第25話 道に穴が

「道に穴があいていたら、近寄らないほうがいいよ」


 さっきそう教えてくれたのは……。


「大抵は何でもない穴なんだけどね。たまに危ないのがあるんだ」


 バス停で一緒になった知らない男だ。


「一つは周りにヒビが多い穴。地下に空洞がある可能性がある」


 少し変わった男だった。


「もう一つは緩い坂の下に開いた穴だけど、これは分かりにくい」


 中肉中背で服装も何一つ特徴がない。


「わりと大きな穴なんだけどね。周りのアスファルトに偽装されてて」


 そういえば顔も思い出せないな。


「その下に、大きな鮟鱇あんこうが住んでるんですよ」


 鮟鱇……。


「ほら、見てくださいよ。目の前の道の、あそこらへん」


 男が指さしたほうへ近付くと、道路に1mくらいの細長い穴があいていた。

 言われなくては気付かないような細い筋のような穴。

 その時、後ろからドンと突き飛ばされて、私は道へと転がってしまった。


 細い穴が、ぱっくりと開く。

 丸く、大きくひらいて私を飲み込もうとする。

 転げながら何かに掴まろうとあがくと、ゆらりと立っている男が見えた。


「たすけて」


 男は何も言わない。その頭の上に細い紐のようなものがあった。紐は男を釣り上げ、ゆらゆらと動かす。


「あ、あ……」


 穴に飲み込まれながら、走馬灯のように今の出来事が脳裏をめぐる。

 けれど私はまだ、自分の身に何が起こったのか飲み込めないでいた。


【了】

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