二章 夢


幼少期はずっと家の中だった。


「お外は危ないから」


そう、何度も言われてきた。


生まれつき、体が弱かった。

幼少に命を落とすかもしれない。

大人になれたとしても、きっと、そう長くは生きられない。


みんな普通に外に出て、当たり前のように大人になる。


でも僕は違う。


みんなの普通も、当たり前も、僕にはないもの。


うらやましかった、ねたましかった。


なんで僕だけ。

そう思って泣いた日もあった。

神様が意地悪をして、僕をこんな風にしたんだ。

そう思って怒った日もあった。


でも、それは違ったんだ。


「他の子みたいにたくさんは生きられないかもしれない。だけどその代わりに、あなたは神様から美しい歌声を授かったの」


母さんがそう教えてくれた。


「今は上手に歌えなくても、大人になればきっと素敵な歌が歌えるようになるわ」

「本当?」

「本当よ。だから大人になるまではお家でいい子にしていられる?」

「分かった、いい子にしてる!」


だからずっと家の中で過ごした。

言いつけを守れば、大人になれる。


僕は大人になりたい。

大人になって、外にあるたくさんの世界を知りたい。


そして歌いたい。


今は上手に歌えないけれど、こっそり練習をすればきっと大人になる頃には素敵な歌が歌える。

だって神様が授けてくれたんだから。


まだ見ぬ世界へ思いを馳せながら、僕はゆっくりと眠りについた。






あれから月日は経ち、僕は今日大人の仲間入りを果たす。


遂に、外の世界を知るのだ。




憧れた世界は美しく。


草木はつゆに濡れ輝き、天井のない空は想像よりも果てしなく広く、そして遠くにあった。

だるように暑い空気だって、どこか心地よく感じる程に、僕は僕の周りにある全てに魅了された。


──鮮烈だった。


もう戻ることはない家に別れを告げ、大地を踏みしめ歩き出す。


「大人になれたとしても、長くは生きられない」


そう、僕に残された時間は決して多くはない。

だからこそ、後悔しないように。


この目でたくさんの世界を見て、神様から授かったこの声で歌うのだ。


今、生きている喜びを。

美しい世界に高鳴る、この胸の鼓動を。


たくさんの人に伝えよう。

神様から授かったこの歌声に乗せて。


そしていつまでも歌い続けよう。

この命が燃え尽きるまで。




「ああ、世界はこんなにも美しい!」

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