第29話 動物園に熊出没
人間って案外間抜けだよな。
新鮮な草を食みながらヤギは思う。
ここは動物園。
ヤギは昼間はほぼ放し飼いのように園内を歩き回れるが、夜になるとヤギ舎の中に入れられる。それで人間は安心してしまう。抜け穴あるのに。
たいていの動物の檻には抜け穴がある。
もちろん全部じゃない。
象舎の象たちはどうにかして抜け穴を作ろうといつも頑張っているけど、体が大きいから難しいと言っていた。気の毒だから時々新鮮な草を持って行くことにしてる。オヤツにもならないけどなー。
ライオンとかが住んでるサファリゾーンの抜け穴は、危ないから俺たちが塞いだ。マジで人間しっかりしろよって思う。
熱帯の鳥たちが住む温室はそりゃあもう出たり入ったり自由自在だ。
意外と、外に住んでた雀たちが快適だからと言って住み着いたりする。
「じゃあワシが代わりに外に住もうかの……」とか言い出すオウムのジジイがいたけど、みんなで必死に止めた。朝の点呼の時に姿が見えなかったら騒ぎになるんで。
暗黙の了解というか、抜け穴は絶対にバレないように使うのが決まりだ。ほぼ夜中しか使えない。
遊んでも 証拠残すな 夜散歩
ほぼみんな上手いことやってると思う。
だけど中には困ったやつがいる。
熊だ。
熊舎のツキノワグマのやつらときたら。
抜け穴はまあまあうまく隠してあるからいいとして、外に出たらもうやりたい放題。
暴れて動物園の外柵は壊すし、シロクマのところに行って挑発したりする。
シロクマ舎は警備が厳重で抜け穴がいまだに作れていないんだよ。
シロクマがストレスで脱毛したのは本当に気の毒すぎる。俺はシロクマの代わりにツキノワグマに蹴りを入れてやった。
とにかく困ったやつなんだ、ツキノワグマ。
そんな困ったやつがついにやらかした。
糞をしたのだ。檻の外に!
翌朝人間たちが大騒ぎした。
「クマが出たぞ。糞からすると、おそらくツキノワグマだ」
やばい。抜け穴が見つかる。俺はとっさにそう思った。
でもやっぱ人間だね。
「外柵が壊されてるぞ。外から入ってきたんだな」
いや、うちの熊たちですけど。その柵を壊したのも、うちの熊たちですけど。
すまないね。外の山に住んでる熊たちには今度謝っとこう。
うちのアホなツキノワグマが濡れ衣着せました。
どーもすいやせん。
そんなわけで、抜け穴はまだ見つかってない。
俺たちは時々熊に蹴りを入れながら、今日も夜散歩を楽しんでいる。
【了】
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