第10話 いつもと同じ、やっぱり違う
「日奈ちゃん、お弁当持った?」
「うん、今日もお兄ちゃんがかわいいのつくってくれた! せんせいもいつもほめてくれる!」
そう得意げになって、日奈は美涼に今日の弁当の中身を魅せる。
「えっ、これ、お母さんたちのとは全然違うじゃない! そっか、食べやすいように一口サイズにしてるのね。ご飯の上にはにゃんこライダー……か、可愛い、それに美味しそう」
日奈のお弁当はつい時間をかけてしまう。
一番は味だけど、見た目にも気を遣うからな。
今日は少しキャラ弁ふうにしてみた。
日奈が喜んでくれる顔を見ると、それだけでほっとするし我ながら今日も頑張った、と思う。
そんな出掛け際の会話の後、日奈の手を繋ぎ保育園へと向かう。
「あら日奈ちゃん、いっちゃんおはよう。今日は天気がいいね……って、誰その美人!」
「おう、これはごきょうだい……新作のパフェを作ってみたんだ。あとで味見してくれねーかな……帰りにでも寄って……おいおい隅に置けねーな。そっかそっか、もう高校生だもんな。時間が経つのは早いねえ、デカくなったもんだ」
「いいねえ日奈ちゃん。朝からお兄ちゃんと一緒で………………い、樹君、その子彼女!?」
その途中、花屋のお姉さんや喫茶店のご店主、パン屋のお姉さんに挨拶される。
お店の開店前ということあり、花壇の水やりや玄関先のお掃除などで朝のこの時間は顔を合わせることが多い。
元気のいい人たちだ。こっちも励まされている。それはいつものこと。
だが今日は俺たちの隣を美涼も歩いてる。
みんな美涼を見た瞬間に目を見開く。
美人だからか、ひと際目を引くのだろう。確かにそこに異論はない。
美涼も長々と自己紹介はせず、慌てた様に挨拶するだけだ。
きちんときょうだいだと説明している時間もない。
俺は頭を下げ苦笑いを浮かべ、通り過ぎた。
(後でちゃんと説明しないとな)
そのことを考えると胸がずきりと痛んだ。
「……2人ともなんか人気者ね……おほん、それはそうと、さっき言った家事当番制についてはOKよね……日奈ちゃんは嫌いな食べものとかある?」
「……日奈ねえ、にんじんが苦手だったけど今は食べれるようになったよ」
「へえ、あたしもにんじんは苦手だったなあ……おほん、とにかくお母さんたち新婚なんだからなるべく2人の時間作ってあげましょう。いいわね?」
「ああ……」
美涼の提案は名前呼びだけではなかった。
家事のことや私生活で注意してほしいことなどにも話は及んだ。
俺も両親には2人の時間を積極的に作ってあげたいと思っている。
だから家事を分担してやるってことにも異論はない。ないけど、なんで美涼の方が役割分担多くなるのか疑問だ。
「また不満そうな顔して……樹よりあたしの方が効率よく出来るからよ」
見透かされてしまった。
「日奈、今日は少し早めに迎えに来るからな」
「うんっ。お姉ちゃんも来る?」
「来るよ」
日奈の頭を撫でる美涼を何気なく見てしまって、ドキリとしてしまった。
日奈を送って、保育園からの帰り道。
2人きりになっただけでたちまち口が重くなってしまう。
何か話しかけようとは思うものの、やはりなかなかうまくはいかない。
歩くことに集中していないためか、美涼との距離が離れる。
避けているみたいで、なんかそれが嫌で慌てて距離を詰めた。
それでも、油断するとまた間隔があいてしまう。
(あれ……?)
「予想以上、だった――もう! ――あたしの方がよっぽど――」
前から僅かに微かに漏れる声。
なんか歩くのも徐々に早くなっている気さえする。
急いでいるのか、なんか速い。
だからか、家に戻ってきたときは少し息を切らしてしまう。
玄関に入り、靴を脱ごうとしたとき美涼が腕組みをして仁王立ちしていた。
その姿を見ればなんだか気まずさは少し和らぐ。
だってその表情と態度はいつも学校で目にしていた光景と同じだったんだ。
「……えっと、なにか?」
「……」
怒っているわけではなさそうだから、恐怖は感じない。
それでも確かめるように、言葉は自然と恐る恐るになっていた。
こんな時の美涼は、何か俺に注意することがあるときか、もしくは意見を言いたいときだ。
「今日の夕食、あたしがやるから譲って」
「えっ……いや、けど、明日から連ちゃんでやることに……」
「出来る、から。もう朝食だけで樹が料理出来るのはお母さんにも伝わったでしょ。次はあたしの番……な、なによその顔、あ、あたしの料理の味が心配なわけ?」
「……いや、あんなノートみせられて、そんなことはねえけど」
「なら、問題ないでしょ」
チラッと顔を上げれば、美涼は明後日の方向を向いている。
やっぱりいつも通り、じゃない。
だけど、今朝見たいな感じでもない。
「み、み、み……」
何か一声掛けたい気持ちになった。でもその前に、まずは名前で呼んで……。
だが意識しても、いざ呼ぼうとするとつっかえる。
それだけじゃなくて、まだ口にもしないのに恥ずかしくて悶えてしまいそうだった。
やっぱガキだな、俺は。
「っ! ひ、日奈ちゃんの好きな食べ物、それからご近所さんについての情報を速やかに教えて」
そんな俺の姿はお構いなしとばかりに美涼は主張してくる。
なんだかすごく張り切って……大丈夫だろうか?
なぜか少し不安になった。
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