第27話 穴を掘る子

 沙織がその女の子に気付いたのは、ある晴れた日の夕方のことだった。

 マンションの中庭にあるちいさな公園は、夕方になるといつも小さい子供たちの遊び場になる。小学生にもなれば学校や大きな公園で遊ぶのだが、小さい子はそうもいかない。マンションの中庭ならいくらか安心なのだろう。


 女の子はいつも赤いスカートを履いている。よほどお気に入りなのかもしれない。そして赤いスコップを持って、いつも砂場で穴を掘っているのだ。

 その公園にはブランコや滑り台もあって、幼児たちにはそっちのほうが好評らしい。砂場で遊ぶのはいつもその女の子一人だけだった。


 晴れた日は必ず、その女の子は砂場で穴を掘っている。沙織はそれがだんだん気になって仕方なくなってきた。

 とはいえ、このご時世。子供に話しかけたりしたらすぐに、不審者が出たとメッセージが回るという。だから沙織も聞きたいのを我慢して何日も過ごした。


 けれど気になり始めた疑問って、なかなか頭から離れないものだ。

 女の子はいったい何のために穴を掘っているのか。

 知りたい!


 我慢の限界がきて、沙織はついに女の子に話しかけてしまった。


「こんにちは」

「こんにちは、おねえちゃん」

「あのね、お姉さんはちょっと聞きたいことがあるんだ」

「なあに」

「いつも砂場で穴を掘ってるけど、何をしてるのかなーって」

「お墓を作ってるんだよ」

「え」

「死んだら埋めないといけないんだって」


 ペットの虫か小鳥が死んだんだろうか。だとしても、近くに置いてはいない。

 それに掘っているのは毎日だ。ごっこ遊びにしては少し趣味が悪いような……。

 最近の子供の遊びなんて沙織にはよくわからないけれど。


「毎日掘ってるの?」

「なかなか大きな穴ができないの」

「ふうん」

「これくらい穴が大きくなったら、もう入れる?」

「え、なにが?」

「おねえちゃんが」

「……え?」

「だっておねえちゃん、死んでるでしょ。死んだらちゃんと埋めないといけないんだよ」


【了】

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