VS大蛇
そんなことを考えつつ私は目を覚ました。
考えても仕方ないので私は食堂に降りて朝食をとることにする。すると宿の食堂にはすでに先に起きたシルアが待っていた。
「おはようございます! 今日はどこに行きますか? 私は王都がいいです、王都に行って一週間は遊び倒しましょう!」
懐があったまったからかシルアは朝からテンションが高かった。
「王都ってどこ?」
「それも覚えてないですか? 今私たちが何となく進んでる街道が王都の辺境の山沿いを沿って進む街道です。私たちが進む道の東側は山で、西側に行くと王国の中心に向かいます。そっちが王都です」
要するに謎の洞窟と大筋の方向は合っているって訳か。それなら王都に行ってもいいのかな。でも王都に行くって言って次の実が違う方向にあったら王都には行かないから、結果的に嘘をつくことになってしまう。
というか王都に着くまでこの世界にいるつもりもないから、どの道嘘になることには変わりない。
「分かった、王都を目指そう」
どうやって不自然にならずに洞窟に行く展開に誘導しよう。そもそもその洞窟はすぐに分かる場所なのだろうか。
が、そんな私の心配も杞憂に終わることになる。
歩いている間、私はひたすらシルアに王都の観光名所について聞かされていた。私がちょっとだけ聞いたことのある、元の世界の異国の風景のようだった。王都のお城が江戸城や大阪城よりもすごいのかどうかは興味がある。
二日半ほど歩きもうすぐマイル村に着くというころ、私たちは異様な光景を目にした。
村の近くにたくさんの蛇が徘徊しているのである。私の知っている限り蛇は群れを作らないし、そもそも徘徊している蛇たちは色とりどりの原色だったり口から緑色の何だかよく分からない霧を吐いていたりと色々おかしい。百歩譲ってここがファンタジー世界だとしても、こんな魔物が人の住む領域の近くでひしめいているのは緊急事態だ。
「シルア、この辺りは蛇が多い土地だったっけ。私記憶喪失だからよく分からないんだけど」
「そんなことないしこいつらは一般的な蛇じゃないですよ、魔物です! 何かの異常事態があって大増殖してますって」
シルアは私をこころなしか冷たい目で見る。常識で考えろよ、ということらしい。まあ私もおかしいとは思っていたけれども。異世界だともしかしたらこういうこともあるのかもしれない、と思ってしまう。
「ただ確認しただけだって。つまり、結構やばい状態ってこと?」
「そうですね」
そんな会話をしていうちに私たちに気づいた蛇たちがこちらに向かってくる。
仕方なく私は剣を抜く。とはいえこんな奴ら相手にどうやって戦えばいいのかは分からない。剣術というものは蛇と戦うためには出来ていないし、そもそもこの蛇たちが普通に斬れるのかすら分からない。
しかも、人(もしくはゴブリンのように人型の魔物)が相手なら気配や動きで次の動きが予想できるが蛇相手ではそうはいかない。まずはこいつらの動きに慣れるために様子を見ようか。
いや。
「せいっ」
私は意を決すると近づいてきた全身が黄金色に輝く蛇に突きを繰り出す。蛇は地を這っているが、要は倒れている人間を突くときと同じ気持ちになればいいわけだ。
蛇は人よりも体が細いから当たりにくいと思われるかもしれないがそうではない。人間相手でも「面」「胴」など狙う場所を考えれば当てなければいけない範囲は狭い。蛇の心臓も人間の心臓も大きさ自体はそんなに変わらない(と思いたい)。
「ぐえええええええ」
胸を突かれた蛇は気持ちの悪い悲鳴を上げて倒れる。
すると今度は隣色にいた真っ赤な蛇が口から緑色の霧を吐き出してくる。
こういう、当たったらどうなるか分からない攻撃は困る。人間が繰り出す攻撃なら必殺の一撃なのか軽いジャブなのかそれともフェイントなのか、見たらある程度分かるのに。
仕方がないので私は大事をとってバックステップを踏んで距離をとる。
