第18話 活躍する美涼

 体育館には人が集まりだしていた。

 まだまだ増えていきそうな勢いだ。

 佐野と一緒に、隙間を通って何事かと館内に顔を出す。


 バレー部、卓球部のブースは人がまばらで、ひと際熱気を帯びているのがバスケ部だ。

 みなの視線の先をたどれば、そこにはジャージ姿の美涼がいた。


「おっけー、一本返して行こう」

「さすがに凄いね」

「次はあたしがきちんと抑えるから」


 どうやら3×3でゲームをしているらしい。

 真新しいジャージ姿に身を包んでいるのが美涼たち新入生。

 対する相手はジャージに赤の刺繡が入っているから3年生か……。


「あんな可愛い子が入ったのか?」

「運動神経良いよね」

「ほら、またあの子」


 美涼がボールを受けるとそれだけで歓声が強くなる。

 どうやらここまで相当な活躍をしているらしい。


 相手のわずかなスキを逃さずドリブルで抜きにかかる。それでも抜ききらずに、瞬間的にパスに切り替えると、そのままマークを外してリターンパスを受けレイアップシュートを決めた。


(すげっ!)


 行きつく暇もなく自分のゴール近くに戻っていく。


 美涼は周りが良く見えているのか、他の2人によく声を掛け頻繁に目を向けているのが印象的だ。    

 ここぞという時には自ら勝負しに行っていた。他の2人もバスケ経験者なのか動きがいい。

 ディフェンスはマンツーマン。美涼の相手は上背もありスピードもある。そしてなにより美人だ。


「佐々木さんがさっきから攻めあぐねてる。誰、あの子!?」

「ほら、代表で挨拶してた子よ」

「あー、美浜美鈴さん」


 攻めあぐねているというか、したたかというか百戦錬磨な印象を俺は受ける。

 その人を抑えながら美涼の視線はときたま試合に出ていない他のバスケ部員にも動いている気がした。


「っ! やるねえ、ほんと。久しぶりに楽しくなってきちゃった」

「っ!?」


 美涼のディフェンスがいいので内に切り込んでいくのはリスクが高いと思ったのか細かいフェイントを入れた外からのジャンプシュートに美涼は少し遅れてしまってブロックは届かない。


「佐々木ちゃんを本気にさせてるじゃん」

「手加減してたらやられちゃうしょ」


 どちらの応援もすごくて、ワンプレーごとに大騒ぎだ。


「……あの綺麗な人もすげえ上手いな」

「彼女、去年の県の最優秀選手だからね」


 先輩たちにオリエンテーションというつもりはないようだ。

 取られたら取返し、互いに一歩も譲らない。

 コート上の6人は真剣そのもの。

 特にあいつは負けず嫌いだ、試合形式なら燃えないはずがない。


「美涼のやつ、あんなにバスケ凄かったのか……?」

「知らなかったわけじゃないよね……まあバスケ部員の中じゃちょっとした有名人らしい」

「ああ、プレイしてる姿を見る機会あんまりなかったから」


 そういえばそんな話を廊下でも聞いた気がする。


「ほら、樹が言ってた卒業式の人もバスケ部だったって……」

「っ!? たしかに、そうだったな」


 試合の結果は美涼たちの惜敗だった。

 周りからの拍手の大きさが、どれだけ見ごたえのあった試合かを物語っている。

 美涼たちは興奮した相手の先輩や他の部員たちに囲まれていた。


「ふう、なんとかなった。これ予選よりきつかったよ」

「しんどかったね。凄いね、今年の新入生は……」

「ほんと、佐々木ちゃんあそこまで止められる人県大会でも数人いるかだよ」

「いえ、そんな……あ、ありがとうございました」

「一緒にやってみない? ワンオーワンもやってみたいし、良いコンビになれると思うな」

「……いえ、それは考えてみますけど」


 美涼は汗をぬぐい先輩たちと握手する。

 悔しさを隠して笑った。だけど、なにか俺にはその笑顔が引っかかる。


「美涼ちゃんごめんね、無理に誘って」

「うんうん」


 どうやら美涼は他の子に誘われて参加したようだ……。

 試合に出ていなかった部員の人たちに頭を下げる姿は好感が持てる、礼儀正しい。

 やっぱり美鈴はすごいな。これだけの人を興奮させて巻き込む力がある。

 だけど……。


「どうかしたの?」

「あっ、いやなんでもない……」


 なんであいつあんな辛そうな顔してるんだ?


「美浜さんか、やべえファンになりそう」

「バスケ部入るなら毎日見に来るわ」

「彼女って何組?」


 俺の疑問を他所に方々ではそんな声が聞こえて来る。結果はどうであれまた周りの評価を上げたな。

 一言揶揄ってやりたいが、人が多すぎて近づくことさえ敵わなかった。

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