【合一】
【合一】
院長室の隣は、ほぼ、おトキさんの『逆美容整形』専用となっている特別手術室になっていた。
イタリア製の白い本革のふかふかの電動リクライニング治療台に腰掛けるようにうながされて、ハマはちょこんとそこにおさまった。
院長は機械台に並べられているビンの中から消毒用の茶色いポピドンヨードを含ませた綿をピンセットで取り上げた
「はい、おへそを見て」首の後ろ、うつむくとポコッと出っ張る第7頸椎。その周りをヒンヤリとした感触がくるっとした。
「乾くまでちょっと待ちますね」そう言いながら今度は細い注射器に局所麻酔のリドカインを吸い上げる。
「はい、チクッとしますよ」慣れた手つきで更に機械台の上から滅菌されたメスの袋を破って一本取りだした。
キラリと光る先端が第七頸椎の丸みの上に置かれた。
アボカドを割るときみたいにメスがスッと骨まで入った。
痛みはなくズンとした重さだけが響いて、おへその下あたりがスーっと冷えた。
おとなしく抱っこされていた【タマ】は小さな体をうんと伸ばすと、皮膚の裂け目からスッと一本の赤い線のように膨らんだ血の匂いをクンクンと嗅ぎ、ペロッと舐めるとそのまま裂け目の中へすーっと吸い込まれていった。
大椎から入り込んだ【龍】に向かって仙骨裂孔から噴出した自身のエネルギーがチャクラを駆け上っていき、一気に頭蓋内を螺旋に回りながら【龍】と混ざり合って、勢いを増したまま今度は第7チャクラから第1チャクラまで降りてまた第7チャクラまで上って下りてを繰り返しそのうち水面に起こった波紋が収まるように静かになった。そして第8チャクラが目覚めた。
胸が暖かく光の鼓動を刻む。
ぶるぶるぶるっと全身の筋膜がざわめく。
眉間がこそばゆい。
右手の中指で触れると、強烈な光が眩い。
思わず両手で目を抑えるが、視える。
眼を閉じていても、いままでの景色が専用のグラスをかけた3D映画のように感じられる。
「凄い!」
ぐるっと見渡すと窓の外にカモメが飛んでいるが、白い羽の周りに薄いブルーの光をまとっている。
そのカモメが朝の海に向かって急降下して窓枠のキャンバスを外れ、本来の視界から消えたはずが、目玉に羽が付いたようにカモメの後を追いかけていく。
水面の魚に向かってスピードを上げて一直線に向かっていくカモメは今度は赤い光を帯びた。
海面近くを群れ泳いでいたイワシは前後左右を仲間のイワシに挟まれて逃げることもできずに海中から空中へ咥えられていく。
カモメが口にしたイワシから虹の粒が弾ける・・・
「ゎ・・・」
「綺麗でしょう?それが【龍の目】さあ、目を開けて。」
おトキさんに言われるままに目を開けるとギュンっと元の視界に引き戻される。
一瞬、強烈な眩暈に襲われてグラグラと頭の中が揺れた。
「最初は気持ち悪いでしょ、慣れれば真っ暗闇でも歩けるようになるわ。さあ、着替えて少し遅くなっちゃったけど朝ご飯にしましょう!」
こうして、ハマはトワ(常磐)の手引きで無事に【合龍、合一】を果たした。
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