2日目 二つの顔を持つ男

 突如として開かれた扉から男たちが入ってきた。のんきに椅子にふんぞり返っていた俺は何事かと慌てて立ち上がった。スーツ姿の大柄な男二人が扉の左右に分かれ、その間からもう一人、両手をコートのポケットに突っ込んだオールバックの男が大股でこちらに向かってくる。整髪料で整えられたであろう髪がてらてらと輝いている。サングラスをかけていてその目を見ることはできないが、おそらく奴はお怒りだ。それも俺に対してだ。


「これはこれは大和田さん、いかがいたしましたか?」

「いかがいたしましたか、だと? 俺が何しに来たかわからないのか? はっ!」


 大和田はクスリともせず、来客用のソファにドカッと腰を下ろす。


「しくじったな野上」

「しくじっただなんてそんな、芹沢氏の汚点を探してリークしろっていうからその通りにしただけじゃないですか」

「誰が宴会でのどじょうすくいの写真をリークしろって言ったんだ? ネットでは堅物そうなあの男のギャップがウケて好感度が上がってると来たもんだ」

「どじょうすくいだけじゃないですよ。『恋ダンス』も『安心してください、履いてますよ』ネタだって――」

「なあ野上」


 その一言で俺は押し黙った。大和田は手荒なことでも有名だが、そんなことに恐れをなしたわけではない。この男は声音ひとつで人の心を操るような、魔が宿ったオーラをその身にまとっているのだ。表は大手製薬会社の重役、裏では黒い関係をいくつも持つ。二つの顔を持つ男。そんな男と対峙している。いくらこの業界でそれなりの年月情報屋をやっている俺でもビビるときはビビるものだ。

 

「上に立つもので汚れ仕事をしてないやつなんてこの世にいない」

「次は失敗しませんよ」

「言ったな? とりあえずこれは貸しイチ、だ」


 以前、裏社会の知り合いからこんな噂を聞いたことがある。

 大和田と関わった人間には二つの死に方が用意される。大和田に貸しを作ることと、それ以外、だ。そんなことを思い出して俺は身震いした。


「顔色が悪いぞ」

「そんなことないですよ」

「いいや、悪い。そんなにも俺に貸しを作りたくなかったのか? それなら――」


 大和田はポケットから右手を抜きそのまま俺の頭の高さまで上げる。その手にはリボルバー式の拳銃が握られていた。流れるように銃口を俺の眉間に合わせた。


「今のうちに逝っとくか?」


 目の前にいるのにこの男の表情がわからない。俺は唾を呑んだ。

 そして、男は撃鉄を下ろし、引き金を引いた。

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