【地下へ】
【地下へ】
ひんやりと湿った石の階段を延々と下っていく。手元のLEDランタンが想像以上に明るく足元を照らしてくれる。
「‥お恥ずかしい話ですが、私も十代の若い時分は【龍神様】は本当にいらっしゃるとは思ってなかったんですよ。それであの日、自転車で転んで痛み止め打ってもらったうえに酒飲んでまぁ、俗に言うところの「ラリッた」わけです」
音が反射するのでひそひそ声で話している。
「‥前から親父には「成人になったら連れてってやる」と言われてたんですが、たまたま社務所で装束の虫干しを手伝わされていた時に、親父が出してきた、龍の模様のこの白装束の入っていた桐箱に、鹿革にくるまれたこの【龍見笏】と、その鹿革の裏に漆でかかれた【秘密の扉】の開け方を見つけてしまったんです。その時は慌てて仕舞いましたが、後になって親父の留守を見計らって、こっそりじっくり見たのです。で、気が付いたらここに来ていたというわけです。どうしても【龍】ってものが見たくなりましてな」
「そもそも【龍】って、あの【龍】ですか?にょろにょろっとした?」
ハマは肩をすくめてブルっと身を震わせた。
「あら、ハマちゃんは【龍】がお嫌い?」
からかうようにおトキさんは言う。
「子年生まれのせいか、昔から蛇だけは苦手なの」
とまた肩を更にすくませた。
「じゃあ、ゴキブリは?」
今度はおトキさんが振り向いて、嫌そうに聞いた。
「あんなものただの虫だもの。つまんでポイッ!よ」
お返しとばかりおトキさんの方に投げつけるふりをしてやると、びっくりしたおトキさんは「ワッ!!!」と言った弾みで前を行くシロヒサにぶつかり、そのはずみで老宮司はLEDランタンを取り落としてしまった。落ちたランタンはカタンコロンコトンコロコロと十数段先の暗闇に落ちて電気が消えた。
「あら、ごめんなさい。ちょっと待っててね」
おトキさんはそう言うとシロヒサの脇をすり抜けて暗闇の中をテテテテテ・・・と早足で降りていき、ランタンを手にするとスイッチを入れたが明かりがつかないなので暗いままランタンを持ってまたテテテテ・・・と戻ってきた。
「はいこれ」
「すごい!おトキさん、軽やかに走れるし、夜目も利くのね」
「ありがと。ここに慣れてるから目を閉じてても平気というのもあるけど、まあ、そのうちハマちゃんもできるようになるわ」
意味深に笑いながらランタンをシロヒサに手渡した。
ランタンの後ろの電池カバーを開けて緩んだ電池を入れなおすと再び明かりがついた。
「もしかしたら、暗闇で見える?それも【龍】のおかげなの!?」
左肩のうえの【タマ】を見ながらハマは聞いた。
「そもそも【龍】って何?社殿とかに彫ってある雲間からぬっと顔を出してみたいのが【龍】だと思ってたんだけど?」
「それも【龍】、あれも【龍】、【シロ】も【タマ】も【龍】。【龍】は【流】。【流】は【ながれ】で、そもそも決まった形などないの。この世界には私達『生き物の世界』と表裏一体のような言わばエネルギーの【大きな流れ】があってそれが時々【龍穴】というあちらとこちらを繋ぐ接点から顔を出すことがあるの。ここまではよろしい?」
まん丸い目をしたままのハマはとりあえず頷いた。
「その【龍穴】から顔を出した【龍】を見ることができる【見人】とか【龍適】などと呼ばれる人がまれにいるの。その【見人】が自分の【龍】と出逢うことではじめて【龍】はこの世界で姿形がとれるの。ただ、その【龍】のもともと持っている性質と、出逢った時の環境・状況である程度姿形は決まってしまうこともあるけど。うちの【シロちゃん】なんて、初めはクジラだと思っちゃったから・・・」
「さあ、着きましたぞ」先頭のシロヒサは若干息を切らしてそう告げた。
「・・さあ、続きはまた後でね。まずは【シロちゃん】とご対面!」
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