その母親は、子供に対してはメチャクチャ甘くて、怒鳴ったり殴ったりっていうのは一切なかったらしい。父親はすごく気が弱い人で、こちらも子供に対してさえおどおどしてたって

 ところでさ、

『親からは怒鳴られたり殴られたりしたことないのに、他人に対して威圧的だったり暴力的だったり』

 っていう事例について、

『子供に対してもそうだし、他人に対しても怒鳴ったり威圧したり殴ったりなんてしない親だったのに』

 みたいなのも中にはあると思う。私の高校の時の同級生にもいたな。その子の場合は、母親が父親を怒鳴ったり殴ったりして虐げてたケースか。

 その母親は、子供に対してはメチャクチャ甘くて、怒鳴ったり殴ったりっていうのは一切なかったらしい。父親はすごく気が弱い人で、こちらも子供に対してさえおどおどしてたって。しかも外面はよくて、社交辞令の範囲でしかその両親のことを知らない人達には、<いい人>に見えてたって。

 だけどこの事例は、ものすごく分かりやすいよね。母親が父親を怒鳴って殴って言いなりにさせたらしいから、それを見て、子供は、

『こうやって言うことを聞かせるんだ』

 ってのを学んじゃったんだろうな。

 で、また別の事例だと、今度は両親揃って気が小さくて、いっつも他人の顔色を窺っておどおどしてたタイプだったみたい。

 この場合は、<親>というよりは周囲の大人かな。親戚とか、父親の上司とかが威圧的なパワハラタイプで、父親が受話器を持ってペコペコしてる時に、上司の怒鳴り声が聞こえてきたって話してた。

 その子は、

「ペコペコしちゃって、マジ、ダサい!! あんな男と結婚するとか有り得ない!!」

 みたいに言ってたから、これもまあ、

『こうやって言うことを聞かせるんだ』

 ってのを学んじゃった感じだと今なら思う。母親も、親戚からあれこれ威圧的に捻じ込まれてはオタオタしてたそうだし、しかもそれでいて自分の子供がいるところで、

「いつか殺してやる……!」

 って恨み言も口にしてたらしい。

 ただ、この事例についてその子の<親>は基本的に被害者の立場だから、さすがに責めるのは酷だとは思うかな。周囲の人間に恵まれてなかったというのもあるだろうし。

 とは言えこれも、

『親の姿を見て学び取っちゃった』

 のは間違いなさそうだなあとは思う。

 かなり不運な事例だけど。

 でもなあ、子供の前で、

『いつか殺してやる……!』

 はマズいよなあ……

 そんな感じで暴力とかで事態を解決することを親が是認しちゃってるんだもん。

 その点、私は、親には恵まれなかったけど、人間関係にはすごく恵まれた。そのおかげで救われてるっていうのは間違いなくある。

 だから私は、自分が立派な人間だとも思わないし、完璧な親だとも思わない。ただ単に『運が良かっただけ』という面も確かにある。

 でも同時に、親の失敗から学んでそれを活かそうとは心掛けてきたっていうのも事実だし、それについては誇りも持ってるけどね。


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