かの隠語かなって思って聞いただけだよ」 


 怪しい2人組は何やら気安い雰囲気で言い争いをし始めた。

 顔こそ見えないが、声も似ているし身長は多少違うが雰囲気もよく似ている。血縁者なのかもしれない。


〈っべー、NPCだったみたい〉


〈なんでNPCがこんなところに? ばちくそ怪しいんだけど〉


〈プレイヤーならこの格好でもまあ有りかって思えるけど、NPCだとしたらちょっと変じゃない?〉


〈まさかのイベントを起こしたのはアタシらだったというオチ?〉


 彼女ら──声からして女性で間違いない──がNPCだとすれば、イベントは現在進行中で、その渦中にいるプレイヤーは自分たちだということになる。


 ほんの少し、ワクワクする気持ちと、背中を冷や汗が伝うような緊張感を覚えた。


「まあ、なんでもいい。君たちの話にもあまり興味はないし。私たちはただ、実験の成果を見たいだけなんだ。

 この場に来たということは、君たちは普段からこの熊と戦っていると考えて良さそうだね? それなら熊ちゃんの性能を見るには丁度いいかもしれないな」


「……獣人の女の子4人組か。いや、なんでもない。じゃあ熊くん。暴れたいのなら、この彼女たちと遊ぶといい。

 ……わたしをがっかりさせないでね」


 白ローブのその言葉に豹柄の熊はびくりと身体を震わせると、天に向かって咆哮を上げた。

 音の洪水がジャネットたちに叩きつけられる。


《抵抗に失敗しました》


 身体が硬直して動かない。

 あれはただの咆哮ではなく、何らかのスキルを乗せた行動だったらしい。

 動けなかったのはほんの数秒だが、戦闘中にこんなことが起きれば間違いなく無防備で攻撃を受けることになる。


 しかし幸いにも豹熊はその隙に攻撃をしかけようとはしなかった。

 黒白ローブの様子を窺うように見ている。


「……? 何をして──。ああ、こちらのことは気にしなくてもいいよ。無差別範囲攻撃のようなものでも何でも好きに使うといい。君たち程度の戦闘の流れ弾でどうこうなるほど弱くはないからね。心配ご無用」


 どうやら黒白ローブに影響が出ていないのかを気にしていたようだ。


〈ボス熊、完全にあの黒白ローブに服従してるみたい〉


〈絶対ヤバい奴だこれ! 熊もどう見ても前よりパワーアップしてるし!〉


〈進化とかそういうやつかな? このローブたちの仕業だよねどう見ても〉


〈実験結果がどうのとか言ってたし、間違いないよ。これってアタシらだけで見ていいイベントなの!?〉


 幸い今のやりとりの間にこちらの硬直も解けている。しかしあの黒白ローブたちの言い草からして、逃がしてもらえるとは思えない。

 ダメ元でもなんでも戦うしかないだろう。


「来るよ!『鼓舞』!」


「『硬くなーれ』!」


「『挑発』!」


「『スパイラルアロー』!」


 まずはジャネットがスキルで全員の攻撃力を底上げし、エリザベスが付与魔法でタンク役のマーガレットの防御力を上げる。

 それを確認したらマーガレットはターゲットの敵対心を煽り、敵がマーガレットに狙いを定めたところで攻撃が始まる。ファーストアタックは弓がメインウェポンであるアリソンの役目だ。


 ここ最近は天使相手に乱戦しかしていなかったし、その前は寝ている熊に一方的に攻撃をしかけていたくらいだったが、一応パーティとしての基本戦術は確立してある。錬度に関しては若干あやしいが、いつまでもここの熊で経験値稼ぎができるとはジャネットたちも思っていない。熊のリスポーン待ち時間に鹿を相手に練習することも稀にはあった。


 マーガレットの『挑発』は抵抗されなかったようだ。このスキルは発動側はSTRとVITの合計値で、対象はMNDの値で抵抗判定を行なう。

 2つの能力値を参照するだけあって、基本的に発動側有利の判定だ。すべての能力値が横並びだったとするなら、単純に言って能力的に倍近い差があっても、敵対心を稼ぐだけなら可能である。


 豹熊は一直線にマーガレットに向かっていく。その額にアリソンの放った矢が螺旋を描いて突き刺さる。

 『スパイラルアロー』は矢が回転しながら飛ぶわけではなく、謎の力で螺旋軌道をなぞりながら飛ぶスキルである。貫通力というよりは破壊力を向上させたアクティブスキルだ。

 寝ているボス熊が目を覚ます前に殺しきるというここ最近のプレイスタイルのため、精密性や補助効果よりも純粋に攻撃力を向上させるタイプのスキルを意識的に取得するようにしていた。


