【集落】
【集落】
砂と岩岳の世界から歩いて小一時間ほどで緑がでてきた。背の低い灌木とばかでかいサボテンを避けるようにしてさらに3時間ほど進むと、谷の反対側の壁が見えてきた。すっかり太陽が傾き、反対側の斜面は影に覆われ夕陽の赤と黒のコントラストが見事だった。その岩壁を背にして簡単な柵で囲まれた小さな集落がある。夕陽に照らされた灰色のドームが一番奥の一回り大きなものを中心に扇形にランダムに点在している。近づいて見ると組んだ細い木の枝に土を塗って強くしているらしい。集落の入り口と思われる木の門には大きな角の付いた鹿か何かの頭蓋骨がこちらを見下ろすように取り付けられている。その虚ろな眼孔になにかが光ったことにマリーは気がつかなかった。
門を抜けると無言の少年はまっすぐに一番奥の大きなドームに向けて歩いていく。通りすぎるドームはどれも痛んでおり、中にはひどく崩れて、まるで大きな鳥を捕まえるつっかえ棒をした罠みたいに見えるものもある。
少年に声を掛けようかどうか迷っていると
))マリー。怖くないよ((
チビクロが楽しそうに声をかけた。
なんかバカにされた気がして思わず大きな声で叫んだ
「こんにちはー、誰もいませんか~?Helloー!?」
Hellooo.hellooo.looo.ooo...
いかにも場違いな感じの声は.紅い岩壁に反響してまた静寂が戻った。
少年は岸壁に空いた裂け目の周りに白と黒の文様が描かれてある入り口の前に立ち止まった。入り口の上には門のところにあったものより二回りも大きい螺旋の角の付いた頭蓋骨が飾ってある。紡錘形の裂け目に合わせて革を裂いて染めて水晶やターコイズなどの色石や骨で作ったビーズを飾り付けた暖簾みたいなものがドアの代わりにぶら下がっていて、中の様子は分からない。
少年は日に焼けた笑顔をほころばせながら中に入るように手招きをした。
マリーは土埃で少しパサついてしまった長い髪を手首にはめてあったゴムで一まとめにすると、チビクロをさっと抱き抱えて恐る恐る足を踏み入れた。
革の暖簾がシャラシャラと乾いた音を立てると、頭上の角のついた大きな頭蓋骨の目のない眼孔がキラリと光った。
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