【アロ】
【アロ】
西部劇ごっこをしていた子供のうちのインディアンの子が、大事そうに抱えていた満タンの水鉄砲を、サボテンに見たてたゴミ箱の陰から狙いを定めて一発打った。
((バンッ!))
撃たれた子供は、おニューのウエスタンシャツに真っ赤なシミが付いたのにびっくりしてテンガロンハットを振り落としたのにも構わず「ママー!!」と叫びながら太った白人女性の方に走っていった。その背中に軽く手を振るとちびっこインディアンは次の獲物に狙いをつけた。
日本人観光客の団体は馬鹿みたいにでかいスーツケースを転がしている若い女達だった。(一塊になってくれて好都合だ。素人めが。あと6フィートの距離で相手の背を壁にして左右から挟み込んで退路を断つ。これがツーマンセルにおける鉄則だ。あの婆さんはどこだ?)ゴーグル内の輝点は丁度そのスーツケースの真ん中あたりを指している。(スーツケースに入っているのか?あのちっこい婆さんなら可能だろう。いや待て)赤のとシルバーのスーツケースの間から見覚えのある緑の帽子がちらりと見えた!イーロンがターゲット確認の合図をハーマンに送ろうと視線を向けたとき、視線の先には奇妙な現象が起こっていた。
【DC】を示すはずの輝点が一つ二つとその数を増しながら、人々の怒号や叫び声と共にこちらへ向かって迫ってくる。骨伝導のアラームが壊れた目覚まし時計のように次々と鳴り始め続けている!脳が《うるさい》と悲鳴を上げている!なんだ!?何が起こっているんだ!?!?
一方のハーマンは動きのおかしい相棒に人差し指でサインを送っていた。
(イーロンのやつ、何をぼーっと見てやがる。何だ!?後ろが妙に騒がしい)
振り向きざまにゴーグルに水をかけられた感触があったかと思うと目の前全体が輝き、脳の後頭葉・視覚連合野に直撃を食らった光の痛みで大脳皮質全体が衝撃を受け、ハーマンは痺れた様になって動けなくなってしまった。
ちびっこインディアンは、素早くサボテンの林(に見立てた人込み)の中を移動しながら、時折現れる『騎兵隊(に見立てた白人観光客)』に水鉄砲で攻撃を仕掛けつつ、最終の獲物を日本人観光客に定めた。
お気に入りのワンピースやおろしたてのワイシャツに赤いシミが広がるのを見た『騎兵隊』の悲鳴や怒号がさざ波のようにこちらに向かってきた。それに気づいて振り向いた黒服の一人ががゴーグルを両手で抑え込んだまま動かなくなってしまった。
「何が起こっているの?」
そう思って隠れていたスーツケースのバリケードの隙間から顔を出したハマの目の前にインディアンの子がひょっこり顔を出した。
((みーっつけたっ!))
そう言ってにっこり笑うとハマのお気に入りの緑のポシェットの肩ひもを握って走り出した!
((こっち!))
仁王立ちしているハーマンから素早く目標へと視線を戻したイーロンがスーツケースの陰から出てきた全身緑尽くしの小さな婆さんを確保するべく1フィートのそばまで近寄って岩のような手を伸ばした瞬間、ゴーグルに水鉄砲の一撃を食らった!
目の前が強烈に輝いてそのまま脳がマヒして文字通り仁王立ちのままで固まってしまった。
小さなインディアンと猫のぬいぐるみを抱いた小さなおばあちゃんは、左右に黒服の仁王像と、「キャー!」「すごーい!」「せんせーい、またねー!」など口々に叫びながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねて激しく手を振る女子達を尻目に素早くターミナル正面出口を駆け抜けた。
「先生すごかったね!」
「ラグビー選手みたいだった!」
「うん!一人であんなに素早く駆け抜けて…」
出口前のロータリーは、空港シャトルバスや長距離バス、タクシーに乗用車が混ざり合って空港の敷地内とは思えないほど渋滞し、それに伴い様々な人種の人々でごったがえしている。
一番近い身障者用の駐車スペースに横付けされた四駆にもたれかかっていたオシャレな現代風なネイティブインディアンの若者が後部座席をさっと開けて、少年とハマを乗せるとすぐに走り出した。
厳つい黒人のパーキング係は緑の帽子を押さえながら一人で身をかがめて、よっこいしょと似合わない大きな車に登る様に乗り込む観光客のおばあちゃんを見て納得した様に頷いた。
その古いトヨタ・ランドクルーザーの白い車体のドアには大きく手書きで車イスのマークが黒いマジックで書かれていた。
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