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その日、わたしは初めて彼とご飯を食べに出かけた。
きっかけは彼が誕生日を迎えて20歳になったということだった。
わたしと彼は2人で報告用のレジュメを作成していた。といっても、グループ員各々が作成した部分を1つのレジュメにまとめる作業だ。それほど複雑なことではなかった。
「あ、先輩。実はぼく、今日誕生日なんです」
彼は嬉しそうに言った。つられてわたしの顔もほころんでしまう。
「そうなの? じゃあ、今日はお祝いね。帰ったら誰かと過ごす予定でもあるのかしら?」
「いえ、帰ってもひとりですから、特にそういうのはありませんね。ケーキでも買って帰ろうかと思っているぐらいです」
彼は少し照れたように、そして寂しそうに言った。それがわたしの心を大きく揺さぶる。
それを見て、彼は少し申し訳なさそうに、
「すいません、ちょっと重苦しかったですかね。知り合いは多いのですが、まあご存知の通りこういう性格ですから誕生日を祝ってくれるような特別な友人はいないのです。普段はなんとも思いませんが、こういう時だけはちょっぴり、ほんの少しだけ寂しく感じるのです。だから、先輩におめでとうって言われたいなぁ、と不意に思っちゃいました」
彼はえへへ、と控えめに笑った。
「だったら、」
わたしは珍しく緊張していた。どうしてかわからないけれど。口の中がパサついて一息に言い切れなかった。彼は優しい表情で、わたしのセリフを待ってくれた。唾液をためて口内をしっかり湿らせてから、
「だったらこのあと、わたしとご飯でもいかない?」
その瞬間に、彼はパアァッと、明らかに嬉しそうに顔を輝かせた。
「いいんですか!?」
「もちろん」
「やったぁ!」
彼は無邪気に笑う。わたしはそれに見惚れてしまう。
「先輩?」
とっくに落ち着きを取り戻していた彼は呆けていたわたしを覗き込んだ。
「ああ、いえ。大丈夫よ。さっさと終わらせてしまいましょうか」
強引に、意識を作業へ集中させる。彼は「了解であります!」といい、敬礼した。
それがあまりに可愛らしくて、思考は彼から離れない。
いままで、多くの人と出会ってきた。彼よりかっこいい人にも、かわいい人にも、賢い人にも、優しい人にも、素敵な人にも、出会って、深く結ばれてきた。
それなのにどうして。わたしがこれほど特別に、彼に魅せられるのか、わからなかった。
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