三章 独占欲


私の悩みは、体が大きいこと。


たくさん兄弟がいるけれど、その中でも一番大きいの。

周りの子はみんな派手に着飾ったり、お花が似合うような綺麗な子ばかり。


きっと住んでる世界が違うのね。

どうせ花の蜜でも吸って生きてるのよ。


でも、私はそれなんかじゃ足りない。

食べても食べても、お腹が空くの。

食べている時が一番幸せを感じるし、お腹が満たされればその幸せを長く感じていられる。


だから食べて、食べて食べて食べて。



……気付いたら、周りの誰よりも大きくなっていた。



本当はね、綺麗なあの子たちが羨ましかったの。



誰よりも綺麗なあの子が言っていたわ。


「愛されるって素敵! 求められて、初めて自分の価値を知った時、内側から何かが込み上げてくるの。きっと満たされるってこういうことね」


食べる以外の幸せを知らない私にとって、それはすごく興味深くて、とても魅力的だった。



いいなあ、あの子のようになりたい。


そうすればきっと誰かが求めてくれる。

そうすればきっと誰かが満たしてくれる。


私は知りたいの。

愛されて、満たされたい。

求められて、価値を知りたい。



彼に出会ったのは、そんな時だった。



「たくさん食べる君が、あまりに素敵だったんだ!」


そう言って、私に微笑みかけてくれたのよ!

体が大きいことだって気にならないって言ってくれたわ!


その言葉が、すごく嬉しかった。


私よりもずっと小さいけれど、その存在はすごく大きくて私を受け入れてくれる彼。

隣にいるだけで胸がいっぱいになって、不思議とお腹が空かないの!


こんなの生まれて初めてだわ。


これが、満たされるってことなのかしら?




彼と一緒にいる時間も増えて、満たされる毎日を過ごしていたある日のこと。


派手なあの子が言った。


「男は浮気性よ。捕まえておかないと、どこかへ行ってしまうんだから」


そう言った。



どこかへ行ってしまう?



……だめ、それはだめ!


彼が好きなのに、

好きなの、好き、好き好きすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすきすき



だいすき



彼がいないこれからなんて考えられない。

ずっと、一緒にいたいの。


……それだけなの。


だから、彼に求めてもらえた時はすごく安心したわ!


「君との子供が欲しい」


ああ、嬉しい!

求められて、愛されていることを実感する。


だから満たされる。


体が重なって感じるあなたの温度。



あれ?

胸が痛い……


まるで、ぎゅうっと締め付けられるような。



でも高鳴るの。

どんどん熱くなるの。


前よりもずっと、ずっと、この体があなたを求めるの!


「捕まえておかないと、どこかへ行ってしまうんだから」


こんなにも求め合ってるのに?

こんなにも愛し合っているのに?


それでもどこかへ行ってしまうかもしれないの?



そんなの嫌よ

嫌、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ、いや





ねえ、置いていかないで!



どこにも行かないで……



「捕まえておかないと」




なら、


してしまえばいい……




そうよ、そうだわ。




「たくさん食べる君が、あまりに素敵だったんだ!」



あなたは食べる私が好き。


私は食べることが好き。


あなたのことも、だあい好き。




……なんだ、簡単じゃない。




覆いかぶさったあなたの首に、そっと腕を絡めて。

ゆっくり、ゆっくり抱き寄せる。



そして強く、強く抱きしめて。




これでずぅっといっしょだね。





「いただきます」

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性(さが) 桜にく @utauta_planet

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