陸番『弘法大師空海の謎』

お遍路をやっていると、四国の行く先々で弘法大師空海が起こした奇跡や偉大な業績に関する伝承や遺構を目にする。


僕にとって空海はただのお坊さんではない。


偉大な宗教家であり、冒険家であり、芸術家であり、事業家であり、衆生救済のために超能力を発揮するスーパーヒーロー。


山で遭遇した大蛇を退治したとか、大岩を念力で持ち上げて遠くに飛ばしたとか、村人のために温泉や井戸を掘りあてたなど、空海には常人ではあり得ない超人的なエピソードが数多くある。


僕は以前からオカルトやスピリチュアルなものに興味や関心があり、この聖地巡礼の旅を通して空海に纏わる超人的なエピソードの真偽を探っていた。


僕は空海が使った超能力的なエピソードに関しては、一部本当の事だと思っている。


その根拠は密教の秘法である「虚空蔵求聞持聡明法(こくうぞうぐもんじそうめいほう)」。


それを空海が室戸岬の御厨人窟みくろどでの修行で会得している事だ。


虚空蔵とは、アカシックレコード(宇宙開闢からのすべての事象、想念、感情が記録されているという世界記憶の概念)の事で、虚空蔵求聞持聡明法は、そのアカシックレコードにアクセスするための瞑想行のようなものだと僕は考えている。


ノウボウ・アキャシャ・ギャラバヤ・オン・アリ・キャマリ・ボリ・ソワカ


空海はこの真言を百日で百万回ひたすら御厨人窟の中で唱え続けた。


この行を修め、アカシックレコードにアクセス出来るようになれば、この世の過去、現在、未来に渡る全ての出来事、知識を知る事が出来る。


空海はおそらくこの虚空蔵求聞持聡明法を使って、現代人の僕たちがスマホやパソコンでネット検索をするように、自分の知りたい情報や必要な情報をアカシックレコードから取り出していたのではないか?


阿含宗の教祖である桐山靖雄さんが書いた『変身の原理』。


この著書には、密教の修行によって人間が超人的な能力を使えるようになる理由が詳しく解説されている。


空海同様、著者の桐山さん自身も密教の秘法を会得して超人的な能力を開花させた人だ。


『変身の原理』はグルジェフの超人思想にも似た内容で、空海や密教の秘密を知るための本としては一読の価値がある。


密教を現代の感覚に例えると、空海が平安の末期に唐から持ち帰ったスーパーコンピューターのようなもので、人間を飛躍的にアップグレードさせる精神科学の最先端技術に当たる。


それを考慮すれば空海が起こした数々の奇跡や偉業は単なる伝説ではなく、密教の秘法によってアップグレードした超人だからこそ出来た事実という可能性も出てくる。


またお遍路(四国八十八か所巡礼)の起源には、弘法大師空海が張った「結界」という説があり、今から千数百年の昔、空海は「やがて本州と四国に黒金(鉄)の橋が架かるだろう。その時、橋を渡って魔物がやってくる」という予言を残しているらしい。


それにリンクするような話で、四国には天皇家にまつわる重大な秘密も隠されていて、天皇家と日本が危機の時には四国から必ず国難を救う英雄が現れるという。


空海の出世地は香川県の善通寺。


他に四国の出身の有名な偉人と言えば、高知の坂本竜馬がいる。


つまり八十八か所霊場は弘法大師空海が何者かから四国と天皇家の秘密を護るために計画された霊的国防事業で、日ユ同祖論を裏付けるような遺構が数々眠る剣山を中心に、大規模に結んだ注連縄(結界)の役目を果たしているのかもしれない。


そして四国八十八か所全ての札所を廻ると、納経帳の御朱印の最後のページが高野山になる。


お遍路さんを結願した者は、和歌山の高野山へお礼参りに行くのが通例らしく、僕もお遍路を終えてから四国を後にし、西日本の聖地をあちこち回ってから、最後に和歌山の高野山へ向かった。


