6日目 六も出ない仕事
俺は穴が開くほど読みかえした報告書をまとめたファイルを、それでも何度も開けたり閉じたりしていた。そうしていないと落ち着かないからだ。仕事がうまくいかないときによくあることだが、今回は群を抜いて状況が悪い。芹沢氏についてはもう十分すぎるほど調べた。大和田と同じ大手製薬会社の重役であるが、豪快な性格でその人脈とカリスマの力技で今の地位についた大和田とは真逆で、大学時代から遺伝子に関する研究で優秀な成績を残し、会社でも確かな成果を積み重ね現在に至った芹沢氏。冷静沈着で理知的な人物だが、交流の場ではノリが良い一面があるなど周りの印象もよい。どんなに叩いても塵ひとつ出やしない善人だ。
「こんなんやってられっか!!」
俺は持っていたファイルを思いっきり投げ捨てた。部屋に飾ってあるインテリアにぶつかり派手な音が鳴り響いた。いったん頭を冷やそう。俺は自分のポケットから小さなサイコロを二つ取り出し、デスクの上に転がした。これは自己流の心の落ち着かせ方、おまじないだ。サイコロを回し自分の思い描いた数字が出れば良し、出なければ気が済むまでやり直す。今回はサイコロの最大の目の六を目指したが、驚くべきことに十回やっても六の目は一度も出なかった。
「ろくな結果にならないってことかよ……」
俺は力なく肩を落とした。サイコロが手から零れ落ち、デスクの下に転がっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます