白内障手術

【白内障手術】


翌日のオペはどうせ食事制限があるならと、朝一番のみんながまだ朝食を食べている午前8時から始まった。

 手術衣を羽織り、給食のおばさんみたいなキャップを被って真新しいリクライニングチェアに腰掛けると、かわいらしい看護師さんが血圧計や心電図の電極を取り付けていった。医院長の仕込みがいいのだろう手際が良い。

「局所麻酔の目薬を差しますね。10秒ほどで効いてきますので少し瞬きを我慢してくださいね。そうしたら直ぐに始めますね。」

ピチョンピチョンと大粒の目薬、ゆっくりと深呼吸、さあこい!

目の前に鋭い刃先が迫ってきてそのままプつっと右の眼球に突き刺さった。

目を閉じようにも器具でがっちり頭ごと固定されている。

ゲルが注入される圧迫感。

器具を入れ替え、目玉の中をグチャグチャかき回されると光の乱反射がすごい。

続いて砕いた水晶体を吸い出された、光が痛い。

折りたたまれたレンズが挿入されて開く。

途端に淡い視界が返ってくる。

続いて左目。

クイクイと位置を直されて、目薬を差される。

固定具が外され、ガーゼを当てられ眼帯をされた。

「久後さん、終わりましたよ。気持ち悪いとかないですか。このまま30分休んでいてくださいね。そしたらお部屋の方にご案内しますね。」

50がらみのイケメン医院長のマスク越しの声が優しい。

「はい、大丈夫です。おおきに。」思いがけず声がうわずってしまった。

「ではお大事に。また明日の午後診察の予約入れておきますね。」

若い看護師さんはそう言うと、隣の手術室へ医院長と共に次の手術に向かった。

ぽつんと手術室に一人取り残された。

ガチャとドアの開く音。看護師さんかしらと思ったら

「は~まちゃん(^_^)」おどけた声でおトキさんが入ってきた。

「おトキさん?!入ってきていいの?」

「いいの、いいの。」

そういえば、医院長の遠い親戚だと聞いたことがある。先代の女性医院長のいとこだとかなんとか。

「あたしこの後にお顔の手入れ。」

そう、このおトキさんという人は毎週のようにシミ取りだとかしわ取りだとか、美容整形に命を燃やしている。そのわりに、術後の方が老けて見えたりするのに本人はいたって平気な様だ。

実際の年は「ナイショ」だそうだそうだが、私より肌は若い様だけど、話してみると年上のような不思議な感じがする人だ。

「ハマちゃん、もうすぐ会えるわね。あの子と。」

「そう明日ね。明日。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る