高野山は空海が山の中に拓いた宗教都市。


人気の無い静かな山の中を歩いて山門を潜ると、急に町が広がる。


お寺が幾つもあり、出店や旅館、学校、コンビニ、スナックまであった。


神聖な場所のイメージが強かったので、俗世間に塗れてしまった雰囲気が少し残念だったけど、空海が眠る御廟のあたりはまだ聖域としての威厳が保たれていた。


高野山の聖域であるこの御廟には空海が今も生きたまま眠りについているという伝説がある。


御廟は岩窟の中にある石室で、1000年以上その内部の秘密が守られている。


1日2回、2人の僧侶が空海の食事を白木の箱に納めて御廟へ運ぶ儀式があり、この儀式は1200年間一度も欠かされた事がないらしい。


生ける空海の伝説に対する高野山の強い信仰心の顕れだ。


僕はアトランティス人トートが書いたと言われる『エメラルドタブレット(M・ドリール博士著)』。


この本を読んだ時、地球の内部に“アメンティホール”と呼ばれる地下世界が存在する事を知った。


アメンティホールは、世界中のピラミッドが地下でつながっているネットワークのようなもので、世界の各地にその入口がある。


スピリチュアル界隈の情報によると日本の聖地と呼ばれる場所にも幾つかあるらしい。


僕が訪れた奈良の三輪山、天河神社をはじめ、天皇家の秘密が眠る剣山の山中もアメンティホールとつながっている説がある。


そしてそれらの聖地には奇遇にも空海が訪れた伝説や痕跡が残っていたりもする。


僕はおそらく空海が入定した高野山の御廟もアメンティホールの入口ではないかと睨んでいる。


高野山の伝説のとおり、空海はその中で不老不死の眠りに入り、まだ生きたまま全ての衆生が救われる弥勒世の到来を待っているのだ。


真言密教には「即身成仏(そくしんじょうぶつ)」という、肉体を現世に残しながら瞑想を行い、「生きながらにして仏になる」という教えがある。


僕の故郷である山形の真言宗系のお寺には、生きながら入定した僧侶たちのミイラが安置されている。


この「即身成仏」の教えと、自らの肉体をミイラ化させる技術は空海が伝えたものとされていて、ミイラになった僧侶たちは、大日如来と波長を合わせることで「死」や「滅び」の概念を超越し、生きながら仏になれると信じていた。


『エメラルドタブレット(M・ドリール博士著』によると、アメンティホールには不死や復活、輪廻転生を表すフラワー・オブ・ライフ(神聖幾何学・生命の樹)と呼ばれるものの原型があり、トートもそこで不死の知恵を獲得して、5万2000年前にアトランティスで生まれてから、1991年まで最初の肉体のまま生き続けたと記されていている。


僕は高野山を訪れた時にこのエメラルドタブレットに書いてあった内容をふと思い出し、空海も日本の聖地や高野山の御廟を通じてアメンティホールからフラワー・オブ・ライフの原型に辿り着き、不死の知恵を獲得したのではないか?と思った。


つまり空海もトートと同じように時代を超越して転生するアセンテッドマスター(イニシエーションと呼ばれる一連のスピリチュアルトランスフォーメーションを受けた精神的に啓発された存在)で、平安末期の日本を生きたトートの生まれ変わりかもしれない。


空海が日本の各地の聖地を行脚して残した伝説も、アメンティホールを通じた地下世界のネットワークを駆使した空間移動なら説明可能だ。


御廟の秘密は今後も高野山の僧侶たちによって、来るべき時が訪れるまで決して明かされる事はないだろうけど、そんな壮大なロマンを描きながら聖地を巡礼していると、改めて弘法大師空海の偉大さが身に染みて来る。


そして自分もその壮大なロマンの渦中にいるRPGの主人公のような気がして楽しかった。


空海や坂本竜馬のように、この現代の日本の危機的状況を救う人物もまた四国から現れるのだろうか?


お遍路が終わっても弘法大師空海の謎を追う僕のロマンはまだ続いている。

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