11日目 十一人もいる

「兄さん、あっち」

「ん?」


 晩御飯の買い物帰り、長澤ミオは同行していた兄ハヤトの袖を引っ張る。ミオが指さした方向は裏道。大通りに面した道だが一本入るだけで街灯も人通りも少ない通りだった。その道半ばあたりに十人近くの人間がこちらに背を向けて佇んでいた。


「よく見つけてくれた」


 ハヤトはミオの肩をたたき裏道へと入った。

 

 よく見ると男たちは白髪の女子高生を取り囲んで何やら言い争いをしていた。


「いち、にい、さん……おいおい、十一人もいやがるぜ。よくもまあそんなわらわら集まって女の子一人をいじめて恥ずかしくねえのか?」


 ハヤトが声をかけると男たちが振り向き敵意を向ける。


「なんだてめえは!?」

「通りすがりの、ただの一般人だよッ!」


 ハヤトは目の前にいた一人に右ストレートを食らわした。男は弾かれたように飛び、倒れて動かなくなった。ほかの男たちが罵声を浴びせながら突進してくる。ハヤトはそのなかの大柄な男一人の鳩尾に膝蹴りを食らわせる。男がえずき、よろめいたところを狙って右側に引き倒す。近くにいた三人が下敷きになる。そのあとも殴りかかってくる男たちをハヤトはいともたやすく迎撃した。



「やっぱり、俺にはこのやり方が一番だな。うん」


 十一人全員を制圧した後、ハヤトは自身の強さを再確認するように両手を開いたり閉じたりする。


「あの……あなたは……?」

「ああ、さっき言った通りただの一般人……と言っときたいところだが、こんな物騒な状況じゃあ怪しいよな。俺は長澤っていうんだ。とりあえず大通りに出よう。俺の妹もいるから安心してほしい」


 二人は歩き始める。歩きながらハヤトは「警察にも行かなきゃな」と言うと女子高生、芹沢は大声を上げる。


「警察はだめです!」


 ハヤトは怪訝そうな顔をする。


「本気か? あんなことがあったのに。俺がいなかったらどうなっていたかわかんねえんだぞ?」

「……はい。それでも、どうか警察には」


 ハヤトは大きくため息をつく。


「いいやダメだ。当の本人がそういっても『はいそうですか』とはいかねえ。それで何かあっちゃ俺の寝覚めが悪い」

「頼りになる人を知っています。その人と連絡とらせてください」

「わかった。だけど、そこでどうにかできなかったら引きずってでも警察に行くからな」

「ありがとうございます」


 白髪の少女、芹沢はスマートフォンを取り出しモモへ電話をかけた。

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