【作戦開始】
【作戦開始】
アメリカ国防総省本庁舎、通称『ペンタゴン』の公表値は地上部分の一辺281m高さ24mの地上5階地下2階だが、実際の深さは246.965m。
さらにそこから699.6467mにアロが囚われているペンタゴンの秘密地下施設がある。
その入り口は中心より1530m離れたアーリントン墓地の無名戦士の墓にある。入り口は最新のセキュリティーにより、大統領・国防長官・国務長官等の高官他一握りの人間しか開けられないし、その存在自体知らないのだ。
あと20分ほどでペンタゴンというところで、【じいや】がインターホンで機内放送を流した。
「お嬢様。アンドルーズ空軍基地から緊急発進してきた戦闘機、第113航空団のF-16から警告が入ってますがうまく通信できません。」
「【龍=流】の力が強すぎて電波が乱れているんだわ。いつもなら私一人だからなんとかなるんだけれども」
「お嬢様、この機体はすでにロック・オンされている様です」
ヘレン国務長官が機内を素早く移動して、副操縦席に座り、無線で叫んだ
「こちらはヘレン国務長官、暗号コード【DC1】!繰り返す暗号コード【DC1】!暗号コード【DC1】!!!」
「...繰り返す…引き返せ…さ…くば…攻撃……サイルを発射する…9、8…6…」
「お嬢様、このままでは撃墜されてしまいます。一旦引き返しますか?」
戦闘機のパイロットがミサイルをロックオンしたその時
「ヒィッ!!!」
高度な訓練を受けた戦闘機乗りが声にならない悲鳴を上げた。
目の前に銀色の宇宙人が取り付き、グローブを外すと、こともあろうか、ポリカ積層強化アクリルのキャノピーに爪で【DC1:ヘレン国務長官】と文字を書いた。
そしてジェスチャーで(わかったか?)とヘルメット越しに睨みつけられた可哀想なパイロットは必死に頷いた、何度も。
宇宙人がキャノピーから離脱したファイティングファルコンは急旋回して逃げるように基地へと戻っていった。
こうして、無事に目的地までたどり着いた純白のVTOL機はアーリントン円形劇場前の道路に着陸した。タラップを降りてきた五人の女性に、ルーズベルトドライブ脇の街路樹をクッション代わりになぎ倒して着地する羽目になった宇宙人が合流した。
機内に【じいや】を残して6人はヘレンを先頭にシャルロッテ、ナサニエル、マリー、ポーラ、ハマの順に続いて無名戦士の墓まで歩いて行った。
アークのような巨大な白大理石の前を着飾った衛兵が銃を捧げて往復している。
国務長官の姿を見るとロボットのように敬礼し、巨大な大理石の裏に回り込むと、大きな国旗の両端をパンと張って直立のまま動かなくなった。
皆が見守る中、ヘレンが地面に埋め込まれている3枚の大理石版の右の中央に右手を置くと刻まれた文字から青いレーザ光が生体認証をサーチした、左は左手を同様に赤い光が、最後に中央の石板にキスするようにかがみこむと両目の網膜を白い光がスキャンした。
2人の衛兵の掲げたアメリカ国旗に隠された巨大な大理石の塊の裏に回ると入り口が開いていた。
先が見えないほどの急で長い白大理石のトンネルの底から、滑るように流線型のトロッコが上がってきた。トンネルの直径とほぼ同じ円形の断面には4方に車輪がついており極限まで抵抗を減らす工夫がされている。ヘレン国防長官は説明を再開した。
「振動で少しでも方陣がずれることのないように、200年前からこの形なの。何かあったときは蓋にもなる。決して【龍人】を逃さないように作られた檻の入り口、パンドラの箱の蓋。」
6人が乗り込むと傾斜角65.42度・長さ1682mをおよそ2分という文字通り急降下で一気に地の底まで滑り落ちていった。
急減速に床から突き出た木製のポールに掴まり踏ん張って耐えるとドアが開いた。
目の前に広がるスポットライトに浮かぶ巨大な白大理石のドーム。
ヘレンのヒールの音がコツンコツンと異様に響く。
こういった場所あるあるで、何故かみんな黙ったまま足音さえさせないように彼女について行った。
そのドームの真ん中にマリーとポーラがキャニオンでハマが空港で出会ったネイティブの少年の姿のまま、アロはぐったりと横たわっていた。
右手にある詰所から銃を持った見るからにネイティブとわかる若い兵士が二人駆け出してきた。一同に緊張が走ったが、兵士たちは国防長官の姿を認めるとすぐに銃を降ろして敬礼し指示を待った。
ヘレンは二人の兵士と握手を交わしながら5人の【龍人】達に説明した。
「ウルトゥーとハララカ、この兵士達も仲間。彼らはこの国の多くのネイティブ達のように、ただ単にカーズ大統領の人種差別主義に反対しているだけではないの。彼らは【裏切り者】の末裔で代々この任務を引き受けてるの。だけど今は解放組織【ディクロン】の一員。もっとも白人はこんな仕事場で【龍人】のお守りなんてやりたがらないでしょうけど。さあ、始めましょう。」
国防長官の合図で兵士たちは詰め所に戻って、操作盤のスイッチを順に操り始めた。
一番外側の一辺281mの5方陣の頂点にそれぞれ中央より36度傾けて縁の彫刻が特徴的な縦長の鏡が設置されている。さらに内側に向かって順に12段階の5方陣が描かれ、同じように鏡が設置されている。今は一番外側にだけ光のラインが結ばれていた。
