【DCEゴーグル】
【DCEゴーグル】
銀座の有翼堂書店でおばあちゃん一人に屈辱的な逃走を許してしまった、いかついSP二人組は、大手プロダクションのプロレスラータレントなどではなく【CIA特務室DC課特務係】のイーロンとハーマンのコンビで、全米でも数少ない【DCEゴーグル】装着訓練者だった。
【DCEゴーグル】とはその名の通り【Doragon Carrier’s Eye(龍人の目)】を疑似的に再現したもので、【龍】そのものを見ることはできないが、輝点あるいは暗黒点の集合体として認識することができるもので、使えるようになるには、第一に厳密な適正試験における選別と長時間の座禅や瞑想といった通常の肉体・戦闘訓練とは異なった精神トレーニングが必要とされる。
それは冷戦時代から極秘に開発は進められてきたが、現大統領になってようやく実用化されたという、まだアメリカ全土にも10セットも配備されていない超ハイテク&超高額&超特殊機材だ。
ゆえに、書店のエレベーター前で気が付いたハーマンは、相棒のイーロンの頬を平手でしこたま叩いて目覚めさせると、地下駐車場に止めてあった黒いシボレーサバーバンを急発進させ、CIA本部ではなく直属の上司に連絡を取り指示を仰ぐとそのまま横田基地の第5空軍司令部へ向かった。
海軍出身のハーマンが操縦するスーパーホーネットは全ての武装を外して航続距離を伸ばすと北大西洋上で海軍のC-17から空中給油を一回受けただけで真っ直ぐロサンゼルス国際空港へ着陸した。
LA空軍のパイロットにそのスーパーホーネットを引き渡すと、日本で使っていたのと同型のCIADCナンバーのついた黒いシボレーサバーバンに乗り込み、空港中央のシャトルバスと乗用車で混み合ったワールド・ウェイをサイレンとクラクションをけたたましく駆使しながら一直線に駆け抜けて、トムブラッドレー国際ターミナルの出口前に止まっていた真っ赤なフェラーリを最後の一鳴らしでどかすと車を止め、係員にバッジを見せると、指紋認証と虹彩認証でロック解除したジュラルミンケースから【DCEゴーグル】を大きな手で慎重に取り出して装着し、JAL62便を待ち構えるために空港の構内へ乗り込んでいった。
支給品の最新型G-SHOCKは自動でLA時間に設定されていた。現在11時10分。到着予定時刻は11時15分だが30分遅れの電光表示がすでに出ている。ここの使えない税関の通過時間を考えると少なくとも1時間はある。間に合った。ここで【DC】を確保したらまずは353マイル6時間の車移動が待っている。腹ごしらえをするなら今のうちだ。
非番なら『ウマミバーガー』とビールにいくところだが、肉食は【DCEゴーグル】の精度が落ちるので『ファーマーズマーケット』のオーガニック珈琲のグランデサイズとグルテンフリーのペイストリーを3種類と無農薬ドライフルーツ&ナッツを大袋、すべて2人前CIAのブラックカードで支払うとTo Goで袋いっぱいに詰め込んでもらい、税関から出てくる標的を決して見逃すまいと、黒服に身を包んだ巨漢二人が仁王立ちのまま、構内のど真ん中でセレブモデルのような食事を取っていた。 食事が終わり、丸めた紙袋をダストボックスに放り込むと【DCEゴーグル】と連動している『特製blackberry』のアプリを起動して、栄養分摂取による体内バランスの変化に伴う同調誤差の補正の為、『ヘキサゴンスライダー』を太い指で動かして、微調整を行った。
「フゥ…さあ来い!今度こそ逃がしはしない!!!」
歯の間から気合の入った声が漏れた。
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