【龍見神社奥宮】
【龍見神社奥宮】
本殿より二回り小さくその分古い神額が掲げられた白塗りの小さな鳥居に注連縄が真新しい紙垂を海風になびかせている。
その奥に自然の巨岩が天ノ岩屋戸のように積み重なり、その隙間に木造白塗り銅葺き屋根の社殿をはめ込んだような変わった形の奥宮があった。
奥宮の扉は小さいながら重厚な作りで総八双飾金具がいまだに金の輝きを保っている。
神主は恭しく深揖するとおもむろに扉を開けた。社殿内部は至ってシンプルで、三段になった祭壇の一番高い中央に神鏡、その前の二段目中央に幣串に真白い紙垂を左右に挟み麻紐で結わえた御幣が立ててあり、その左右に一升瓶のままのお神酒がありその次は小さな燭台が、一番外側には真新しい真榊が榊立ての白い上に青々と奉られている。一番手前の三段目には三宝が5つ等間隔で並べてあり、中央の三宝には平次に入ったお神酒が左右奥、中央が米、手前左右が皿に盛られた塩と水の入った水玉が蓋を取られてあり、その他の三宝には島の野菜、リンゴ・葡萄・バナナなどの果物、大皿に乗った活きのいい45㎝はあろうかという真鯛、経木に盛られた上生菓子が、どれも新鮮な状態でお供えしてあった。
「まあ、おいしそう」
大迫力の真鯛を見たハマが思わずそうつぶやいた。
「ハハハハ、神饌(ミケ)は毎朝新しいものをお供えしておりますでな。その鯛は今朝、地元の漁師が持ってきたもんで、よければ撤饌したものを夕方にホームの方へお届けしましょうか?」
「あら嬉しい。シロヒサさん、できればあの『森八の生菓子』もお願いできる?」
「常盤様のお望みとあらば。」
笑いながら恭しく礼をした。続けて「それでは一応・・・」とおもむろに二礼二拍手一礼をした神主はそのまましゃがみ込むと四つん這いのまま祭殿の下に潜り込み、奥の壁に突き当たると持っていた【笏】を壁の穴に差し込んで時計回りに3回、逆に3回と無理な体勢に苦労しながら回した。
するとキリキリキリキリキリキリと木が軋む様な音と共に、まるで小さな回り舞台のように三人を乗せた床ごと祭壇が回り、奥の壁だったところが社殿の入り口をピッタリ覆ってしまった。【笏】を抜くとガチャリと鍵のかかる音がした。それは外から見ると木製ではあるが、決して開かない銀行の金庫の二重扉の様だった。
三人が振り返った祭壇のあった場所は、明らかに人の手で組み上げられた石組みの幅三尺高さ六尺の入り口がポッカリ開いていた。神主は入り口の壁に掛けてあったLEDのランタンを二つ取ると「使いますか?」と常盤に聞いた。
「私はいいわ。目をつむってても行けるもの。ハマちゃんに貸してあげて」
ハマはランタンを受け取ると、二人の後に続いてうねりながらひたすら下へ向かって落ちるように伸びていく石段を下り始めた。
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