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今日の講義が全て終わったので、これからどうしようかと手帳を開くと、サークル活動日と書かれていた。最近行けていないから、少し顔を出そうかしら。わたしはカエとナナカと別れ——結局、ミナコは戻ってこなかった——、部室に移動した。
わたしは文学部のため、「読書会」というサークルに所属している。少々堅苦しいように聞こえるかもしれないが、うちの大学は所詮三流私立大学。集まってくるのは意識高い風の馬鹿ばかりだ——もちろん、わたしも含めて。といっても、それなりにまじめな学生が集まってきているのは確かなので、みな真剣に楽しく、文学の勉強をしている——もちろん、わたしは含まれない。
「お疲れ様です」
わたしが部室に入ると、そこら中からいくつかあいさつが返ってきた。何となく会釈しながら、空いている席に座る。
「おつかれ」
わざわざわたしの隣に移動してきたのは、このサークルの幹事長のユウスケだった。
「お疲れさま」
わたしはそれだけ言って今日の報告グループが用意したレジュメに目を落とす。サークルの活動は、報告グループが1つの文学作品を報告し、そのあとに、その作品について議論するという形式である。もちろん、先週の時点で次に取り扱う作品を伝えているから、予め一読してくることが前提となっているけれど、私は1か月ほどサークルに来ていなかったので、今日どんな作品が報告されるのかを知らないし、読んじゃいない。3回生は就職活動が始まることもあって、後期の報告グループに割り振られないし、参加を強制されないのである。
しかし、だからこそ、さきにレジュメを読んである程度内容を把握しておきたかった。ただでさえ頭が悪いのだから、そうでもしないと今日の議論についていけなくなってしまう。それなのに、ユウスケがしつこく話しかけてきた。
こいつはわたしに惚れている。そしてもちろん、わたしはこいつを嫌っている。つまらないから。いちいち会話の内容なんて聞かずに、適当に相槌を打ちながら流す。それでもこいつは嬉しそうだから、そのうち勝手に満足してどこかへ行くだろう。
「お疲れ様でーす」
そう言いながら、1人の青年が入って来た。わたしがレジュメから顔を上げたタイミングで、ちょうど視線がぶつかった。
『お久しぶりです、先輩』
彼はわたしに向かってそう口を動かして、ニパッと笑った。わたしが微笑み返す前に、友達との談笑に向かっていった。
もどかしい。
彼はどうして、わたしに無関心でいられるの?
わからない。
どうして、こんなに苦しいの?
欲しい。
たぶん。ぜったい。きっと。かならず。おそらく。たしかに。
あなたがほしい、なんて思っているわけじゃなくて。
不透明な感情が、心を彩った。
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