「たったこれだけの仕掛けで【龍=流】を持つものは永久に閉じ込められてしまうの」
「くだらん。フンッ!」
ナサニエルが右腕の先から黒い龍の手を突っ込んだ刹那、光が通り過ぎ、肘から先の腕が消えてしまった。
「キャッ!!!」
「まぁ大変!」
「WAO!」
驚いた3人を尻目に
「そのうち生えてくるわ」
シャルロッテが冷たく言い放った
スイッチを切り替えるたびにその一番外側に走っていた光のラインが消え、2番目のラインへと移り、次、またその次とその輪を縮めていく。あと2本というところで気を失って寝ているアロの右手が光の線に触れそうになりスイッチが止められた。
「これ以上は無理みたいね。」
「アロが目を覚まして動いたら大変、急ぎましょう」
「最後のラインってあれ、ずっと立たされているって事でしょ!?」
「ひっどーい!!!」
光線ギリギリまで足早に駆け寄った。
(手が届きそう)
皆が思った時、ポーラが自然と手を伸ばしてしまった。
「アッ!」
高速の光はポーラの右手を切断する事なく、ポーラの輪郭をなぞるとそのまま通り過ぎてしまった。
びっくりしたポーラは手を引っ込めて皆と顔を見合わせた。
「白き龍は陽。黒き龍は陰。だが金の龍は調和が源、よって流されることはない。」
「ポーラが身体で輪を作り、そこを通れば救い出せるわ。」
「じゃあ、あたしやってみる。どうしたらいい?」
「一人じゃ無理ね。力のバランスを考えるとナサニエルとシャルロッテなんだけど、彼の腕が一本じゃ抱えられないでしょう。」
「そんなことはない、子供の一人くらい片手で…」
ナサニエルの言葉を遮ってシャルロッテは続けた
「だからハマとマリーが輪をくぐってアロを連れて出てください、お願いね。ただし、結界の中では強く【合一】すること。そのためにはハマは【白龍】のことを【美しい】と思うこと。マリーは【黒龍】は一緒にいて【気持ちいい】と思うこと。」
「あたしは?」
「【金龍】の場合は何も考えないこと」
「オッケー!それ得意!」
そう言うと、なんの躊躇もなくポーラは光線に飛び込み両手で輪を作った
「それじゃ高い!虎の火の輪くぐりじゃないんだから」
「じゃあこれは?」
床に腹這いになって両手で爪先を掴んでウンと引っ張って背中を反らせた。
「ポーラ、キツくない?そのままでいられる?」
「ウーン、無理!」
早々につぶれると、次に前屈した。
「光は背中側を通り抜けてるけど、胸が邪魔で思ったほどスペースがないわね。」
「じゃあこれは?」
80センチはある長い足に5センチヒールのスニーカーを履いた両足を広げて大の字に立った。
「ポーラトンネル❤️」
「いいんじゃない!」
「これなら十分!通れそうですよ」
「OK!どうぞ!お通りくださーい❤️」
大文字焼きのように光りながらポーラはニッコり白い歯を見せた。
「よっこらせっと」
「ポーラ、ごめんね」
小さなハマは悠々と、マリーは細身の体をしなやかに使ってトンネルをくぐって少年の足元に入り込んだ。
「私が頭を持ちますから、マリーさんは足の方をお願いしますね」
「頭の方が重いけど大丈夫ですか?」
「あら、こう見えても【龍人】なのよ。それに子どもを抱くのはあなたより慣れていると思いますよ」
「そうですよね、じゃあハマさんから先に出てもらってもいいですか?」
「よっこらせっと」
ハマはアロの両腕を胸の上でクロスさせると上半身を起こしつつ頭を自分の左肩に乗せて脇の下から手を回してしっかりと抱きかかえた。そしてそのまま後ろ向きで腰をかがめたままポーラトンネルをくぐり抜けた。
「80年生きてきて、初めて小さくて良かったと思ったわ」
続いてマリーがお茶汲み人形のように小さな足を抱えて膝歩きでにじり出てきた。
「アロッ!」
シャルロッテが待ちきれずにハマから奪うようにアロを抱きかかえた。
「よいしょっと!」
掴んでいたアロの足を離したマリーが引っ張られて慌てて伸び切った自分の後ろ足をポーラトンネルから引き抜いた瞬間、警報が鳴り、詰所の警報ランプが回転しながら白いドーム内を赤く染めた。
続いて一番外側の方陣から順番に作動し始めた。
これまで、アロが幾度となく地下施設を脱走し、地上のペンタゴン内をうろついたり、カフェでホットドックを盗み食いしたりしていたため、最後にマリーが結界を離れたとき【龍の檻】が無人になったとして自動緊急装置が働いたのだ。
このままでは全員が閉じ込められてしまう。
ヘレンが詰所を振り返ってみたが、慌てて操作盤と格闘していた兵士たちは監視窓からどうしようもないと首を振っている。
「一度アロを戻して作戦を考え直すか。」
「アロにそんな時間はない。」
「誰かとりあえず残って・・・」
慌てる一同をしり目にハマはさっさとポーラの輪をくぐり中央に戻った。
「私は十分生きました。若い方が先に進むべきです。その子を安全な場所に連れていって、早めに迎えに来てくれるのを待ってますよ」
そう言ってハマが中央に正座すると緊急装置が解除されて警報が鳴りやんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます