【メディスンマン】
【メディスンマン】
ハマが乗り込むと同時に車を急発進させたドライバーはネイティブ柄のTシャツにジーパン、白のジャケットに革のブーツ、それと無数のシルバーアクセサリーを身につけたハリウッドスターの様にイカした褐色の若い男でネイティブインディアンらしく伸ばした髪を編んで後ろにまとめている。
ハマは後ろの窓からあの黒服が追ってこないかと新品の目を凝らしたが見えない。そこで今度は眼をつむって【シロ】を意識しておでこに集中するとこの前の感覚が戻ってきた。
色で満ち溢れた世界。
光の速度で視点がさっきの空港ロビーに戻ると黒服の男達はまだ固まったままだった。あのにわか生徒達は、こともあろうかその黒服仁王像の前で変な形のピースサインをしてにっこり笑いながらみんなで自撮り棒を伸ばし、スマホで写真を撮っていた。
そこまで確認し、ホッと一息ついて眼を開けるとバックミラー越しに目が合った。
「ようこそ、我々の土地へ!俺の名前は【アーロック】あんたは?」
「アーロクさんね、本当にありがとう。助かったわ。私は【ハマ】、でこっちが【たま】」
((よろしく〜))
白猫のぬいぐるみは喋りながらパタパタとハマの頭の高さまで飛び上がった。
それを見た運転手は、バックミラー越しに屈託のない笑顔に白い歯を輝かせながら、
「よろしくな!シロ!それにしても日本のおもちゃはすごいな、【龍】にまで対応してるのか?ハマ」
「そうよー。世界のバンダイだもの。等身大のガンダム作っちゃうくらいですもの!ふふふ」
「ハハハハ。イイねぇ、ハマ!【龍人】っていうからうちの長老みたいに、もっと気難しくて上から目線のとっつきにくい年寄りかと思ってたんだけど、あんたは違う様だ」
「あら、あなたの長老さんはそういう方なのね、会ったら聞いてみるわ。」
「おっと!それだけは勘弁してくれ。」
((じゃあ、アロが言っちゃおかっなぁ))
「そうか?【アロ】がこの前寝ている長老の顔に落書きしたことも、お気に入りのネックレスを観光客に安く売りつけて、その金でソフトクリーム食ったことも言ってやるぞ?」
((…ずっるいぞ!アーロックのバーカ!!!))
そう言うと少年は
((【ハマ】【タマ】俺の名前は【アロ】!))
と名乗り【たま】の入ったぬいぐるみに顔を近づけて自分の微かな光を宿したおでこをチョンとくっつける【龍】式の挨拶をした。
「アーロクさん、【アロ】ちゃんはもしかしてあなたの【龍】なの?」
「【アロ】は確かに【龍】だし名前も似ているが、俺のじゃない。そもそも俺はただの【メディスンマン】で【龍人】じゃない。だから、そもそもハマの【タマ】だってそのぬいぐるみに入ってなきゃ声は聞こえても姿ははっきり見えない。ハマの隣にいる少年は【龍の支流】簡単に言うと分身で、人間の形を取るのが得意なんで、自分や子供や勘のいい他の人間にも見ることができる。だが、【アロ】の本体は俺にはよく分からない、ただ、白頭鷲、双頭のガラガラ蛇、赤狼、黒熊として儀式や瞑想の時に使うペヨーテを食べた時だけ俺にも幽かに見えることがあるだけだ。これから行く先の【龍の狭間】には代々各氏族の【メディスンマン】しか入ることを許されぬ【聖なる館】があって、【長老】を含め6人のマスタークラスのメディスンマン達が待っているんだ。まあ、この調子で飛ばしても5時間くらいはかかるから少し休んでおくといい。」
そこまでを一気にしゃべり終えると、舗装されていない道を巻きタバコをくわえたまま、慣れた片手運転で飛ばし始めた。ハマは後部座席に無造作に積まれた大小の牛の毛皮のクッションの間に小さな体を固定して、運転席のアーロックからホイっと手渡された冷たいバドワイザーを一気に飲み干すとネイティブ柄の厚地の織物を毛布代わりに大きく揺れる埃っぽい車のシートで【タマ】と【アロ】を抱きしめながらいつの間にか眠りについていた。
ハマが眠りに落ちたのをバックミラー越しにちらりと見たアーロックは胸ポケットからスマホを取り出すと、起こさぬ様に小声で通話を始めた。
30分後ペンタゴンの高官が日本の【DC(Dragon Carrier)】一名がアメリカ国内で消息不明との連絡を受けた。その高官はすぐにヘリを手配するように言うとCIA干渉外の回線を使って国務長官に電話を入れた。
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