 しかし普段であれば頭蓋を穿ち、クリティカルダメージを与えていたはずの一撃は、螺旋の勢いに乗ってしばらく熊の額で暴れていたものの、やがて健闘むなしく力尽きて地面に落ちた。


「うそ! 通らない!?」


「矢を変えて! もったいないけど魔鉄の矢に!」


 魔鉄は一見鉄に似ているが、魔力の伝導性がいいとか言われているマジカルな金属だ。このゲームでは、その魔力の伝導性がいいかどうかでエンチャントの効果が変わってくる。

 矢を射る本人が一時的なエンチャントをかけられるようなスキルや魔法を取得していれば魔鉄の材料費くらいで済むが、アリソンはただでさえスカウトと弓兵を兼任している。これ以上器用貧乏にするのもまずい。

 そのためこの魔鉄製のやじりには購入の時点で攻撃力を上げる永続的なエンチャントがかけられており、その分高額だったのだが仕方がない。

 たとえこの豹熊を倒しきれずに全滅してしまうとしても、まったくダメージを与えられないのでは戦った意味がない。

 イベント中であることだし、ただここで死んだだけの方が安くついたのだとしても、ジャネットは出来る限りの抵抗はしようと考えていた。


 何せおそらく、誰も見たことのないような特殊なイベントだ。

 出来る限りの情報を得て、今後につなげたい。


「『ビーストソウル』! 『捨て身』! 『ランスチャージ』!」


 ジャネットはなおもマーガレットに向かう豹熊の首めがけ、その手ので突きを放った。

 重ねがけ可能な自己強化バフを複数かけての突貫である。


 『ビーストソウル』は獣人系の種族のみが取得できる、いわゆる種族スキルで、一時的に自分のVITの数値をSTRとAGIに上乗せすることができる強力な自己強化スキルだ。持続時間は30秒だが、1日に3回まで発動することができる。このスキル自体は重ねて発動できないが、他のスキルは発動可能であるため、組み合わせることでより大きな力を発揮することができる。


 『捨て身』はその名の通り、我が身を捨てて攻撃力を上げるスキルである。具体的には次に受けるダメージが倍になる代わりに、10秒間だけ自分の攻撃力を倍にする効果だ。

 このスキルはその時点での攻撃力を参照するため、先に『ビーストソウル』を発動しておけばその上乗せ分も倍になる。次に受けるダメージが倍になってしまうというのは大きなデメリットだが、それも工夫することで回避が可能だ。


 その工夫が『ランスチャージ』である。これは本来『槍術』のアクティブスキルだが、突き攻撃が可能な武器でならどれであっても発動が可能だ。そして『剣術』の突き系アクティブスキルよりも威力が高い。しかし攻撃が相手に命中した時に反動でダメージを受けてしまうというデメリットも存在する。この時受けるダメージ量は自分のVITとSTRの差によって決まる。

 STRよりもVITの方が高い場合はダメージは無いため、通常はVITを伸ばすタンクに好まれるスキルなのだが、あえてこのダメージを受けることで、先に発動した『捨て身』のデメリットによる倍加ダメージをコントロールすることが可能になる。


 近接アタッカーの突き攻撃としては基本的なコンボと言えるものだが、その効果は非常に高い。


 ジャネットの剣先は豹熊の首に突き刺さり、鮮血を散らした。

 思っていたほど深くまでは入らなかったが、アリソンの矢が通らなかったことも踏まえると相当熊の防御力も向上しているようだし仕方がない。


 そこへアリソンの二の矢が飛来した。

 魔鉄製の矢は豹熊の左目に直撃し、一時的に左側の視界を奪った。

 これもスキルを乗せた必殺の一撃だったようだが、それ以上進むことはできなかったらしい。

 以前の熊相手なら眼球を貫通し、クリティカルダメージを叩きだしていただろうが、今回は片目を傷つけるにとどまった。

 現時点では部位欠損まで持っていけたのかどうかも不明だ。しかしノーダメージよりはいい。


 突進する豹熊は左目への攻撃で一瞬ひるみは見せたものの、すぐに気を取り直し、何かに突き動かされるかのようにマーガレットへ体当たりを敢行した。


「『ランパート』!」


 マーガレットが盾を構えてスキルを発動し、豹熊の体当たりを耐える──かに思われたが、耐えきれずに跳ね飛ばされた。


 マーガレットは宙を舞い、木の葉のようにくるくると回転しながら地表に落下した。


「マーガレット!」


 倒れ伏すマーガレットは動かない。


〈……ごめん、動けない。スタン状態みたい。あとLPがレッドゾーンだわ。これ無理ゲー過ぎない?〉


 どうやら声も出せないようだ。

 そのマーガレットに向けエリザベスが『回復魔法』を飛ばした。


 そのままマーガレットに攻撃を続けられていたら終わっていたが、マーガレットが気絶したことで敵対心が薄れたのか、豹熊は次に『回復魔法』を使ったエリザベスを睨みつけた。


