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警察署に到着し、美咲が覆面パトカーを下りると、川本も運転席から出てきた。そして、
「あっちに停めといて」と後部座席に乗っていた男性警察官に指示を出した。
雨はまだ降っている。頬に水滴が当たって弾ける。風はさらに強くなったようだ。
「こちらにいらしてください」
そう言って警察署の入り口に向かう川本の後を、美咲は付いて行った。
警察署に入ると、すぐ正面がエレベーターになっており、川本はボタンを押してその扉を開けた。
狭いエレベーターのなかに入ると、
「刑事課は四階になってますので」と言った。
警察署の刑事課など、一度も行ったことがない。さすがに緊張する。エレベーターのボタンのすぐ横に、各階の案内表示のような小さなプレートがあり、
一階 交通課
二階 警務課・署長室
三階 警備課・講堂
四階 刑事課
五階 生安課・武道場
と書いてある。
警察署だから、きっとこの建物のなかのどこかに留置所がある。美咲はなぜか留置所は地下室にあるという勝手なイメージがあったので、警察署に地下階がないことを少し不思議に思った。
「あの、逮捕された𠮷岡さんや金田さんは、こっちの牢屋にいるんですか?」美咲は川本にたずねた。
川本は少しのあいだ考えるようなしぐさをして、
「いえ、もう両被疑者とも送検してますので、ここには居ません。移送されてなければ、今は市内の拘置支所にいるんじゃないでしょうか。拘置所の支所ですね」と答えた。
拘置所と刑務所が県庁所在地のはずれにあるのは知っていたが、市内にその支所があることは知らなかった。
エレベーターが四階に到着し、扉が左右に開く。
目の前は広い空間になっており、ふつうの事務机がいくつも並んでいる。一見するとふつうのオフィスのようだが、天井から「刑事二係」や「組織犯罪対策係」というあまり見ない単語の看板がぶら下がっている。
人は少なく、特に「強行班係」という看板の下には、ひとりも人がいなかった。
エレベーターから右に曲がり、細く伸びた廊下を、川本に着いて歩き、「応接室」という表示の出ている扉の前までやってきた。
そのとき、背後から、
「川本警部」という男の声が聞こえてきた。
三十代のスーツを着た男が、こちらに駆け寄ってくる。
そして、男は「ちょっと……」と言いながら川本の耳に顔を寄せ、小声で何かを言った。
「それ、本当?」聞いた川本が顔色を変えた。
「はい。間違いないです。とにかく至急、捜査本部まで来てください」
川本が肯くと、男は美咲の姿をちらりと見ただけで、去って行った。
川本が応接室の扉が開けて、中に美咲を導く。
そして、
「すみません。たいへん恐縮ですが、なるべく早く帰ってくるので少しお待ちください」
美咲を部屋にひとり残し、やや乱暴に扉が閉じられた。
何かが起こったらしい。
どうすることもできないので、美咲は黒い革製のソファに座った。
磨りガラスの窓の外から、細かい雨が斜めに振り付けている。応接室とはいうものの、四畳くらいの狭い空間に、ソファと安っぽい木製のテーブルがあるだけで、絵画や花瓶など部屋を飾るものは一切ない。まるでドラマで見る取調室のようだった。
部屋に灰皿はないので、禁煙なのだろう。タバコとライターをポケットに突っ込んで持ってきてはいるものの、吸えるのはしばらく先になりそうだ。
美咲はスマホを取り出して、ブラウザを起動させた。
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