【分龍】

【分龍】


【聖なる泉】を取り囲んで座っている6人の長老達。

その一番奥の長老が泉に向かって声をかけると【アロ】が飛び出してきた。

「お前の姿を見せておくれ、【アメリゴ】や。」

少年が白く輝く。そのままとろけるチーズの様に長く垂れて、羽根つきガラガラヘビがその本当の姿を現した。白い輝きだけならいかにも神聖な感じがするその姿は、白い表面に赤と黒が、太陽の黒点の様に蠢いて大きさと場所を変えながら歪なマダラ模様で全身を覆っていた。

))こんなになっちゃった((

「これまで、アロを守ってくれた証でしょう。ありがとう。」

2Mを超える羽付きガラガラヘビに愛おしそうにシャーロットは話かけた。

「アロは元気?」

))うん!元気!((

「あなたは【大いなる流れ】に戻ってしまうけれど、良いの?【アメリゴ】」

))名前を呼んでくれた!もうひとりのおかあさん、ありがとう。《

「そうね、アメリゴは私のもう一人の子供だものね」

「私達のだがな。アメリゴ。」

))ありがとう、ナサニエル((

「何故、父さんと呼ばない?!」

))だって、初めましてだし、黒龍だし((

「会っていきなり反抗期か?!」

))そもそもアロとあたしがこんな事になったのは誰のせい?((

「それは…んっ?アメリゴ、お前、女の子だったのか?!」

))まあ。人間で言えばね((

「当たり前でしょ、馬鹿。【龍人】と【龍】は対なんだから、あなたと【シーヤー】だってそうでしょうに。」 

))いいよ、もうすぐお別れだし((

「アメリゴ、本当にいいの?」

))見ての通り、あんまり具合が良くないんだ。人で言えばステージ4の末期癌ってとこみたい((

「龍の本質と異なることを沢山やらされたのね。可哀想に…」

))うん。いっぱい殺したし、アロだって何回も殺された((

「本当にごめんなさい。守ってあげられなくて」

))あたしの代わりにアロを守ってね、ママとパパ((

「ありがとう。【大きな流れ】で綺麗になって、また会えるわ、きっと」

「きっとだ。私達はずっと待っているからな。」

))うん。またね、バイバイ!((

羽根つき三色ガラガラヘビが最後にアロそっくりな女の子の姿になって手を振りながら泉の中に静かに消えていった。

「では」

【聖なる泉】を囲んでいる6人の長老達の、声を発した一番奥の長老の左隣からドミノ倒しで横になり転がって、雪だるまみたいに重なって、五人全部が一つになって長老の右隣に大きな塊ができた。それが金色に輝きだし、ついには小さな羽をつけた大きな熊の形になった。

「わしの金龍の【アティラ】じゃ。」

「WAO!カッワイィ〜ッ❤️」

「ほんと、リアル・テディベアだね❤️」

「あらあら、初めまして」

「久しぶりね、アティラ。」

))この姿になったのも久しぶり。みんな元気?((

見た目通りの声が響いた。

「この【聖なる泉】の力を使って【アメリゴ】を呼び出してくれたんだね、ありがとう。」

))無数にある【泉】全部を探すことはできなかったけれど、大体の場所さえわかればね((

「まさかペンタゴンの中庭に【泉】があるとは思いもせんじゃったがの」

))あそこはすごく不安定だしね。まぁ、あたいが少しだけ掘って今じゃ安定してるけど((

「そもそも【泉】と呼ばれてはいるものの、【泉】が先か【龍】が先か誰にもわかりゃぁせんのじゃ。」

「そうね【大いなる流れ】があって、【見人】に合った波長の【龍】がシャンパンの泡のように浮かんでくるという人もいるわ。」

「そうすると【見人】が先ってことなのかな」

「でも、あたしは【泉】があったからっていうより、チビクロがいたからって感じだし…」

「私はキラキラとした道路脇の水たまりくらいに…」

ハマまでつられて続きそうになったのを長老が止めた。

「さあさ、そのくらいにして【分龍の儀】を始めますぞ」


分身だった長老達が消えた後にはただの土の地面が広がって空間を満たしていた光も今は消えて、ドーム状の洞窟の上部に雨が入らぬように下向きに開けられた穴から数筋の光が差していた。


そして【分龍】の儀式が始まる。


北を頂点とした三角には長老・ナサニエル・シャルロッテ。南を頂点とした三角にはポーラ・ハマ・マリー。 金・白・黒それぞれが対になるように六方陣の頂点に胡座をかいて座った。


「では、両手の平を上にして膝の上に。目を閉じて、【合一】している自分の【龍】にしっかり掴まっていてくだされ。」


皆一斉にヨガのスカーサナのポーズで目を閉じた。


「両手はそのままに、手の平から龍のエネルギーをだけを伸ばして…」

六方陣の北の三角の線が黒から白へ白から金へ金から黒へ色を変え混ざり合いながら走っていく。そのスピードは瞬く間に高まりやがて光りだす。


つられるように南の三角は逆に白から黒へ黒から金へ金から白へと走り出し混ざり合い光りだす。

「ぬっ…」

「ウッ!」

「WAO!」

体の中を【流】が通過しながら、軽く硬く重く柔らかく優しく激しくうねりながら加速していく。その感覚に思わず声が漏れてしまった。三人の中の【龍】達もそこに存在しながらもたゆたい移ろいゆきそうになるその感覚にそれぞれが歌のようなメロディーを発して、天上のハーモニーを奏でていた。


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二つの三角がそれぞれ落ち着いてきたところで長老は次のステップに移った

「手を大きく広げて」


二つの三角が重なると、六方陣内のこれまで地面だった場所が無くなり【聖なる泉】が再現した。光り輝く泉の中には海と空を混ぜたようなうねりと流れが見えた。

「さっき見た羽根付ガラガラヘビの【アメリゴ】を思い浮かべてくだされ」

その流れを一筋の赤い糸のようなものがクネクネと渡ってきた。

「そのまま手を上に上げる」

それは六方陣の上に見えない力で引き上げられると【アメリゴ】の形になった。

【アメリゴ】が一瞬【シャルロッテ】に近づいてきて耳元で何かささやいて【アロ】への伝言を残した。

「掌を下に向けて」


刹那、六方陣の光の回転が逆になり【アメリゴ】の体は赤いインクのように尻尾の先から吸い込まれるように溶けて大きな流れに紛れて最後に長い舌先がちろっと見えたかと思うと霧のように消えていった。

「ゆっくりと掌を膝の上に戻して。1、2、3で手を握ってイメージごと流れを止める。」

六人の手がゆっくりとそれぞれの膝の上に下ろされた。

「どれ。イチ、ニの、サン。さあ、目を開けて構わんよ。」

フゥとため息が漏れる中、【シャルロッテ】は明るく芯のある美しい声で宣言した。

「さあ、これで【アロ】は普通の人間の男の子に戻った。取り戻しに行きましょう。」

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