とある街の降誕節

四方山次郎

1日目 ある運命的な一夜

 運命的な出会いってこういうことを言うんだろうな、となんとなく、そう感じた。


 アパートの階段を上っていると二階から一人の女性が下りてきた。赤いニット帽に白いマフラー、クリーム色のダッフルコートを着込んだ彼女とすれ違う時、ほんの一瞬だったけれど確かに目が合った気がした。日本では珍しい白銀の髪、そして吸い込まれるような黒い瞳。階段の折り返しまで来たところで僕は立ち止り、一拍おいて振り返った。けれどそこには彼女の姿はなかった。

 僕はため息を漏らした。白い息が宙を舞う。自分が何か思い立ち立ち止ったように彼女も立ち止まっているんじゃないかとひそかに期待していたのだ。

前に向き直るとちょうど満月が真ん前に見えた。深い紺色の夜空に輝く星は、今すれ違ったばかりの彼女を想起させた。


「……さっむ」

 

 何となく虚しさを覚えた僕は部屋の前まで足早に向かった。

 そして、鍵を差し込み、ドアを開けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る