第34話 元クラスメイトとの再会

「日奈、今日もお友達とたくさん話せた。あすかちゃんね、この前クッキー作ったんだって。日奈も今度やってみたい」

「よしっ、材料用意しとく」

「うん、それからね……」


 日奈を迎えに行っての帰り道。

 まだ進級して間もないこともあり、日奈は新しいお友達のことを教えてくれる。


 日奈の話に集中しながらも一方で俺は考えていた。

 不甲斐ないだけが原因ならあそこまでのやらかしはしなかったと思う。

 とすると、他にも何か俺自身気づいてないことがあるに違いない。

 そこを考えようとするとなんだかモヤモヤする。


(この感じは前にも……)


「あーっ、入間君だ!」

「ほんとだ、ほんとだ」

「なんか久しぶりって感じだね」

「っ!」


 明るくどこか楽しげな声の方に視線を向ければ、そこには学校帰りらしい3人の女子が居た。

 彼女たちは迷いなく距離を詰めてくる。

 中学の同級生で同じクラスだった女の子たち。

 そして、美涼に告白した時に見守ってくれていた3人だった。


 それを思えばどこか気まずい。


「高校違っても、住んでるところは変わらないもんね」

「なんか入間君痩せた?」

「それは大変。育ち盛りなのに……」

「いや痩せてないと思うぞ……」


 こっちが気まずいことなどお構いなしとばかりにグイグイと来る。

 しかも終始笑顔なので、身構えようとしても力が抜けてしまう。


「お兄ちゃん、お友達?」

「あ、ああ。中学校の時のクラスメイトだよ」

「じゃあ美涼お姉ちゃんと一緒。いつもお兄ちゃんがお世話になってます」

「っ!?」


 彼女たちと同じように日奈も笑顔を作る。

 隠しておけることでもないが、今までは大ぴらにしたくない気持ちもあった。

 でも日奈から暴露してもらってスッキリした気もする。

 それに、3人とも美涼と仲良くしていたから、もしかしたら、とも思う。


 聞いておきたいことがあった。


「おー、入間君の妹ちゃん、天使!」

「なになに、この可愛さ」

「これはもう反則でしょ……」

「……いや、日奈が可愛いのはその通りだけど、それより聞き返したりすることは……」


 途端に日奈を撫でたり抱きついたりしている3人。

 はしゃぎ気味だけど、それだけじゃなくて熱量があるというか、暖かい感じがする。

 日奈の方も満更でもないようでその顔を覚えようとしてか、じっと見てはにこっとしていた。


「「「とりあえず、立ち話もなんだし話しようよ」」」

「お、おう……」



 移動してやってきたのは大学病院の側にあるファミレス。

 平日のランチタイムは凄く混雑しているが、それを過ぎた今はお客さんの数はまばらになっていた。

 テーブルに案内されると、日奈はメニュー表を見て目を輝かす。

 どうやらチョコレートスイーツのフェアをやっているらしい。

 そういえば外にものぼりが出ていた。


 熟考している日奈をみて、とりあえず人数分のドリンクバーとフライドポテトを注文する。

 飲み物を片手にすぐに話が始まった。


「どんな感じ?」

「大丈夫、意地悪されてない?」

「少しはあの子素直になった?」


 話を聞きたくてうずうずしていたのか、前のめり気味に尋ねてくる。

 その頬はみな赤くて、表情は明るく見えた。

 いきなりだ。

 さっきの反応から俺の頭は多少混乱気味だった。


「えっと、まず聞きたいんだけど、その言い方だと俺の親父と美涼のお母さんのこと知ってるってことでOK?」

「そっか。まずそこからだよね」

「OK、OK」

「私ら、樹君が告った後様子がおかしい美涼問いただして、兄妹になることは聞きだしてるよ。ついでにそんな事情があっても、あの言い方はないって駄目だししといたからね」

「えっ……」

「で、どんな感じ?」


 目の前には興味深々と言わんばかりの3人の顔が並ぶ。

 元クラスメイトで、俺と美涼のことを佐野並みに知ってるだろう。

 話さないという選択はなかった。

