【さあ、冒険だ!】
【さあ、冒険だ!】
昨日の晩ごはんの時ウッカリ【マルコ】を肩に乗せたままホテルのレストランまで行ってしまった。【キミちゃん】に気をつけるように言われてる『あの人達』はゴーグルをしてなかったから見えなかったみたい。ラッキー!昼間の間もずっと背中を向けていたし、24時間で[監視対象外]になるっていうのは本当らしい。でももう油断はしない。
「オハヨ〜!【マルコ】❤️」
))オハヨ〜!ポーラ!((
「【マルコ】今日は冒険に出るよ!よろしくね❤️」
))オッケー!ポーラ!まかせてね!((
「ありがとう【マルコ】!❤️」
テーブルの上の果物ナイフを慣れた手つきで指先に突き立てた。
ポタポタポタポタ………スポンジに吸えるだけ吸わせて
「じゃあまた後でね❤️【マルコ】ハウス❤️」
すっかり慣れた感じでパチンと音を立ててコンパクトを閉める。
バンドエイドを貼る。
シャワーを浴びる。
着替える。
今年流行りのショルダーバッグからスマホを取り出して、昨日撮っといた写真をインスタにアップ
[♯撮影は崖プチ♯地球はすごいネ❤️♯冒険]
これでアリバイ完了。スマホのカバーを外して、本体だけロックがかからない様にしてからベッドサイドのキャビネットの引き出しにしまった。
「スマホは持ってっちゃダメだって【キミちゃん】が言ってた。探検中は位置情報でバレちゃうと困るからね。インスタはちょっとだけお休みしよっと。」
バッグに中身の無いスマホケースとお財布とハンカチとティッシュ、ドライフルーツ、グラノラバー、ナッツ、チョコレート、ミネラルウォーター3本などの非常食といつもの諸々を詰め込んだ。
ポケットの大きなカバーオールにお気に入りのTシャツ、動きやすいナイキのショーモデルのスニーカーを履いて、今日はボーイズサイズの金色の手巻き時計を身につけた。偶然にも文字盤は金色の龍だった。
準備完了!
離陸できるまでに膨らんだ気球の計器とシリンダーの残量チェックを慣れた手つきでやりながら、指導ジジイ・レーガンは籠に乗っている一番若い弟子に向かってニヤリと笑って
「お嬢ちゃん、今日は着陸を教えてやる。」
「えー!ホント〜!すご〜い!ありがと〜❤️」
「お嬢ちゃん、あんた本当に初めてなんだよな?」
「うん。そうだよ。どうして?」
「気球なんてもんは、お空に浮き上がっちまえば[操縦]ったってバーナーで上昇、リップラインでバルブを開け閉めして降下のこんだけだ。要は[気流]をつかんで[風]に乗って行きたい所に行けるかどうかが決まる。この[風]を読むっていうのがなかなか難しいんだ。」
「えー!?そうなの?だって昨日簡単に飛ばせたよ。」
「そこが不思議なんだ。なんて言うか[風]に好かれてるんだなぁ。かのモンゴルフィエ兄弟の様にな。」
「モンゴルの兄弟って誰?」
「知らんのか?18世紀に熱気球を始めて飛ばしたやつらじゃよ。フランスの気球乗り達は、今だに熱気球のことを[モンゴルフィエ]と呼んでるくらいだからな。」
「モンゴル人なのに?」
「モンゴル人じゃない!フランス人の名前だ。あの兄弟や、お前さんみたいなやつのことを古い言葉で[アウラエラスティス:風の女神の恋人]という敬称で呼ぶことがある。まぁ、滅多にいないけどな。俺も気球に乗って半世紀、やっとお目にかかれたわい」
「ホント〜!嬉しい!ありがとう❤️」
指導ジジイ・レーガンは計器のチェックを終えると、お決まりのセリフをお茶目っぽく
「ちょっとお花を摘んんでくる」
と用を足すために他の弟子達がロープで抑えている気球の籠を出ようとした。
ボディーガード達はすっかり背を向けたままだ。
(今だ!)
ポーラはカバーオールのポケットから錫のコンパクトを取り出して開けた!
))いくよ!!!((
金色のライオンはクルリと宙返りをして翼を羽ばたかせた!
唐突に強い風が湧き上がり、気球を崖の向こうに吹き飛ばした。
片足がひっかっかっていた指導ジジイは籠から放り出された。
指示棒をシッカリと握りしめて腰を落として構えていたポーラは籠が崖下に落ちた瞬間、予想外にボワンっという柔らかいクッションに落ちた様な感覚に歓声を上げた。
「ヒャッホー」
すかさず教わった通り、バーナーのコックを開けて上昇すると崖から指導ジジイの声が聞こえてきた。
「オ〜イ!お嬢ちゃん!一人で大丈夫か〜?!」
「オッケー!!!大丈夫!先に行ってるねー❤️」
それだけ答えた。
籠から放り出したりして悪いことしちゃったかなと思うけど、褒めるフリしてチョイチョイお尻を触ったんだからそのお返しと思うことにした。
))ドンドン行くよ!((
そう言って[マルコ]は昨日の夜、みんなが寝静まった頃にコッソリ崖まで戻ってやってみせた様にくるりくるりと回っては風を操ってあっという間に崖から離れたところまで気球を飛ばすと、ポーラの肩にチョコンと乗った。
「やったね!【マルコ】見つからなかったかなぁ?」
))バーナーに隠れてたから大丈夫だと思うよ((
「そうだね、今日は気球これだけだし、追っかけてこれないよね。それじゃあ、出発〜!」
半刻ほど空の旅を楽しんでコロラド川が支流と合流する巨大なY字が前方に見えてきたところで、ポーラは後ろを振り返った。崖の向こうの遥か遠くの方に土埃がたっている。追手の車はまだあんな所だから大丈夫と確認した。ゴウゴウ炎を吐き続けるバーナーを弱め、リップラインを強く引いて熱気球の天辺にあるリップと呼ばれる排気弁から軽くなった空気を外に開放して徐々に高度を下げていった。
地面から突き出している岩にぶつからない様に20フィートほどの高度を保ったままYの真ん中まで来たところで籠の縁を乗り越えてそのまま縁に手をかけてバランスをとったポーラは
「飛ぶよ!【マルコ】ヨロシク〜❤️」
と言うが早いか、躊躇うことなく3階の窓ほどの高さから飛び降りた。
))ポーラ待って!((
金色の羽根つきライオンは、無鉄砲な相方の行動に慌てて飛び出すと、1人落ちていくポーラのカバーオールの背中をガブリと咥え、2.3度大きく羽ばたいて下から巻き上げた風のクッションにフンワリと降りていった。
「あー楽しかった❤️【マルコ】ありがとう❤️」
))ポーラ、ビックリさせないで!((
ペロッと舌を出し明るい笑顔で着地したポーラ達の目の前にネイティブの男の子が白い歯を出してこれまたニッコリと立っていた。
「おはよう【アロ】!おまたせ❤️」
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