1-1
目が覚めた。今日も知らない他人の部屋の天井だった。
隣でわたしに抱きつきながら眠っているこの人は誰だっただろう。ヒロキ? ヤスキ? いや、ユウキだったかも。名前は忘れてしまった。だって別にどうでもいいから。昨日のわたしのお世話をしてくれた。この事実だけで十分でしょう。うん。
この人を起こさないよう、自分の身体にまとわりついた手を払いのけて、わたしはベッドから起き上がった。口をゆすぎたくて、電気をつけないで洗面台に移動する。途中、ちらかった部屋の中でいろいろな物を蹴り飛ばしたりしたが、きっとこの人は気づかないだろう。
寝起きの粘っこい口内はとても不快だ。いっそ新しいものと取り替えてしまいたいくらいに、不快。
蛇口から流れ出る水をすくって、乾いた唇にあてる。とっても冷たくて気持ちいい。それからゆっくりと口の中に含むと、水はスッととけるように馴染んでいく。飲み込んでしまいたくなる衝動に耐えながら、クチュクチュと水を口内で弄び、それから吐き出す。それを3度繰り返して、水を止めた。
暗闇にぼうっと浮かび上がる人影。洗面台の鏡に映るわたしの裸だった。寝起きだと夜目が利いて、かなりはっきりと見える。
貧相なからだ——男はどうして、こんなものに興奮できるのかしら。
可哀そうなからだ——持ち主がこんなのだから、大切に扱ってもらえないのね。
「ほんと、同情するわ」
徐に乳房を撫でる。何も感じない。飽きた。つまらないわ。
わたしは部屋に戻り、脱ぎ捨てられた洋服をつまみ上げて、肌に重ねる。全てが重なったから、部屋を後にした。またいつかお世話になる日まで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます