5-2

 固いベッドから身体を起こすと見知らぬ部屋で、すぐ横で彼が本を読んでいた。お世辞にもきれいとは言えないボロさ。けれど、ものが少なくて整理されているから清潔感はあった。大学生のひとり暮らしの見本のような部屋だった。わたしがぼんやりと彼を見ていると目を覚ましたのに気が付いたようだ。

「起きましたか。ちょっと待ってくださいね。いまお茶を入れるので」

本を卓袱台の上に置き、キッチンの方に向かった。すぐにマグカップを2つ持って戻って来た。

「体調の方はどうですか?」

 わたしはカップを受け取りながら、

「少し首が痛いけれど、おかげさまで大丈夫よ。ありがとう」

 ひとくち飲む。あたたかい緑茶だった。

「本当なら救急車でも呼んで病院に連れていくべきだったんでしょうけれど、そうなると隣にいた女の子を警察に突き出さなくちゃいけなくなるし、事情も聴かれるだろうなと思うと面倒で。先輩も一時的に意識失っているだけでしたから、自分の部屋に連れ込んじゃいました」

 彼はニヘラと笑う。イラっとした。

「うん。その判断は間違っていなかったね。ちょっともめただけだもの。警察なんて確かに面倒だわ」

 けれど、それはそれでつまらなくなかったかも。

「首、少し痣になっていますよ」

 そう言って彼は手鏡を手渡してくれた。確認すると、確かにうっすらと青く色が変わっていた。

「これじゃあしばらく大学になんていけないわね」

「そうかもしれませんね」

 2人で笑いあう。何が面白かったのかわからないけれど、彼と過ごしているだけで、なぜか満たされていた。

「ちなみに、いまは何時?」

「えっと、15時ですね。ぼくが先輩を発見してからだいたい2時間ほど経っています」

 彼はスマホを見ていった。わたしは彼の様子をうかがう。迷惑になっていなかしら。

「ああ、無理して帰らなくてもいいですからね。万全になるまで、この部屋とぼくのことはお好きにお使いください」

 気づかれてしまったみたいだ。けれどそれはそれで好都合。

「じゃあ、セックスしましょう」

「ダメです」

 即答だった。

「どうして? あなたのからだを好きにしていいのでしょう?」

「それとこれとは話が違います」

「あなたがわたしを連れ込んだくせに?」

「うっ」

 決まり悪そうに唸った。そこに付け込む。

「そんな女に恥をかかせるようなことするなんて、紳士としてどうなのかしら?」

「ずるいです。ぼくの親切をそんな風に言うなんて……ひどい」

 本気で悲しそうな顔をするから騙されそうになったけれど、絶対に嘘だ。彼は何も思っていない。いままでのは当たればラッキーの前置きだ。

「じゃあ、今夜はわたしと過ごしてくれる?」

 本命はこっち。いたって真面目に言う。

「はい。もちろんです」

 やっぱり即答だった。

「やった」

「ですが、エッチなことはなしですからね」

 彼は笑ったが、いつもみたいな不快さはなかった。

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