第24話 記憶の穴
「昨日の三時ごろ? えっと……何をしてたかな?」
思い出せないことなんて誰にでもよくある。
私も最初はそう思っていた。
「
「何を?」
「もうっ、昨日約束したじゃないの。読み終わった本を貸してくれるって」
あれ、そんなこと言ったっけ?
最初はほんのちょっとした違和感。
うっかり忘れただけだと思っていた。
「伴くん、先週出してくれた企画書、良かったよ」
「企画書……ですか」
「何を他人事のように。ははは。この企画については君に任せるよ。しっかり頑張りたまえ」
「あ、ありがとうございます」
戻された企画案は私がずっとやりたかったものだった。だから企画の責任者になるのはもちろん嬉しい。
企画書を出したことを忘れるわけがない。けれどそんなのは些細な事。大事なのは企画、企画。
心に引っかかった棘を見てみぬふりで、私は仕事に邁進した。
◇◆◇
毎日はあっという間に過ぎていく。本当にあっという間に。
昨日のお昼ごはんは何を食べたっけ。そもそも食べたのかな?
全く覚えてないけど夕方までお腹は空いてなかったからきっと食べたんだろう。
毎日毎日、前日のことを思い出そうとしても記憶にはぽっかりと穴が開いている。
そしてその穴は日々大きくなっていく。
「おはよう、伴くん。最近夜更かしし過ぎなんじゃないか? 朝は調子が悪そうだ」
「そうですか? 夜更かしはしてないんですが」
多分。昨日の夜は、えーっと……何時に寝たか覚えてないけれど。
「まあそろそろ目も覚めるだろう。提案は相変わらず冴えてるな。期待してるぞ」
「ありがとうございます!」
仕事はうまくいっている。
ただ……どうしても自分がやってることを思い出せないだけだ。
記憶力がひどすぎる。
もしかして病気?
今この時も、体に違和感などないのに。
◇◆◇
朝、目覚ましの音で起きる。
眠い。
私は昨日いつ寝たんだっけ……。
昨日……何したっけ……。
記憶の中は真っ暗な大きな穴しかない。
◇◆◇
目覚ましが……。
◇◆◇
……。
◇◆◇
◇◆◇
そんな夢だった。
『私』の見る夢。
ふふ。
入れ替わるのにはずいぶん時間がかかった。
今日からあたしが目覚ましの音で起きる。
朝起きてから夜寝るまでの間、ずっとあたしの時間。
おやすみ、『私』。
仕事はあたしがキッチリやっとくからね!
【了】
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