村
ともあれ、一番の脅威と思われる大蛇を倒したこともあって残りの蛇たちは何とか制圧出来た。
「はあ、恐ろしい相手でしたね」
「そうだね。念入りに手入れしておかないと」
私は剣を振って血とか体液を払うと、丁寧に拭く。
「にしてもあなたいつも剣に毒塗ってるの?」
「そうですけど……今の戦闘終わって最初の感想がそれですか?」
シルアが呆れている。そうか、この世界でもやっぱり今の蛇たちはすごく異常なのか。もちろん異常とは思うけど、異世界転移させられた衝撃で魔物や魔法に対しては感覚が麻痺してしまっていた。
「あはは」
困った私は笑ってごまかすことにする。そんな私の前でシルアは平然と剣に毒らしき粉をまぶして布でこすっている。今の蛇が異常なのはわかるけど、個人的にはこっちの方が怖い。
私たちはしばらく休憩した後、村の中に入っていった。村には注連縄を連想させる十字架がついた縄が張り巡らされており、中に蛇の気配はなかった。あれだけ蛇がいて村が無事ということは実際に魔物避けの効果があるのだろう。現代だとこういう儀式的なものは気持ちの問題が強いが、魔法が実際にある世界だと、もっと実用的なものとして存在しているようだ。
村は当然と言えば当然だが荒廃しており、出歩く人々はおらず、住人が避難したのか廃墟になった家も相当数ある。
一人の家から住人が驚いた様子でこちらを見ているのが目に入る。村がなぜこんなことになっているのか、この蛇たちは何者なのか知りたいので、話を聞いてみることにする。もしかしたらこの異常事態は生命の実と関係があるかもしれない。
「旅の方……でしょうか?」
男は恐る恐る尋ねる。
「はい。一体この村では何があったのでしょうか?」
「それよりも村を囲む蛇たちは!? 襲われませんでしたか!?」
「全部斬りました」
「何ですと……」
男は絶句する。確かにあの魔物たちを全滅させられるのは並大抵のことではない。シルアは男の反応に少し満更でもなさそうな顔をしている。
「何とありがたいことだ……。実は事の発端は五日前なのです。突然、蛇の魔物が現れて村の外に出ていた王国の役人を襲撃して殺害しました。その後、村の外に蛇が大量発生。そのとき、村にいた神官様がおっしゃったのです。『我に任せたまえ』と」
神官、と聞いて私は心の中でマークする。
この神官は悪魔が言っていた神官と関係あるのだろうか。
「神官様は村に蛇が入ってこないまじないを施し、蛇を倒す方法を探す、と旅立たれました。が、その後神官様は音信不通、蛇は増える一方、村は外部との交わりを断たれ、さらに恐怖を感じた村人たちは皆家の中に籠るようになりました」
村人もあんな魔物が村の外をうろうろしていては恐怖でろくな生活も出来ないだろう。
「蛇は村の中には入ってこないんですか?」
「神官様がまじないを施してからはほとんど」
村の周囲のあれはその神官が作ったのか。
「王国は何か対処していないんですか?」
「先日、村の外で王国兵の死体を見かけたことはありますが」
一応王国も手を打とうとしているが失敗したらしい。まあ、並みの兵士を十人か、何十人か派遣したとしても犠牲を増やすだけだろう。
とはいえ私には疑問があった。
「でも、いくら魔物が外を徘徊しているとはいえ、この村は荒れすぎではないですか? 村の中なら普通に生活出来るのでしょう?」
「実はこの村、蛇が出る前から荒れていたんです。この村を担当していた役人は強欲で、国に収める以上の税を徴収して余った分を自分の懐に入れていたのです。村からは出ていく人が後を絶たず、人々は疲れ切っていました……」
なるほど、そんなことがあったのか。弱り目に祟り目というか、災難は立て続けに起こるものだ。
でもそこまでふと私は気づく。
「あれ? でも強欲な役人が死んで魔物を討伐した今となっては逆に問題がなくなったのでは?」
「確かにそうかもしれないですが……村からは活気のある者は出て行ってしまい、残っているのは逃げることもかなわない老人だらけですよ。せめて神官様がいてくれたら、まだ皆をまとめてくれたかもしれないですが、残っているのは逃げ遅れた女子供と無気力な老人だけです。このままでは枯れていくだけでしょう」
そう言って彼は悲しそうに目を伏せる。
「分かった、私が神官の方を探してきます」
「本当ですか!? 何と親切な旅のお方……」
老人は目から涙を流して感謝する。
とはいえ、もし悪魔の言葉がなければ私は神官を探しただろうか。そう考えると少し自信がない。
「沖田さんは本当にお人好しですね」
今まで黙っていたシルアが口を開く。私は本当に親切なのだろうか。
シルアは時々文句こそ言うものの、基本的に私についてくるというスタンスらしい。今回はちゃんと実を手に入れられたらいいけど。
「そういえば、蛇は村の北のはずれにある洞窟からやってきたと聞きます。もしかしたら神官様はそちらに行かれたかもしれません」
そう言って老人は北の方を指さす。洞窟、と聞いて私の心は沸き立つ。やはりそこに生命の実がありそうだ。村の人には悪いと思いつつも心中で私は拳を握りしめる。
「分かりました。ちょっと行ってきます」
こうして私たちは再び村を出た。
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