第30話 エピローグ
机の引き出しを片付けていたら、小瓶が出てきた。底のほうに色の付いた水が少し入っている、透明なガラス瓶。
ああ。
こんなところに入れてたのか。
三年前、浩明が海外出張のお土産に買ってくれたもの。
「これ、お土産」
「なになに。きれいね」
「虹の雫が入ってるんだって」
蓋もガラスでできていて、中の水がこぼれないようにきっちり封がされていた。
水には薄く色がついてた。それが日光を受けて、虹色にみえる。
「願い事が叶うお守りなんだよ」
「ありがとう。大事にする」
浩明の仕事は出張が多くてなかなかゆっくりと一緒には過ごせない。でもたまに会う時には、離れて過ごした時間を埋めるように、いろんな話をした。
楽しくて、時間はあっという間に過ぎた。
虹の雫の入った小瓶は、机の上でいつもキラキラと輝いていた。
けれど、少しずつ。ほんの少しずつ中の雫は減っていく。
穴は開いていないのに。
どこからか、雫は出ていってしまう。
穴が開いているのだ。
見えないけれど。
小さな穴が。
見えないくらい、小さな穴が。
願いが叶う小瓶は、私の願いをかなえないままに半分まで減ってしまった。
浩明は新しい恋を見つけて、私の元を去った。
穴が開いていたのだ。
二人の間に、見えないくらい小さい穴が。
いつのまにか。
小瓶が机の奥に仕舞われてからも、虹の雫は少しずつ逃げていたらしい。
今はもう、ほんの一滴。
小瓶の底に醜く残る色水のように、浩明の心の中にもまだ私の残骸が残っているだろうか。
しばらく眺めてから、私はまた引き出しの奥へ小瓶を戻した。
捨てよう。
次に見つけた時に、虹の雫が全部消えていたら。
見えない穴から、浩明の思い出がすべて零れ落ちてしまったときに。
【了】
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