第23話 ほっといてくれよ
次の日の帰りのホームルーム後、早くも実力テストの結果が手元へと戻って来た。
どの科目も見るも無残な結果だ。
マークシートを塗り間違えるというミスまでしてしまって、とても人様に見せられる代物ではない。
「うわー、美涼ちゃんすごい」
「さすが美浜さん負けた」
「どうやったらそんな点数取れるの!」
美涼の周りから聞こえてくるのは称賛ばかりで高得点らしいことは明らかだった。
数字としてもわかる明確な差が浮き彫りになり、思わず答案用紙をぐしゃっと握りしめる。
湧き上がってくるこの感情が悔しさなのか、自分への怒りなのか、焼き餅なのかはわからない。
わからないが、冷静ではないのは確かだ。
「やっぱり知らなかったのね、テストのこと……」
「……」
しばらく呆然としていると、いつの間にか美涼が傍にやって来ていた。
「テストのこと言おうとしたのに、あなた聞かないから」
「……」
「ちょっと見せて……国語は明らかにマークミスね。最初の方が解けなくて頭真っ白になっちゃったんでしょ。そこ気を付けなさいって受験前にも注意したのに……他の科目も復習さえすればすぐに思い出すわよ。どうせ受験終わった後勉強してこなかったんでしょ」
「……」
「あとで要点だけ教えてあげる」
「……」
いつも通り美涼はフォローしてくれる。
普段なら言い争いの一つでもしてお礼を言うところだけど、今は言葉が出てこない。
こんなふうに世話を焼いてくれる美涼に感謝しかないのに、好きなのに、喉元から湧き上がってくる言葉は、
「ほっといてくれよ……」
そんな拒絶の言葉だった。
(っ!)
幸いにも室内はクラスメイト達の話声でざわついていた。
俺のその小さな言葉は、美涼には届かずにかき消されたみたいだ。
だがその拒絶の言葉自体が自分自身を深く傷つけられる。
今はこれ以上美涼と話すのは止めた方がいい。本能的にそう思って教室を離れようと席を立とうとしたのだが、そんなとき教壇に男女1名ずつが上がった。
「えっー、ちょっと聞いてください。こうして同じクラスになったことも何かの縁。テストも終わったことですし、お互いを知ってもっと打ち解けるためにも懇親会を催したいと考えているんですけど……」
「カラオケやボーリングなんか、どうかなと思ってます」
少しの沈黙の後、室内からは歓迎と言うように拍手が起こる。
「美涼ちゃん、一緒に参加しない?」
「えっ、ええ……」
すぐに美涼の周りには人が集まり、誘いの言葉が。
「しゃあー。俺の歌を美浜さんに捧げるぜ」
「ボーリングに行くならいいとこみせられるかもしれない」
美涼が参加すると聞いて、男子の熱は一層高まったのは説明するまでもない。
みんな誰かに誘われ参加を次々と表明している。
お店の予約もするので人数を把握したいという声が耳には届いたが、俺は微動だにしなかった。
いや出来なかった。唇を噛み締め、心の中では必死に感情を抑え込んでいるのだから。
頼むから今の俺には何も言わないで欲しい。
それなのに、よりにもよって美涼と目が合ってしまった。
「どうかしたの? ほら、あなたも参加するわよね?」
「……俺はいい」
「なに意固地になってるのよ……しょうがないなあ、入間君も参加しま」
「いいって言ってんだろ!」
美涼の声をかき消すような俺の大声が教室内に響いた。
美涼は驚いたのか目を見開いている。
(……あっ)
美涼への申し訳なさから顔を伏せ、自分への怒りでこぶしには力が入る。
シーンと静まり返った後、はっと我に返ったけどもう遅い。
方々からは男女問わず刺すような視線が飛んでくる。
「なに、どうしたの?」
「感じ悪くない?」
あまりのバツの悪さに、鞄を乱暴に掴みそのまま廊下へと飛び出した。
俺は何度も何度も額を叩く。
「やっちまった……」
大馬鹿だ俺は。
自分が不甲斐ないだけなのに、なに美涼に当たってんだよ!
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