目の前が霧で満ち、つんとした刺激臭が鼻をつく。恐らく毒性があるのだろうがやはり当たるとどのくらいのダメージなのかはよく分からない。後ろから回り込もうかと思ったがその蛇の後ろからは続々と後続がきているので、仕方なく私は剣を投擲する。
私が退がったと油断した(?)蛇は頭部にまっすぐ剣を受けて呆気なく絶命する。
さらに霧の中から私に向かってきた蛇に今度はナイフを投擲する。戦う用というよりは野営の準備に使う用にシルアにもらったものだけど。
が、そこで私は誤算に気づく。蛇を殺したら緑の霧は消えるものかと何となく思っていたが、霧は投げ終えた剣の上で立ちこめ続けている。格闘も出来なくはないけど、蛇相手ではリーチに不安が残る。この世界に来たときに唯一一緒だった愛刀を置いていくのは忍びないが、ここは霧が消えるまで退くしかない。
「沖田さん!」
不意に私を呼ぶ声とともに頭上から弧を描いて短剣が落下してくる。
ナイスタイミングだ。
「ありがとうシルア!」
私は剣を受け取ると前進して足元の蛇を突く。蛇は声もなく絶命した。
気が付くとシルアが私の後ろに立っている。
「大丈夫?」
「沖田さんに剣一本渡して少しきつくなりまして」
「それは悪かったね。代わりに背中は任せて」
少し前に出会ったばかりなのに不思議と私たちの息は合った。より正確に言えばシルアはうまく私をサポートしてくれた。
その後しばらく私たちは前後からやってくる蛇を斬りつけた。蛇は色を初めとして様々な特性がある。鱗が固いもの、口から何か吐いてくるもの、噛みついてくるもの、中には尻尾で石を飛ばしてくるものまでいた。
が、その中にひと際異彩を放つ存在がいた。体長は人間数人分に及び、牙だけでも一メートルはありそうで、硬そうな鱗が全身で黒光りしている。そんな大蛇が私たちの方に近づいてくる。大蛇は私たちが背中合わせであまり動けないのをいいことに、私たちを囲むようにとぐろを巻いてくる。要するに囲まれた形になる訳だが、逆に相手もこちらの攻撃を避けづらいのではないか。
「やあ!」
すかさず私が突きを繰り出すとカキン、と蛇の鱗に命中して腕が痺れる。借り物の短剣は短くて小ぶりなので一撃が軽い。愛刀ならば、と思ったところで大蛇は口から炎を吐き出した。
「危ない避けて!」
「え」
私は慌てて横に跳び、シルアは地に伏せる。次の瞬間、私たちが立っていた辺りを炎が駆け抜けていく。
が、炎は同時にその辺りに残っていた緑の霧も吹き飛ばしてもくれた。私は次の瞬間、霧が晴れてあらわになった愛刀を拾う。大蛇は私たちが動揺していると見てとぐろの輪っかを締め上げてくる。なるほど、私たちの攻撃など鱗でも弾けると思っているのか。
こればかりは賭けになるが、どの道やるしかない。
「せい!」
私は鱗の一点を狙って突きを繰り出す。私の渾身の突きでも鱗に傷がつくばかりで貫けない。
だが、私は瞬く間に全く同じ一点にもう一度突きを繰り出す。
ぐさり。鈍い音がして私は鱗を貫く感覚が腕に走るのを感じる。
「ぎゅええええ」
大蛇は醜い悲鳴を上げる。
「さすが沖田さん」
シルアも鱗を刺そうとしていたが失敗したらしく、こちらを感嘆の表情で見つめる。
「でも、まだ蛇は動きを止めていないみたい」
「私にお任せを」
シルアは短剣を持って私が刺した傷跡のところにやってくる。そして傷口をもう一度刺す。何回も刺してダメージを蓄積しようということだろうか?
が、次の瞬間大蛇は苦悶の声を上げて顔をしかめる。蛇の表情なんて分からないけど。
「まさか……毒?」
「ご明察です。さ、もう行きましょう」
「う、うん」
私たちは動きが鈍った蛇の胴体を跳躍して大蛇の元を去る。苦悶した大蛇はやがて動かなくなった。残りの蛇たちもボスを倒されて気勢をそがれたのか、だんだん数を減らしていく。
でもシルア、常に剣に毒を塗っているなら私と最初に会った時も毒を塗っていたのかな。考えてみると怖い話だった。
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