【黒城主】
【黒城主】
フランクフルトの宮廷御用商の三男に生まれついた。
子どもの頃から父の仕事を見て覚え、銀行家として名をはせた。
やがてロンドンに渡り、名誉の為とかいうくだらぬ戦で敗戦し、貸し付けた軍資金を払えなくなった貴族の借金のかたに資産価値的には貸した金の何倍もする郊外の古城を手に入れた。
しかしそこは窓枠からレンガの壁まで真っ黒に塗られたいわくつきの物件で、『悪霊が住み付いている』『心霊スポット』としてガイドブックにも載るような、実は貴族がかねてより手放したがっていた城だった。
【ナサニエル】はそこの隠された地下室の井戸で、自分の【龍】である破壊と殺戮の黒龍【シーヤー】と出会った。
シャルロッテが自分の城を出発した翌々日、イギリスの古城では当主の【ナサニエル】が闇黒の翼竜【龍:シーヤー】に妻の恐ろしさを示すこれまでのエピソードを延々と語り、嫌々ながら【聖なる館】に向けて城を出た。
「どうしよう、シーヤー、やっぱり行かなくちゃダメだよね?」
))ナサニエル。貴方ともあろう人が。奥方様に会うだけだというのに何を歯医者を嫌がる子どもみたいに。((
「歯医者でいいなら何万回でも行くさ!」
))女王陛下に呼ばれれば喜んで飛んで行くくせに((
「そりゃあそうさ!アレクサンドラは生まれた時からしってるし、僕の娘みたいなもんだからね」
))では、ご自分の子供に会うのはいやだと?((
「そうじゃぁない!もれなく付いてくるあの【白魔女】が怖いと言ってるんだ!」
))それは仕方ないでしょう、皆さんお揃いでなければお会いできないのですから。奥様のことがお嫌いで?((
「はははは、何を馬鹿なことを。パリの宮殿で初めて出逢った時から愛しているし、これからもずっとそれは変わることはない。ただ…お前だって覚えているだろう?!」
))それはもう、痛い程。まぁ人間風に言えばですが、【龍】は人と同じ[痛み]は感じられないので((
「だいたい、あの碧い瞳は反則だ。美しすぎる。オマケにその華奢な乙女の身に【龍】を潜ませているなんて」
))【龍】を潜ませているならナサニエルだって同じでしょう。私が中に居たんだから((
「お互いに輝いて見えたのは確かだ。しかしキスをしようと手を取った途端に離れなくなってしまうなんて思いもしないじゃないか!?」
))私も【シャルロッテ】の中の【ニコル】もお互いにロックが掛かったみたいに動けなくなってしまって((
「それで【龍人】の生き字引、困った時の【聖なる館】の【長老】のところへ直行したってわけだ」
))そう、10代の恋人達の様に手を繋いだままね((
「パリから馬車と汽車と船と馬車と馬と徒歩で180日近くかかってやっとあの荒野の地の果てのど真ん中の【聖なる館】にたどり着いた時には、すべてもう一言も話さずに分かり合える様になっていた」
))私達【龍】もそれは同じ((
「お互いに【龍人】になってから、伴侶と子供が先に老いて逝くのを見送った哀しみで、もう二度と誰かと一緒になろうなどと考えられなかったはずが、お互いに見つめ逢っただけで運命の相手だとわかってしまったんだ。」
))私は【黒龍】彼女の【ニコル】は【白龍】。陰と陽。プラスとマイナス。それが自然の理((
「そして【長老】の【アティラ】が【金龍】だった。【長老】が2人の空いている方の手を握っただけでパッと離れることができた。あの[調和]の力が無ければ150年以上経った今でもくっついたままだったろう。」
))あの時の貴方達と来たら凄かったわね((
「そうなんだ。くっついてた間は腹も空かなきゃトイレに行く事もない。それに慣れていたから、離れた途端に腹が減って腹が減って【聖なる館】の食料をあっという間に食べ尽くして、2人で狩りに出たり木の実やら野生のトウモロコシやらを掻き集めて腹を満たした。」
))そのおかげで私達も本来の自分に整った。私も【ニコル】も混り合っちゃってお互いにグレーになるところだったから((
