【それから】

【それから】


その日の午後、憔悴しきった2人の日本人[ばあや]と[敏腕マネージャー]のもとにアメリカ政府関係者から連絡があった。

「グランドキャニオンで行方不明となったポーラとマリー他日本人一名は本人達の希望により、日本に直接送り届ける。場所は【巽島】である。」


ヘレンの計らいで政府専用機でハマ・マリー・ポーラの三人はそれぞれ、巽島・グランドキャニオン・ハリウッドへ送ってもらえることになった。

「本当に一緒に帰っちゃっていいの?」

「オッケ〜❤️」

「はい、大丈夫だと思います。撮影は大体終わってて、後は同じ服の別バージョンで夕景で撮るだけでしたから。それに、雑誌自体は出るってヘレンが言ってましたし。あっ!でもこの服、買い取りになっちゃう!」

「マリーちゃん、大丈夫だよ、ヘレンが払ってくれるよ❤️私なんか一人で飛ぶバージョンの撮影やってないよ❤️」

「そうよ、何とかなるわ。」

「うん、なんとかなる」

ポーラの天然の能天気さとハマの静かなひと言でマリーは少し気が楽になった。

「ねえ、ハマちゃんは何をしてた人なの?」

「私は女学校を出て尋常小学校、今でいうところの小学校の教員になって、直ぐに同僚の先生と結婚して子供を二人産んだけど、夫が肺の病で30歳で亡くなってしまったものだから、ずっと小中学校の教員をしていたの。定年してからは教科書を作るお仕事をね。」

「小学校かぁ、私ね、小さいうちに親が色々あって、小学校の時に日本に来たの。」

「私も、2歳の時に両親が離婚して、パパの故郷のカナダに行ってたんだけど、小学生になるときに日本に来たの。」

「へーそうなんだー!一緒だね❤️日本にいる[ハーフタレント]ってみんなそうなのかなぁ?」

「みんなってわけじゃないだろうけど、私のまわりでは多いよ。やっぱり。」

「そうなんだー。でもマリーちゃんは可愛いからモテたでしょう❤️バレンタインに女子からチョコレートもらったりした?」

「その逆!私は言葉はわかったけど、見た目がコレでしょ、色白で、可愛くて、身体も大きかったからスポーツ万能だったの。自分で言うのもなんだけどね。だから特に女子にはいじめられた。お決まりの上履き隠しから、机に[外人死ね!]みたいな。」

「そう、純粋な分、子供の方が辛辣ないじめをするのよね。でも、それは教師の責任ね。」

「私は、本当のお母さんは日本人のハーフだったんだけど、ダディーと新しいマミーが英語だったから、初めは日本語が全く分からなかったの、だから身振り手振りでコミュニケーションしてた、それと、ずーっと笑顔でいたの。それで、真っ黒になるまでみんなと学校や公園で遊んでたの。男の子みたいだったの。だから全然いじめにあわなかった❤️」

「なんで、二人ともモデルの世界に進んだの?」

「私の場合は高校の時に原宿でスカウトされて。というか、ダディーの仕事が上手くいってなくて、弟たちもいて、貧乏だったから、わざとスカウトされそうな場所を通って帰ってたの。」

「えー!なにこれも[ハーフモデル]あるあるなの?!私も一緒!パパがやっぱり芸能関係してたんだけど、全然仕事がなくて、お金がなくて、弟のためにも頑張ろうと思って、渋谷でスカウトされたの。」

「あら2人とも偉いわね。最近のアイドルグループみたいに自分がなりたいからじゃなくて、弟や妹のために家計を助けたかったからなんて。でも今はお仕事は楽しい?」

「うん!すっご〜く楽しい❤️」

「私も。パパも喜んでくれてるし。それにね、実は今自分のブランドを立ち上げてて、」

「わー!すっご〜い!お洋服のブランド?」

「まずは服と化粧品。それから食品メーカーや住宅メーカーさんとも企画していて、ライフスタイルをまとめてデザインしちゃうみたいな感じかな」

「それすごくいいねっ❤️」

「マリーさんお若いのにすごいわね。ポーラさんはこれから何かやりたいことはないの?」

「私は今みたいにモデルだとパリコレ出ようと思ってるし、それだけじゃなくて、歌を歌ったり、映画が好きだからハリウッドに住んでレッスンとかオーディション受けようと思ってる。」

「あら、素敵ね。でもね、それは普通の人が願う事。あなた達は、望めば人の何倍も生きられる【龍人】なのよ。今の夢が叶ったら次は何を望むのかしら?」

「ウン、その次は動物の保護活動する!ネコちゃんやワンちゃんだけでなくて、アフリカとかの野生動物全部!」

「そうですよね…ハマさんはこの後なにか考えてるんですか?」

「長年生きて来るとね、やりたい事や出来ることがどんどんなくなってしまうという人が多いわね。でも私は、やりたい事がドンドン溢れてきて、今の夢の一つが【巽島】に学校を作りたいわね。文科省の管轄外の自由教育を行える学校を開いて、その校長になること。」

「それ絶対良いと思います。できたら私達と同じような境遇の子供たち『ハーフや外人の子や金銭的に恵まれない子』を受け入れて、自分の好きなことができる学校にして欲しい。」

「アタシもそれ賛成❤️」

「是非そうさせてもらいますね。それにね、これからアロと同じように囚われている世界中の【龍人】達を解放していくでしょう?」

「ウン、もちろん❤️」

「はい、出来る限りは。」

「みんながみんな子供とは限らないけれど、その人達の居場所が必要だと思うの。できればアロちゃんにも入学してほしい。白人ばかりの世界では、いやでも昔のことを思い出してしまうと思うから。平和な日本で普通の子供として育ってほしい。」

「【巽島】ってどんなとこですか?」

「良いところよ、着いてからのお楽しみ❤️大きな白い【龍】の【シロちゃん】が待ってるわ。」

「わー楽しみ❤️でも【巽島】から一度東京に帰れるかな?直ぐに次の場所ってことはないよね?」

「それはないと思う。私も一度[ばあや(マネージャー)]に顔見せないと流石に怒られると思うし」

「ふふふ、そうね。アメリカ大統領選挙が終わるまでは大丈夫だと思うわ。でも、私のもう1つの夢はこれまでに行ったことのない世界遺産をすべて見て回ることなの。だから早く次っていう気持ちも無くは無いわ。だって、そうすれば旅費はヘレンが持ってくれるでしょ?」


戯けたようにそう言ったハマの台詞に三人は笑った。

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