 美涼が兄妹になることを話したのなら、互いに信頼しているということだから。


 日奈のスイーツを注文し、かいつまんで同居からここまでのことを偽りなく伝えることにする。


「とまあ、そんな感じで……」

「そっか。あの子、1人で背負い込んで色々と素直じゃないから。慣れない兄妹ってことで入間君でも苦労するんだ……」

「ねえ、新しい学校にわたしらみたいな子たちいる?」

「あー、そうだね。美涼のこと理解して揶揄える女の子」


 やっぱり元クラスメイトの3人は明るくよく喋る。

 俺と美涼を知っているということで、やり取りもスムーズだ。

 話を聞いてもらえて俺もどこかほっとする。


「どうかな……その、俺も今日やっとクラスメイトと話せたくらいで、あんまり馴染めてなかったから。理解してくれる子は思い浮かぶけど、揶揄えるかどうかは……それよりさ、俺の方からも聞いておきたいことがあるんだけど……」

「何でも聞いてよ。美涼のことなら大抵のこと知ってるよ」

「遠慮しないで」

「どんとこい」


 三人ともシンクロしたように背筋を伸ばして胸を叩いた。

 何とも心強い反応だ。


「中学の頃さ、美涼部活のことで何か悩んだりしてた?」

「「「…………」」」


 その質問が来るとは思わなかったのか、互いに視線を彷徨わせ目配りする。


「話してもいいのかな……?」

「入間君なら大丈夫じゃん?」

「美涼を元気に出来るのは、入間君だし……あの子、1年の時からすぐにレギュラーで試合に出てチームはどんどん強くなったんだけど、先輩には1年のくせにっていい顔しない人もいたって聞いたよ」

「上下関係とかあるちゃあるから、ぎくしゃくしてた感じ」

「その当時、2、3年生でやめた人もいるって話もしてて……」


 3人の話に耳を傾け、あの新歓の時を思い出す。

 プレイ中に先輩の方を見ていたのはそういうことがあったからかもしれない。

 あいつの性格を考えると、部活を決めかねていたこともこれで合点がいく。


 団体競技自体入りたくないのかもしれないな。


(たくっ……)


 なぜそんな大事なことを話さないんだ。

 聞いてしまったからには、どうにかしてあげないとな。


「あはは、やっぱり入間君は入間君だ」

「ねっ、これだから2人を見てるの羨ましくなるんだよね」

「兄妹でもちっとも変わらないじゃん」

「……ど、どういう意味だよ、それ?」


 口元が緩んだ3人を目の当たりにして、たじろぎながらも聞いてみる。


「美涼のこととなると、本気というか……」

「一生懸命だよね。で、凄く子供っぽいし」

「たぶん入間君だから、美涼はそこまで意地張っちゃうんだよ。なんだかんだ言っても信頼してるし。あの子不器用だからね」

「不器用、か……」


 ファミレスを出るころにはすっかり暗くなって、街灯が点滅し道路を行きかう車の数も増えた。


「言い忘れてたけど、美涼は同時に二つのことは考えられないし、だからまずは家族として。そう思ったって言ってたよ」

「うん。だから入間君は落ち込まなくても大丈夫。いつでも私らがこうやって相談に乗るからさ」

「話するのが遅れちゃってごめんね。引っ越しとか生活になれるのに時間かかるだろうと思って、わたしら遠慮してたんだよ」

「そ、それって……」


 3人は顔を見合わせ、悪戯っぽく笑う。


「私たち学校違っても、2人のこと気にしてるしいつも応援してるから」

「日奈も、日奈もお兄ちゃんとお姉ちゃんを応援してる」

「おー、日奈ちゃん入間君美涼仲良し同盟に加盟する?」

「する、する!」


 再会してから別れ際まで元クラスメイトの女の子たちは明るさ満点だ。

 その様子に少し勇気をもらい、情報も得られた。


 あとはこのモヤモヤさえ解消できれば……。


 頑張った成果も出て、久しぶりに気兼ねなく話した影響なのか、昨日よりも足取り軽く自宅へと歩を進めた。

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