レーリアⅡ
その後俺はかねてから連絡していたアルテリアの旧臣たちと、組織からもらった金で集めた傭兵を率いて旧都であるデインに向かった。現在デインを治める王国役人は御用商人と結託し、物価を不当に吊り上げて商人を儲けさせて上納金を受け取るという典型的な悪事を働いていた。
だがそれも今日で終わりである。俺たちが大挙して街へ押し寄せると、一部の兵士たちが慌てふためいているだけで、平和に慣れ切っているせいか、応戦らしい応戦はない。
「我が名はデインの旧主、アルテリア王国のガイウス! 王国の悪徳役人に天誅を下し、王国の悪政からこの地を解放する! 王国に虐げられし者たちよ、今こそ立ち上がるのだ!」
俺は名乗りを上げると部下たちに用意していた檄文を街中にばらまかせながら政庁へと進軍する。街には大きな門があったが、俺たちが近づくと門は中から開いた。町人たちは歓喜をもって迎える者が少数、残りは暴政に疲弊しているのか特に反応は示さなかった。俺たちは呼応した一部の者を加えて政庁に進軍した。
「暴徒め、すぐに武器を捨てて投降せよ!」
役人は政庁の門を閉ざして叫ぶが当然聞く者はない。
町人たちに抵抗する者はなかったが、元々街にいた兵士や役人は政庁に立てこもって抵抗の構えを見せていた。
「何が暴徒だ! お前たちこそ権力をかさにきて暴利を貪る悪逆非道の徒ではないか! 大人しく街を明け渡すなら命だけは助けてやる!」
俺の叫びに政庁は静まった。しかし当然投降の気配はない。
まあ、俺が命を助けても怒り狂った民に襲われるのは見えているからな。それに抵抗する気のない者はこっそり逃げていくだろう。
「突撃!」
俺の号令に合わせて兵士たちが一斉に襲い掛かる。命が惜しい役人たちは政庁の塀を盾に必死に矢を放ち防戦する。腐敗した政治に関わってきた者たちは反乱が成功すれば命はない以上必死の抵抗だった。
「丸太を持ってこい! 弓隊は矢をつがえてしばし待て」
「丸太の用意整いました!」
「よし、弓隊一斉に放て! 丸太突撃!」
こちらの矢の雨が降り注ぐと敵の反撃も一瞬たじろぐ。そこに丸太を持った兵士たちが突撃を敢行する。
「それ!」
戦争を想定して作られた訳ではない木造の塀は最初の一撃できしみ、二回目の一撃で倒壊した。中には蒼白な表情の役人たちが右往左往しているのが見える。もはや我らの復讐を阻む者はない。
「突入!」
俺は先頭に立つと自ら槍を振るって敵を突き伏せていく。役場に侵入すると中では早すぎる突入に脅えた文官たちが慌てて剣をとる。
しかし彼らのおっとり刀では復讐のため鍛錬を積んでいた俺の槍を受けることは出来ない。数人の文官を倒すと、奥からでっぷりと太ったかっぷくのいい男が出てくる。こいつがここの代官だろうか。大方、民から巻き上げた金で贅沢の限りを尽くしているのだろう。
奴は俺の顔を見ると憎々し気に叫んだ。
「くそ、誰かと思えばアルテリアの亡霊ではないか!」
「お前がデイン代官か」
「ふん、亡霊ごときが王国にあだ為すなど片腹痛いわ」
「ならば亡霊の妄執、思い知るがいい!」
俺は代官に向けて必殺の槍を突き出す。代官は剣を振るってそれを受ける。だが、俺の突きは王国に対する積年の恨みを載せた必殺の突きだ。今まで安楽の地位にいた者の剣で受けきれるものではない。
カン、という甲高い音ともに代官の剣は宙を舞った。
代官の表情が一気に蒼白になる。
「亡霊め、亡霊ごときがぁ!」
「これで終わりだ」
俺は再び渾身の突きを繰り出す。剣を失った代官に自衛の手段はない。この一撃で絶命することに俺は何の疑いもなかった。が、次の瞬間、ガキン、という思い金属音とともに俺の槍は阻まれた。
「何だ!?」
目の前に立つのは見慣れない服装の少女。俺たちが使う剣とは少し違った剣を操り、涼しい顔で俺の槍を阻んでいる。俺の槍を阻んで動じないとは相当の手練れに違いない。ふと目の端で代官を見るが、彼もこの状況に戸惑っていた。ということは護衛とかではないのか。
「何者だ」
「私の名前は沖田霞。ただの旅人だよ」
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