悪魔Ⅱ

「そうだよ、あの娘は君が万一最初の薬で眠らなかったときのために二の矢を構えていたんだ」


 夢の中で聞きなれた悪魔の声が聞こえてくる。あれ、私はいつの間に夢の中にいる? ということはこれはかなりまずい状況なのでは?


 目の前では例の悪魔がいつにもまして愉快そうに笑みを浮かべているのが見える。


「どういうこと?」

「薬を盛られたと知ったら普通解毒薬を求めるだろ? そこで解毒薬と偽って、もう一回薬を渡すのさ。素人には見た目で判別出来ないからね」


 悪魔はおかしそうにけらけら笑う。


「おそらく前に毒を盛られたときのことを覚えていて効かなかったときの備えをしていたんじゃないか? いくら君に耐性があっても、さすがに二回飲まされたらどうしようもないだろうね」

「なるほど」


 シルアの用心深さには感心するしかない。さすが闇の組織にいただけのことはある。

 いや、用心深さというよりはこれは執念深さと言うべきか。


「でも、すぐに差し出すと疑われるかもしれないからちょっと渡すのを渋ったんだろうね。詰めが甘かったのは最後に君の演技を見破れなかったことだなあ。あれが敵だったらもう少し警戒してたと思うんだけど。それとも君を襲いたいっていう興奮で理性が狂ったのかな」


 後者でないことを祈るばかりだ。


「いずれにせよここで君はゲームセットだ。あの娘に捕まって死ぬまで可愛がられるといい」

「嫌だなあ」

「まあ、君も人情の機微というものを知るべきだ」

「いや、さすがにシルアは特殊な部類だと思うけど」


 シルアの気持ちを察していたとしてもこのような手段に出るとは普通思わない。


「それはそうかもしれない。だが、それは途中から分かっていたはずだ。そのうえで思わせぶりな言動をした君にも非がある」

「……まあそれは」


 確かにシルアを可愛いとか好きとか言った記憶はなきにしもあらずである。確かにシルアが本気で私のことを好きだったとすれば酷な言葉だったかもしれないが、まさか悪魔に人情の機微の何たるかについて教わるとは。


 でもまだ諦めない。何とかシルアを説得すれば可能性はある。シルアも変わりたいと言っていた。だったらまだ説得の余地はあるはずだ。悪魔はそんな私の眼差しを見て嫌そうな顔をする。


「はあ、まだ諦めないのか。早く諦めて絶望した様子を見せて欲しかったのに」


 悪魔は吐き捨てるようにつぶやく。


「嫌だ。だから私は帰る」


 私は起きようと強く思った。

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