第5話 さすがに筋肉のことがわかってきました

E月ot日


 ついに魔王討伐に出立です。

 ドラ肉で食糧問題も解決しましたし、やはりタケオに装備は不要でした。王都民にも黒ビキニのタケオを見られてしまったので、異世界人は黒ビキニのみで過ごす種族だと理解していただけましたし、王族が何の装備も持たせず送り出したわけではないと納得していただけました。

 何より出立を急ぐ必要がありました。それは思わぬタケオ人気です。私のような健常者の方が多いのですが、タケオがドラ肉を頬張る姿を見て異世界食文化に感化された王都民もいるとか。街で筋トレ姿を見かけることも多いとか。だんだん薄着になっていた近衛騎士どもがとうとう上半身裸で謁見の間の警備を始めたとか。謁見の間で弟を肩車しながらスクワットしている王の姿を発見したとか。

 異世界からの侵略タケオ化が進んでいます。早くタケオを追い出さなければ。

 魔王討伐軍は計二十名。タケオ、私、騎士団長。あとコール要員の騎士十七名。

 コール要員は意味がわかりません。ただもう手遅れな騎士どもは連れて行った方がいいと判断しました。

 

E月oρ日


 タケオの口から吐き出されたモノで開かれた道を進みます。いざ北端の死の大地に。道は平たく真っすぐ旅路は順調でした。魔の森を抜けて雪がちらつく山脈の谷間に。

 巨人王ガ・ガに襲われました。激怒しています。住処をタケオのモストマスキュラーに切り崩されていたので当然ですね。本来ならば恐怖の対象。決死の覚悟で挑むか逃げるか決断を迫られます。ですが私と騎士たちの胸に渡来したのは「こいつちっせーな」という思いでした。

 筋骨隆々の大巨人です。挑めば踏みつぶされるでしょう。腕一本でタケオの筋肉量を超えるでしょう。でも図体がでかいだけ。量だけの筋肉です。決して細くはないのに貧相に見えます。

 なぜなら相対的に見てバルクが薄い。筋肉の盛り上がりが足りない。キレてもない。カットが足りず膨らんでいるだけ。血管が浮き出て地図を描いていない。なによりバランスが悪い。図体を支える下半身は立派だが、上半身が細い。

 騎士たちも口々にコールします。

 

「プロテイン仕事しろ」

「このなまくら包丁が。そんな切れ味じゃ豆腐も切れないぞ」

「容量少なそうな冷蔵庫」


 異世界言語が混じっているので意味は分かりません。でもバカにしているのはわかります。ガ・ガは怒り狂って拳を振り上げますが、迎え撃つのはタケオのアブドミナルアンドサイ。

 両手を後頭部に添えて、前面の筋肉全てをガ・ガに見せつけます。私からは背中しか見えません。騎士たちのコールに熱がこもります。

 

「ナイスバルク」

「ナスカ。ナスカの地上絵最高」

「背中の鬼神休んでる。お腹の竜神絶好調」


 最近タケオの前面には竜神が宿ったらしいです。暗黒竜を食べたからでしょう。筋肉が前よりも盛り上がっていました。騎士たちのコールの意味は分かりません。

 ガ・ガは何度もタケオを殴りつけます。必死です。でもタケオはアブドミナルアンドサイのまま何もしません。ガ・ガの瞳から涙があふれ崩れ落ちます。勝敗は明らかでした。


「おで鍛える。お前見事」


 巨人王ガ・ガは去っていきました。

 タケオの非暴力勝利です。騎士たちは歓声を上げます。なにもしてません。私はドン引きしてました。騎士団長が私を守ろうともせずに一番コールの声をあげていたことは忘れません。

 私は強くならないと。

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