第3話 気が付けば筋肉に侵略されていく

∪月oΨ日


「ナイスバルク!」

「キレてる、キレてる!」

「ナイスカット! カットが際立っている」

 ……騎士の間で異世界言語が広まってしまった。

 あの筋肉、いえもうタケオと名前で呼びましょう。

 人でなくとも意思疎通が取れる生命体であることは変わりません。なにより友好的です。

 けれど馴染むの早くないですか?

 怪しげな魔法は感知できませんでした。けれど騎士団長と二人でよく密談しています。ボディビルダーという種族にも性別という概念はあるらしいですが、同性でも身体を触りあうことが多いとか。

 あといつまで黒のビキニ一枚なのでしょう。

 国の威信のためにもパンツ一枚で魔王討伐の旅に出すわけにはいかないので、色々準備してます。服も用意してます。

 パンプアップすると服が破れるからとの理由らしいですがなにか羽織れ変態。

 目の毒です。汚染されます。浄化したくなります。ちなみ聖魔法で狙撃しましたが筋肉に阻まれました。

 勇者チートと呼ばれるものであの肌にまとっているテカテカが結界の役割を果たしているみたいです。剣で切っても槍でついても魔法で燃やしても効きません。

 タケオに防具を準備する必要があるのでしょうか?



∪月oq日


 異世界の食文化には驚愕します。なんと異世界では鳥肉のササミと卵の白身しか食べないようです。あとホエイ。いきなり牛乳を回して分離させたと思ったら、分離して薄くなったホエイと呼ばれる部分を飲み始めました。

 謎の食文化です。

 食事量も多いし、余った部分をどうするのか困っていると、タケオが北の森に巣くう魔物タイラントハニービーを従魔にしてきました。

 付き従った騎士団長の話では、ほぼ裸体なのに鋭い蜂の針が刺さらず弾かれたとか。

 タケオは一切攻撃せずにバックダブルバイセップスというポージングで背中に宿る鬼神で威圧し、そこからバックラットスプレットというポージングで鬼神を笑わせて下したとか。

 意味が分かりません。

 どうも異世界人はポージングで魔法を放つ生態のようです恐ろしい。召喚時に見せたフロントダブルバイセップスからフロントラットスプレットのポージングは魅了の効果でもあったのでしょう。恐ろしい侵略者です。

 警戒は緩めません。

 でも蜂蜜と卵の黄身と成分の詰まったミルクの生クリームを混ぜて熱を入れて固めたプリンというお菓子は美味しいです!

 見直しました。

 姿形が異常なだけで根は優しいのかもしれません。

 そう言えば異世界言語のコールに「イタチョコ」というのもあり、甘くておいしいお菓子らしいです。

 

∪月ox日


 プリンが美味しくとも騙されるな。

 タケオは侵略者だ。

 騎士や父や弟まで異世界の食文化に傾倒し、訓練をし始めた。

 やはり洗脳魔法を疑うべきでしょう。

 大胸筋をピクピクさせて「大胸筋が今日も歩いている」なんていう種族が人間のはずありません。

 イタチョコも冷静に考えれば筋肉の比喩に利用されるんですよ。美味しいはずがない。

 

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