「このっ! 『スラッシュ』!」


 足払いの効果も狙い、ジャネットは気を逸らさせるため豹熊の後脚にスキルを放つ。

 しかしそれだけでは強靭な毛皮を突破することさえできず、数本の毛を切り飛ばすにとどまった。


「硬った! 何これ!」


 先ほども『ビーストソウル』、『捨て身』、『ランスチャージ』のコンボでようやく首筋に傷を入れられたのだ。『剣術』の初期に取得できるようなアクティブスキルだけではほとんどダメージを与えられないらしい。


〈思った以上にきついわこれ。負けイベント?〉


〈待って、さっき矢が当たった左目を見て……。普通にひらいてない?〉


〈……血で赤く染まってはいるけど、傷痕みたいなのは見えないね〉


〈あの矢高かったのに!〉


〈もうそろそろ私も起きれそうだけど、起きたところでどうすりゃいいのよ〉


 現状打つ手がない。

 ジャネットの攻撃でも大したダメージは稼げず、アリソンの矢でも同様だ。

 タンクであるマーガレットは一撃食らっただけで瀕死になり、エリザベスは魔法使いだが攻撃魔法には乏しい。


「いやあ! なかなかやるじゃないか熊ちゃん! 相手の、あー異邦人たちは思っていたほどの実力ではなかったけれど、それでもこれだけ圧倒出来れば十分だよ」


「そうだね。首に受けたのが彼女たちの渾身の一撃かな? 対してこちらは体当たりひとつで向こうの盾持ちをスタンさせた。仮にもともといい勝負をしていたとするなら、転生は成功だと言っていい」


 黒白ローブたちの機嫌のよさそうな声に、豹熊が立ち上がって安堵したようにそちらを見た。

 ジャネットたちのことなど気にもしていない。

 確かにダメージこそ与えてはいるが、致命傷になるほどの攻撃がないからだろう。全く相手にされていない。

 普段であればわずかにでも血を流させたジャネットたちは豹熊にとって決して許すことができない存在なのだろうが、そんな些事よりも黒白ローブの機嫌の方が重要だという事だ。


 この恐ろしくパワーアップした熊をそれほどまでに屈服させるとは、あのローブたちは一体どういう存在なのか。


〈……暗躍する黒幕みたいなキャラクターなのかなあれ〉


〈この調子で各地のボスをパワーアップさせられていったらたまらないんだけど〉


〈さすがにそれはないと思うし、仮にそのつもりだとしてもアタシらじゃどうしようもなくない?〉


 マーガレットがスタンから復帰し、こそこそと身構えている。

 豹熊もローブの怪人も気づいてはいるはずだが、注意を払う様子はない。


「あれ? いやいや、熊ちゃんの強化が目的ではなかったよね?」


「ああ、そうだった。まあいいや。とりあえず、この湿原で確認しておきたいことはもう十分かな。次へ行こうか」


「そうだね。じゃあねお嬢さんたち。熊ちゃんをよろしくね」


 白と黒のローブはそう言い残し、呑気な足取りで歩いて街の方へ向かって去っていった。


 しかしその後ろ姿は、確かに見ていたはずなのに、少し離れたところでフッと消えてしまった。


 思わず目を擦って二度見してしまったが、どこを見てもローブの姿はない。アリソンたちも同じようにしているし、ジャネットの目がおかしくなったわけではないようだ。

 見れば豹熊はしきりに鼻をひくひくさせている。匂いは残っているという事なのだろうか。


 どちらにしても姿が消えてしまったことに変わりはない。

 しばらくすると豹熊も鼻をひくつかせるのをやめ、気が抜けたように座り込んだ。


「……思った以上にやべーやつらだった」


「……SNSにもし何も情報がなかったら、アタシらが遭遇第一号になるのかな」


「……ヒルスとかオーラルとかは騒がしいけど、正直ペアレは平和っていうか地味だったから、騒ぎになるのがほんの少し嬉しかったり」


「……それははげどう。ていうか、街のほうに向かって行ったんだけどあれいいのかな。注意喚起とかしたほうがよくない?」


「そうかもしれないけど……」


「とりあえず、この場を何とかしてからかな……」


 目の前では豹熊も我に返り、ジャネットたちを睨みつけていた。






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