【4時間前】

【4時間前】


 予定より早く有翼堂の地下駐車場に乗り入れたワゴン車の車内でナッツをポリポリしていたポーラを出迎えたのもこの『山田きみこ』だった。

「先にポーラさんを控え室にご案内しますので、マネージャー様は人目につきにくいあちらの方へお車の移動をお願いできますか」

と奥の赤いコーンの置いてある駐車スペースを指差した。

「さてとあまり時間がありませんので手短に・・・」

無人のエレベーターに乗り込みながら山田きみこは話し始めた

「はじめましてポーラさん。私は山田きみこ。あなたの頭の上の『マルコ』ちゃんが見える一人です・・」

驚きのあまり一瞬動きの止まったポーラを手で制して続けた

「簡単に申します。『マルコ』ちゃんは『龍』です。そして『龍』は狙われています。間もなくポーラさん共々捕まえに来るでしょう。すぐに隠してしまわなければなりません。」

「えー!『龍』って『ドラゴン』の事?!」

「『ドラゴン』も『龍』の一種類です。」

「そっかー!そうなんだー!!すごーい!!!それでどうすればいいの?」

「まず、ポーラさんにお聞きします。」

「OK!何でも聞いて!」

「あなたは『マルコ』ちゃんと一緒にいたいですか?」

「もちろん!!!」

「少し痛い思いをするかもしれませんが?」

「OK!大丈夫!」

「今後『マルコ』ちゃんと一緒にいくつか冒険していただくことになりますが?」

「Wao!冒険大好き!」

「それでは、まず、ポーラさんがTVで言っていたように『マルコ』ちゃんはこのままだと消えてなくなってしまいます。」

チンと9階にエレベーターがついてドアがガターと開いた。

珍しく真顔になって必死に目で訴えているポーラを速やかに控え室へ案内すると【着替え中・立ち入り禁止】の張り紙のあるドアを閉めた。

テーブルには採血用の注射器と消毒ガーゼ、そして菊の紋が入った錫製のコンパクトが置いてあった。

「それでは、チクリとしますよ」

ポーラの綺麗な薄褐色の腕に細い銀色の針がスッと入って真っ赤な血を50cc程吸い上げた。きみこは針を抜くとそのままコンパクトを開けて中のスポンジに吸い込ませふたを閉めた。そしてコンパクトをポーラに渡すと

「『マルコ』ちゃんに入るように言ってください」

「こんな狭いのに大丈夫かなぁ?『マルコ』ハウス!」

コンパクトを目の高さに持ち上げて、前面のポッチを押して開けると、まるで飼い犬に言うように頭の上に呼び掛けた。

間髪入れず金色の陰がポーラの目の前をよぎった、次の瞬間ハーモニーボールのような声がコンパクトから聞こえてきた。

))ポーラ((

「ワー!可愛いッ!」

コンパクトを開けたそこには、ピンクのスポンジの上に丸まってポーラの方を見つめている、海洋堂のガチャガチャのおまけみたいな6㎝くらいの羽の生えた金色のライオンがいた。

「これで、しばらくは大丈夫。このケースには【龍】を隠す効果があります。」

そう言って蓋を閉めさせると、姿はもちろん、声も聞こえなくなった。

ポーラはすぐに蓋を開けて先ほどのキッチンショーで少し切っちゃった左手の薬指から絆創膏をはがし【真鍮のコンパクト】の中のスポンジに数滴、血を補充してニッコリ笑った。

「ホントだ!『マルコ』元気になってる!きみちゃん、ありがとう!」

))ポーラ!!!((

コンパクトから飛び出した『マルコ』は大きさは元のぬいぐるみサイズと変わらないが、明らかに金色が濃く輝きを増していた。

「ポーラさん。よく聞いてください。」

「うん!なんでもいうこと聞く!」

ほとんど泣きそうな笑顔でそう言ったが目は真剣そのものだった。

「とりあえずこれで【龍】は消滅したと思われるでしょうが、自然に帰ったと確認が取れるまで、これから2.3日は監視が付くと思います。そこで・・・」

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