第5話 迷路御殿の紳士王
その1
「バイト君、荷物置いたらこっち来て」
放課後、いつものように異民局に出勤したルカは、
今日は予定していた巡回を中止して、別の任務につくのだという。
「護送ですか? 今から? 誰を? どこへ?」
「この間、2人組の盗っ人をつかまえたでしょ? その片割れを地下に連行するの」
「地下?」
「今朝方、
リンカイ区は複層構造になっていて、ルカたちが暮らす地表部分を第1層、その真下に広がる空間を第2層と呼ぶ。
真下といっても、第2層の底面は海面下2,000mに達し、移動手段は異民局の地下に敷設された外周列車のみで、一般人の往来は禁じられている。列車は片道およそ15分程度で、1時間に1本しか運行していない。
「大丈夫ですよ。手袋はめておけば何もできないから」
リンと慧春のやりとりにルカは首をひねった。
「もう裁判終わったんですか? 捕まえて1週間経ってないですよ? こんなモンでしたっけ?」
「ココじゃこんなモンだよ。アイツは2度目だからね」
「はぁ」
ルカのおぼろげな記憶では、この国の裁判はもっと時間がかかるはずで、リンの口ぶりから察するにこれも24区独自の事情が関わっているようだ。
慧春と細部の打ち合わせを済ませたあと、リンとルカは保安課のオフィスを出た。
「そんなビクつかなくてもいいよ」
エレベーターに乗りこんだリンはB2のボタンを押す。
「護送っていっても、松形は
「はあ」
「それにアイツくらいならバイト君でもヨユーでしょ?」
「いや、それはどうですかね。……あ、そういえば、もうひとりは? たしか
「アイツは非能だから今回は拘置所行き。次は知らないけど」
「やっぱり能力持ってるヤツのほうが罪が重くなるんですか?」
「トーゼン。だから
地下2階は一般人の立ち入りが禁止されている。エレベーターホールからは廊下が左右に伸びており、留置場は左の廊下を少し行った先にある。
廊下を遮る鉄格子の手前に警備員が立っていて、リンの差し出した護送許可書を入念に確認したあと鉄格子の扉を開き、ルカたちが通過すると再び施錠した。
「ずいぶん厳重なんですね」
「悪あがきするヤツがいるからね」
鉄格子の先は、通路の左右に個人用の居室が5つずつ並び、奥の突き当りが共同室になっていた。
リンが目的の居室まで行くと、鉄格子の向こうにいる警備員が、居室の扉の鍵を遠隔解除した。
「松形、出な」
「はいはい。よーやくかい」
居室で寝転がってい松形は、リンの顔を見て一瞬ぎょっとしたが、廊下に出てきたときにはふてぶてしい笑みを浮かべていた。
「じゃ、エスコートよろしく」
松形の手首には大型の手枷がつけられていて、リンは手枷につけられたロープを握ると、何も言わずスタスタと鉄格子のほうへ歩き出した。
「イテテ! 早いって!」
リンに引きずられる形で松形が続き、その少し後ろをルカが追っていく。
「おおー!」
エレベーターを出たルカは予想外の光景に目を奪われた。
異民局の地下3階全体が外周列車の発着場になっていて、広いプラットホームの先に8両編成の列車が横たわっているのが見える。
「バイト君、こっち」
ルカが立ち止まっている間に、リンは警備員のチェックを済ませプラットホーム内に入っていた。
「すいません!」
慌てて駆け寄る間にも、ルカは興味深く周りを見渡す。
プラットフォームには同じ作業着を来た人々がせわしなく動き回り、車両内の貨物を運び出したり、反対に荷物を積み入れたりしている。
「なにニイちゃん、もしかしてココ初めて?」
やっと追いついてきたルカに松形が笑いかけた。
「はぁ。まだバイトなもんで」
「はー、じゃあしっかりベンキョーしないとな」
松形は留置場を出てからずっと陽気にしゃべり続けていた。当人は愛想を振りまいてるつもりのようだが、リンが無視を決めこんでいるので、なんとなくルカが応対していた。
「びっくりですね。駅も広いし、列車もデカイ」
「はーん? 広いっちゃ広いが、デカイってこたーないだろ。こんなの地下鉄の中でも小さいくらいじゃねーの? ……まさか地下鉄知らないとか言わんよな?」
「ん~、乗ったの大昔なんで。路面電車くらいを想像してたんですよね。まさか貨物車両もあるとは」
「いやいやいやいや、ニイちゃん、逆よ逆。むしろ荷運びがメインなわけ。客乗せるのは前の2両だけ。人を乗せるのは俺らみたいなヤツを運ぶときくらいで、下からの荷物を運ぶほうがダイジなんだからさ」
「下って第2層からですか? 何運ぶんです?」
「そらいろいろでしょーよ。肉だの魚だの野菜だの」
「? 第2層って畑とかあるんですか?」
「はぁぁぁ? そこ!? そこから? ニイチャン、そりゃ物知らずだよ。異民局の人間が……、イテ!」
「ほら急げ。発車まで時間ないんだから」
リンを先頭にして一行は一番前の車両に乗りこんだ。
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