「あの一年間は本当に幸せだった。ただ、手を繋いで散歩するにもキスををするにしてもくっついちゃうのでいちいち【長老】の手を借りなけりゃならなかった」
))そしてあの子【アロ】とその【龍】、【アメリゴ】ができた((
「【龍人】どうしの子供が生まれつきの【龍人】だなんて…」
))【長老】もこんな事は初めてだと言っていたし((
「あの【奇跡の子】が大きくなるにつれて僕とシャルロッテのバランスが崩れてきた」
))【アメリゴ】は【白龍】だったから、2対1だものね((
「出産の時。苦しそうにしているシャルロッテの手を思わず握りしめてしまった。その瞬間」
))私が吸い込まれ始めた…((
「あれが初めての【龍戦】だった。3本の綱を2対1で引き合っているような状態でズルズルと引きずられているような感覚」
))私と【ニコル】と【アメリゴ】が姿を現して口を開けてお互いを食い合うように…((
「シーヤーが小さくなっていくにつれて僕の意識も薄らいでいった。」
))貴方の身の危険を感じた【長老】が手を離そうとしたけれど駄目だった。自分の【金龍】である【アティラ】を出して【聖なる泉】の力を借りて貴方達と私達【龍】を同時に切り離してくれた…((
「反動で僕は壁まで弾け飛んだ。横たわっていたシャルロッテはそのままだったが…」
))【アロ】と【アメリゴ】は【大いなる流れ】の中に落ちて…((
「何処かへ流れていったしまった。呆然としたシャルロッテを心配して彼女の側に駆け寄った僕に彼女は叫んだ!」
『あの子の代わりにあなたが落ちればよかったのに!!!』
))誰が悪い訳でもないのだけれど…((
「そのまま彼女に背を向けて【聖なる館】を出た。ロンドンに出てしばらくしてから彼女から手紙が来た。」
))【アロ】が見つかった…((
「ただ、助けられなかった。開放するのに必要な【龍】が揃っていなかったから。」
))でも今日の日のために準備して来たでしょう?((
「ああ、【合一】も完璧だ。もうハグしたって大丈夫さ」
))あら、やっぱり逢いたかったのね?((
「まあね」
))とうとうこの時が来たのね((
「ああ、あの子を取り返そう」
Ping pong ling pong Ping pong ling pong …iPhoneの着信を確認して出ずに切った
「ヤバい!急ぐぞ!!!」
少し青ざめたナサニエルの首筋からすーっとシーヤーは入り込んでいった。
漆黒城の北棟の先に増設された円形の塔。
直径6mの内側にはセラミック製タイルを貼り付けられた高さ18mの円柱の天井部が自動開口し、塔内部からワーグナーの『ワルキューレの騎行』が大音量で流れ出た
🎶Tatara-ta!tattata-ta!tattata-ta…🎶
耐火金属製のレールが垂直に天に向かってさらに12m程伸び出し、さらに大音響で
GHOOOOOOOOO…………
燃料である液体水素と酸化剤の液体酸素がエンジンの燃焼室で燃やされて太陽の光と同じ色の炎を噴き出しながら「1人乗りロケット花火」と呼ぶのにぴったりの構造をした物体が飛び出してきた。
心棒は3mほどで下3分の1にロケットエンジン等があり、その上に耐熱遮熱性の小さな円盤が取り付けられ、そこに専用ブーツを固定させる金具が取り付けられてあり、1人の男がステルス機能を持った銀色のフライングスーツを装着し、同じ銀色のコーティングに黒い龍の紋章の入ったヘルメットを被って真っ直ぐな姿勢のまま、一気に大気圏まで向かって飛び出していった。
宇宙と空の間でエンジンは沈黙した。
銀色のスーツに包まれたナサニエルは、足元のロックを外し、リストのスマホのナビをONにし目的地を確認し方向を定めると、地球に向かって神のように大きく手を広げダイブした。
残された大きな打ち上げ花火の残骸は、再度点火すると短い間に最後の燃料を燃やし尽くしそのままスペースデブリの仲間入りをしに暗闇に消えて行った。
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