第19話 カナちゃんとピンホール理論

 親友のカナはちょっと変わってる。

 でも、どこがって聞かれると少し困る。それってとても説明しにくくて。

 たとえばある日の授業中、前の席にいたカナが何かプスプスとずっと音を立ててた。


「カナ、何してんの」

「ノートに針でいっぱい穴を開けてるんだよ」

「なんで?」

「ピンホールの謎を解こうと思って」


 カナの言ってることはだいたいいつも謎だけど。


「ピンホールってことは、小さい穴だよね。謎があるの?」

「サクラちゃんは、ピンホールカメラって知ってる?」

「理科で習ったことあるかも」

「ただピンで穴を開けただけで、カメラが作れるってすごいと思う」


 他にも道具は必要だったと思うけど、まあ凄いとは思う。

 しかしたくさん穴を開けたらいいというもんじゃないだろう。


「カメラ作ってるんじゃないよね?」

「違うよ。これはピンホールメガネを作ろうと思って」

「メガネ?」

「こうやっていっぱい穴を開けた紙を目に当てると、目が悪い人も遠くのほうが良く見えるんだよ」

「へええええ。それ本当?」

「本当」

「カナも今、目に当ててるけど黒板よく見える?」

「私は元から目がいいから、紙がある分だけ見えにくいよ」

「ダメじゃん」


 けど私は近視だからちょっと興味はある。

 あとで試してみようかな。


「そこで、考えたんだけどね」

「うん?」

「一つ穴を開けただけでカメラになって、たくさん開けると遠くのものが見えやすくなるってことは」

「うんうん」

「もっとたくさん、密に穴を開けると、あ、穴を開けると紙が疎になるのかもしれないけど」

「密でも疎でもいいから」

「うん。いっぱい穴を開けると、時空がゆがんで異世界が見えたりしないかなと思って」


 それはないよ。

 ないよね?


「だから、もっと穴を。もっと穴を。もっと穴をおおおおお」

「伊藤、何やってるんだ」

「あ、先生」

「授業中だぞ。これは?」

「あ」

「ほう。透かして見たらドラゴンが見えるのか。よく書けてるけど授業中にこんなことしたらダメだぞ。先生が没収しておくから」


 ……ドラゴン?


「カナ、ドラゴン描いたの?」

「そんなもの描いてないよ。穴を密に、疎に? 開けてただけ」

「な、なるほど」


 じゃあ先生が見たドラゴンは何なのだろう。

 変な話。

 そんなこともあったりして、結局カナってちょっと変わってる。

 でもどう変わってるのかって聞かれたら、説明がすごく難しい。


【了】

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