【見つかった!】

【見つかった!】


ロビーは例の二人組もかすんでしまうほど雑多な人種の人々でごった返していた。出口付近で数多く見られるのは名前を書いたスケッチブックやプレートを持ったお迎えの人々。それに普通の家族連れも数多く見られ、ネイティブ・アメリカンの居住地が近い土地柄もあり、あちらこちらで騎兵隊やネイティブインディアンなどの衣装を着て、おもちゃのピストルを持った子供達がコンクリートの柱を砦に見立ててバーンバーンとふざけ合ったりしている。


 いまやハマの生徒となった女子旅6人組は、税関を抜けると左右の通路に3・3に分かれた。

スーツケースをコの字に並べて片方にはハマをもう片方にはタマを隠して何食わぬ顔でロビーに出てきた。作戦通り。

実は三分前・・・

「・・・というわけで【タマ】と【私】はあの正体不明の二人組に追われているの」

「でも、サイン会をちょっと邪魔したくらいでアメリカまで追っかけてくる?普通」

「それは普通じゃないって!」

「てことは、プロダクションの外タレじゃないってことね」

「考えられるのは…【タマちゃん】がよっぽどの『レア物』で、大金持ちのコレクターが狙ってるとか」

「確かに!見た目はよくある白猫だけど、普通の『ロボペッツ』より自然に話したり動いたりしてるかも」

「ねえ、先生、タマちゃんはどこで手に入れたの?」

「去年の誕生日に孫がプレゼントしてくれたの。よくしゃべるのは、ずっと一緒にいるからかしらね」

「『ロボペッツ』って『飼い主』がより親近感がわくように、一体一体手作りで、一つとして同じ色柄や模様はないんだって」

「確かネット限定で『白猫Ver』『黒猫Ver』とかが出るって前にヤフーニュースで見た気がする」

「あーそれ知ってる!確か、AIも特別チューンナップしてあるとか」

「えー!やっぱそれじゃん?」

「でもそれなら先生まで攫っちゃう意味がわかんなくない?」

「そりゃあ、【タマちゃん】だけ取って逃げたら泥棒じゃん」

「じゃあ、金持ちの御屋敷に連れていかれて、目の前にアタッシュケース置かれて開けたら札束ドーン!」

「それかそれか、金額の書いてない小切手渡されて『好きな金額を書くと良い』とか!」

「キャー凄―い!先生、大金持ち!!!」

「金持ちだか何だか知りませんが【タマ】はだれにも譲りません。とにかく私はこれから人に会わなきゃならないの。申し訳ないんだけどあなたたちに手助けしてほしいの」

「旅先で人助けなんてドラマみたい!」

「まかせて、先生!」

「みんな、いいわね」

「OK!!!」

「じゃあ、どうしようっか…」

 

みんなで立てた作戦はこうだ。


1. 税関を抜けたら二手に分かれて一気にロビーを突っ切る。

見つかった場合は作戦変更!

2. 【タマ】の方に二人組が来た場合、まずは大声で空港の警備員を呼び、【タマ】をソフトボール部でピッチャーだったリエちゃんが【ハマ】のグループにいる同じくキャッチャーだったヒロミちゃんに投げる。そして逃げる。

3. 【ハマ】の方に二人組が来た場合、まずは大声で空港の警備員を呼び、【ハマ】を陸上部でリレーの選手だったモモちゃんが背負って走り、【タマ】のグループにいる同じくリレーの選手だったエミちゃんにバトンタッチ。そして逃げる。

作戦名はその名もズバリ『逃げるが勝ち!』


「さあ、行きましょう。」


真っ直ぐに税関出口を見据えていたイーロンは【DCEゴーグル】が骨伝導で直接伝えてくるアラームと同時に二つの輝点が現れて、左右に分かれたのに気が付いて相棒のハーマンに確認を取った。ハーマンは頷き、自分は右へ行くと身振りで示すと二人は人込みを草の様にかき分けながらそれぞれの輝点目指して猛然と動き出した。


その様子を見た6人+1人+1匹は慌てて叫んだ

「どうしよう!?」

「まさかの同時攻撃!」

「集まってーっ!」

 「早く早く!」

((ハマ!抱っこ!))

「タマちゃん、投げるよ!」

((ハマーーーー!!!)) 

リエちゃんが投げたタマをヒロミちゃんが見事にキャッチしてハマに手渡した。

「大丈夫。いざとなったら強行突破するしかないわね・・・」


 ゴーグル内面に映し出された二つの輝点が重なって明るさを増した。見たところただの日本人の観光客の集団だが、その中に紛れているに違いない。あの忌々しい小さな婆さんが。

 黒服の二人は人差し指と中指で挟み撃ちのサインを素早く送り合うと日本人の集団に向かってゆっくりと近づいていく

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