二章 盲目


夢があった。


ただひたすらに、がむしゃらに追いかけてどうしても叶えたい、そんな夢。


諦めなければ叶う。

頑張り続ければ報われる。

辛いことだって、苦しいことだって、それは全て夢を叶えるためだから。

だから、どんなことだって頑張れた。



「将来の夢は何ですか?」


それは小さい頃、耳にタコができるほどに聞かされた言葉。


誰にも等しく夢があるような、それが当たり前であるかのような、そんな質問。


夢があるのは素晴らしいことで。

夢がないのはつまらないことで。


「みんなも素敵な夢を持ちましょう!」


大人は随分と身勝手なことを言った。




夢があった。


全てを投げ出してでも追いかけて、どうしても叶えたい、そんな夢。


努力を怠らず、常に前に進み続ける。

その場に留まらず、常に変化を求める。

その姿勢を、周りは〝素晴らしい〟と評価した。


夢は大きければ大きいほどに良しと評価され、無責任に褒め讃えられ、焚き付けられ、そして勝手に期待される。

それでも応援してくれるなら、と。

期待に応えたい、と。

振り返らずに、ただただ走り続けた。




夢があった。


追いかけて、追いかけて追いかけて追いかけて。

それでも追いつけない、叶えられない。

そんな夢。


努力は怠らなかった。

妥協はしなかった。

振り返らなかった。

下は見なかった。

足は止めなかった。


ずっと、頑張り続けた。


なのに。


「いつまで追いかけてるの?」

「いい加減現実を見なよ」

「そろそろ落ち着いたら?」

「お前みたいなやつがいるから、この世の行く末が不安になるんだ」


応援はいつしか呆れに変わり、そして批判に成り代わる。

夢のある素晴らしい子は、いつしか現実が見えていない可哀想な人になった。




夢があった。


どうしても叶えたかった夢。


私の夢。


私の、夢?


どんな、夢?


叶えたいが、叶えなければに。

夢は呪いに。

投げ出したものが、犠牲にしたものが多すぎて。

期待に応えなければ、と。

周りの目を気にし過ぎて。

立ち止まれなくなった。

振り返ることができなくなった。


夢を叶えるために走り出したのに、走ることが、走り続けることが目的になっていて。

全てを投げ出して、がむしゃらに走ってしまったから。


来た道が分からない。


でも、どこに行きたかったのか、目的地だってもう分からない。


つまずいて転んだとき、そこはもう、知らないところだった。


走り続けた結果がこれだ。

目の前に広がるのは、まるでどこまでも広がる、宇宙のような真っ暗な闇夜。

前も後ろも、上も下も。

何も、何ももう分からない。


身体が痛い。


心が痛い。


「もう、立ち上がりたくない」


立ってしまえば、また、走らなければいけないから。

きっと、そうしてしまうから。


もういっそ、このままここにいられたら。


そうしゃがみ込む私に、一筋の光が差した。


「今日はどちらまで?」


差し伸べられた手は温かく。

紡がれる言葉は優しかった。


身体を火照らせるほどのあいが、私の全てを包み込む。

目がくらむほどのまばゆいあいが、私の闇夜を照らす。


「さあ、どうか私の手を取って」


それはまるで夜明けのように。


もう迷わないように。

もう惑わないように。


まるで太陽のような、貴方の手を取る。


明るく照らされたこの未来さきを、私は貴方と歩んで行く。


引力あいが続く限り、どこまでも。

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